5.生活
彼女と一週間ほど生活をしていると、色々なことがわかった。
彼女は、僕と出会ったあの場所で自殺をした。そして気づいたら幽霊になっていたらしい。
他の幽霊は見たこともないそうで、人間でも彼女の存在を認識できたのは僕が初めてだということだった。
ある時、急に「敬語は取れてきたとして、そのあなたって呼び方やめてほしいかな」と彼女がいうので、呼び方を決めることにした。
生きていた時の名前を聞いたが、教えてくれなかった。知られて困ることでもないだろうに。
「じゃあ幽霊のレイ」「花子」など適当に思いつく幽霊っぽい名前はお気に召さなかったようで、いくら挙げても彼女は無言で首を横に振った。
思いつく名前が出尽くしたところで、無言の時間が続き、空気を変える為カーテンを開けると、雪が降っていた。
「雪」と呟くと「え」と短く彼女が言った。
彼女の方を振り向いて「雪でいいじゃないですか、じゃん」と慣れないタメ口で言うと、少し驚いたような表情を見せたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「雪かあ、いいじゃん。今の私真っ白だし」という一言で、幽霊の彼女のことを雪と呼ぶことにした。
僕の名前が光り輝くとかいて「こうき」だと知った彼女は「真逆じゃん」なんて大笑いしていたが、その通りだと思うので何も言えなかった。
あと他の幽霊はわからないけど、雪は触る対象を決められるそうだ。人や物のことを「触りたい」と思えば触れるらしい。
ただ、人間に触れるのは相当疲れるから「なるべく死なないようにして」と言われた。不謹慎かもしれないけれど、生きてる僕より楽そうだな。なんて思った。
それから彼女は僕に自殺しようとした理由を聞いてきた。
「死にたかったわけじゃない」と誤解は解けたようだったが、真面目な顔で「じゃあ生きててよかった?」と聞いてくるものだから「別に生きたい理由もない」なんて、正直に答えてしまった。
「そっか、しまったな」と彼女は独り言のように呟いた後「生きたい理由、見つかるといいね」と言った。
彼女は明るくてお喋りで、笑顔がすごく綺麗な子だった。
そして彼女のことを知るたびに、こんな子が、僕を助けたこの子が自殺を選ばなければいけなかった理由が頭から一つずつ消えていった。
ただ彼女と違って、本人に死にたがった理由を聞くことはできないから、考えることをやめた。
代わりに、ふと気になったことを聞いてみた。
「死んでるってどんな感覚なの?」と尋ねると、雪は少し考えた後に言った。
「夢を見てる感覚とにてるかなぁ」
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