信用しかない僕の世界を綺麗にする方法

某凡人

 

夕暮れ時の日差しの校舎。

季節外れの夕立は日差しと関係なく降っていた。

雨の音の中、血だまりの中で僕は涙を流していた。

そこに警察の掛け声やドタドタと足音が聞こえてきた。

「あっ…あぁっ…」

そんな声にならない声を振り絞って僕は警察官に血塗れの手で縋った。

「どうしたんだ!なにが…誰がこんなことを!!」

調査の末に凶器は学校の近くの川に落ちていた。

それは包丁だった。

検査の結果、指紋は検出されなかった。


大きくニュースに取り上げられたりもした。

その事件の2人の生き残りの1人の僕も。


そう、これが後に有名な「□□□学校大量殺人事件」だ。



ー数時間前ー



夕暮れ時の下校時間。

あらかた皆帰ったであろう時間だ。

僕は□□□□(検閲済)

□□□学校の3年生だ。

至って普通の学生だ。

特徴があるとすれば信用されやすいぐらい。

よく言えば親しみやすい。

悪く言えばめられやすい。

2年生からは「よっちゃん」のあだ名でよく呼ばれてる。


自己紹介はこれぐらいで済んでしまうくらい特徴がない。


それもある意味良いことなのかもしれない。


「よっちゃん!」


遠くの廊下から手を振ってきた人物は

日野ひのかえで

僕の幼馴染みだ。

今日、この場所で手紙で呼び出していた。


「用事って?」


「あぁ、それは好きだった…」


言いかけた瞬間、彼女はぐらっと体勢を崩して倒れた。


彼女の死角から睡眠性のガスを吹きかけた。

もちろん見えていない、そのはずだ。

自分の荷物と彼女の荷物を持ちながらおんぶして自分の教室に向かう。


「おい、□□それ、日野は大丈夫なのか」


後ろから話しかけられる。


「あぁ、椿山先生」


椿山先生、体育の先生だ。


「家が近いんでいつもこんな感じですよ」


愛想笑いしながら答えると

「そうか」

と階段を上がっていった。

偶然にも見られていなかったみたいだ。


教室の扉を左手でガラッと開ける。

きっとこの教室の扉を跨ぐのもこれが最後だろう。

彼女をロッカーに荷物と一緒に入れる。

これで大丈夫だろう。


制服の懐から包丁を

ポケットからは黒い手袋を出した。

この時の為に作った手袋だ。

後は…


階段を少し早めに上がっていく。


「椿山先生」


こちらを振り向く瞬間、

階段の踊り場、学校の階段と廊下を繋ぐシャッターを降ろすこの瞬間、振り向きざまに喉元を切り裂く。

更に確実になるよう足の健を切る。

喉元をまず潰すのは助けを呼べなくするために、足の健は動けなくなるように。

後は多量出血で…と誰かが言っていた。

声も出せない。

手の力強さが無くなっていく。

血が床一面に広がっていく。

日常が崩れていく感覚。

人を初めて殺したこの感覚。

それがどういう訳か少し嬉しかった。


次の目標はすぐ近くに来ていた。

階段から降りてすぐだった。

「椿山先生が!

不審者に!

すぐに職員室に!」

血塗れの制服の説得力からなんだろうか。

そういっただけで居残っていた唯一1人の生徒、山田やまだ翔也しょうやは背中を向けてくれた。

バレる焦りのおかげだろう。

普段は出ないような足の速さですぐに喉元を

に手を添えれた。

後は片手に持っていた包丁で切り裂くだけ。

包丁の切れ味が良いからなのか魚の神経が締まった時みたいにビクビクと痙攣してる。

2人目からはなんとなく心臓の鼓動がより近くに感じた。


他に残ってる人がいないか辺りを見回すと下の廊下に2人生徒がいた。

僕をよく慕ってくれた後輩達だ。

僕は一旦教室に立ち寄って予め持ってきていた新しい制服に着替えた。


「やぁ2人とも」

そう声をかけるとあちらも気がついたのか駆け寄ってくる。

「よっちゃん!椿山知らん?!」

走りながら声をかけてきた一人目の脇腹を隠し持っていた包丁で刺した。

「ぐぶ?」

と音を立てながら口から血を大量に吐いた。

狙ったのは鳩尾、その斜め上。

まず助からないだろう。

もう1人は既に捕まえている。

口の中に手を入れられると思ったよりも動けないものであっさりと喉元を切り裂かせてくれた。

もちろんさっきの2人より年は若いし体も強いだろうから背中の肋骨の隙間から包丁を通す。きっとこれで確実に死んだだろう。


後は職員室に先生が2人。

確か見回りは6時くらいから来るはずだ。

それまでは今日は先生3人。

2人の先生についても対策はしてある。

駐車場に出て車の陰に隠れていると1人が職員室に近い扉から出てくる。

この先生はこの時間に煙草を吸いに駐車場まで出て来る。

それも分かっている。

後は喉元を軽く包丁で掻き切った。

血が指を伝う。


最後の1人、最も生徒達から慕われてる。

悪く言えば嘗められてる先生。

荻原先生だ。

きっと職員室で寝ていることだろう。


ガラガラと扉を開けた。

昼間によく先生と飲み物を買って買われての信用を利用したやり方だ。

プレゼントしたコーヒーが床に流れている。

後は簡単な話だ。

包丁で後ろから

真ん中を通るような位置で

貫いた。


血塗れの中で手の平を見てみた。

今まで見てきた何よりも赤くて 黒かった。


虐められた過去よりも


暴力を振るわれたあの夜よりも


社会的死を味わった授業よりも


赤くて 黒かった。



包丁は川に投げた。

自分の腕や太腿を刺した後に…

きっと包丁は見つかるだろう。


制服はもう一回着変えて所々ところどころ荻原先生の血を付けた。


手袋と予備の制服は普段野焼きしている畑で

証拠が残らないよう燃やした。

正確には燃やして貰った。

全部計画通りだった。

時間通りに野焼きする事も計画の内だった。

気がつかれないように

ドラム缶の中に入れて

終わった後、灰も混ぜたし問題無いだろう。


後は目薬で涙を流しながら荻原先生の血だまりの中で電話をかけた。




ー病院にてー


「続いてのニュースです。」

もっぱらニュースは事件の事が多い。

僕は親友をロッカーに隠したとしてヒーロー扱いされていた。

僕もそう言った。

親友は後ろから殴られて気絶した所を庇いながらおんぶして逃げたって

きっとそうだろうと親も親友も言ってくれた。


学校はしばらくは休校になるそうだ。

「ありがと」

そう照れながら言ってくる幼馴染み。


病室から見る少しでも僕を見下すような人間がいなくなった世界は少しだけ綺麗だった。


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