第2話
───三年後───
学院に入学した十二歳のルークは最高学年の教室へといつものように訪れる。レオナルドを迎えにルークはいつも来ていた。
「お兄さま! いっしょにかえりましょう!」
天使スマイルで高学年の教室にひょこっと顔を出す。ヒロイン登場の物語は何年も先だが、ルークがバッドエンドの原因となるC王子との出会いはそろそろ。
だからそうなる前にレオナルドの好感度を最大値まであげて、いつか訪れるかもしれない養子入りだけは潰そうという考えだ。
「ルークくん可愛いわぁ」
「さすがは名門スペアード家のご令息ね。兄弟が揃うと麗しいわぁ」
ふふっ、そうだろう。
なにせこの容姿はロリ・ショタ好きのレオ先生が最高に可愛く仕上げたから可愛いのは当然だ。最初はこの容姿や高い声、あざとさに戸惑ったが今となってはお手の物。
「ルーク、今日は俺が迎えに行く番だったろ?」
レオナルドはルークの手を握り、視線を合わせながら問いかける。
「ごめんなさい…。ボク、お兄さまにはやく会いたくて…来ちゃったの」
「ルーク…」
「あのね、お兄さまを困らせたいわけじゃないのです。ボクは、ボクは…お兄さまのことだいすきだから、早く会いたくて…」
瞳を潤ませたルークをレオナルドはぎゅっと抱きしめる。
「ありがとう、ルーク!」
ふっ、ちょろい。
ルークはレオナルドの腕の中で密かに口角をあげた。三年もやり続ければ慣れてもくる。
俺はこの世界を創ったんだ。ルークのことなんて自分が一番わかっている。
………☆☆☆………
「おやすみなさいませ、ルーク様」
「おやすみぃ…」
──パタンッ…。
ドアが閉まり、使用人が出ていったのを確認して、ルークはベッドから起き上がった。
「あークソ。寝れねぇ…」
ルークは十二歳の子どもだ。でも中身は三十過ぎのおっさん。
多分、この状況は紛れもない転生。
しかし、わからないのがレオのことだ。南雲はビル火災に巻き込まれて死んだが、レオと一緒にいたわけではない。転生する時期ってのはずれるのだろう。レオがそのあとに寿命でも迎えて死んだのかもしれない。
「ん…? そういやアイツどこにいるんだ?」
スラム街のアリア。
彼女はもう王女になっただろうか。隣国の姫と出会い、その父に救われて王女となる。そして十七歳にこの国の学校に通うことになって王子と親しくなるのだ。そしてその一年後に転校生のヒロインが現れて…っていうド定番の守られお姫様キャラだ。
ただ、レオがアリアをしっかり演じていれば。
「…ねぇな」
なんとかして髪切って、女性用ではなく男性用の衣服を着ていそうだ。
王女になんてならずに生き永らえて…。
「いや、それもないか…」
アリアが存在しない、ということはまずない。アリアは主人公のライバルキャラだ。ヒロインに恨まれることがあっても、ヒロインを恨むことがない心優しい少女。
だからルートによってはありもしない罪を着せられて、ギロチンにかけられる。それくらい優しくて聖人のような子だ。
そんな子を、前世の記憶を取り戻したレオが演じれるわけがない。縛られることが嫌いで自由奔放に仕事を選んでいたヤツだ。服装だってボーイッシュで長い髪が大嫌い。男に媚びるなんて真似は絶対にしない。
アリアのように優しくやわらかで天使のような笑顔を向けるなどできるわけがない。死亡フラグがたっても運命を受け入れたアリアとは全くの逆だ。
絶対に発狂して逃げ出すに決まってる。
プライベートでの付き合いはなくても、仕事で多くの時間を過ごしたんだ。レオの性格くらいわかる。
───シェアピーノ王国 アリアの部屋──
その頃のアリアはというと…。
「おやすみなさい、アリア。また明日ね」
「シャル様…、ありがとうございます」
「様付けしないでって言ったでしょ! アリアはもう私の妹なんだから呼び方はなんだっけ?」
「…はい、お姉さま」
「うん、おやすみ! アリア」
「おやすみなさいませ、お姉さま」
綺麗な銀髪のこの国のお姫様、シャルが部屋を出ていくのを確認して起き上がる。
布団をはいで、足を組んだ。
「つっかれる…」
十二歳のお姫様がする恰好ではない姿で、アリアは両腕を頭の下で組む。可愛らしいスカートがめくれるが気にしない。なぜならここには誰もいないから。
「南雲先生は何をしてんすかねー。心配しなくてもよろしくやってそうだけど」
南雲、いや今はルークと呼ぶべきか。
南雲先生の幼少期を知っている身としては、ルークというキャラクターと当てはまる。プライベートでの付き合いはなかったが、彼の姉貴とは親友で南雲先生の話をよく聞いていた。
なにせルークの兄、レオナルドと同様に弟大好きで写真も見せられていたから。学校で見かけたときは、小悪魔のような笑みで彼らをバカにしながらご学友の方たちとお話をされていた。
「ルークに関わるのだけはやってないんだよなぁ…。どうやって死亡フラグを回避しよ…」
うとうととまぶたが重くなる。
ハッとして布団を引っ張り、寝落ちしてもいいように寝相を整えた。
さすがにあの恰好で眠ってたら、この家を追い出されるかもしれない。シャルに『偽物』だとか『悪魔がとりついた』とかって言われて殺されるかも。
「はぁ…マジどうしよ…。南雲先生に聞けばわかるかなー…」
なんて思いながら意識が遠のいた。十歳の子どもはもう寝る時間らしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます