3.想定外
次に目を覚ましたのは、前に時刻を確認した時から三時間程が経過した後だった。
起きるのがもう三時間ほど遅かったら凍死でもしてただろう。鼻の奥にツン、と刺さる夜の寒さのせいだろうか。そんなことを考えられるくらいには、先程より意識がしっかりしていた。
身震いをした後、留めようとした上着のボタンがすでに閉まっていることに気づく。
自分以外の存在がこの場所にいたことを思い出し、バッと起き上がった。
「さっきはごめんね」へへ。と笑いながら僕の顔を覗き込んだ。
「えっと、あなたは幽霊なんですか」と聞くと、驚いた顔をして「うん」と言った。
「もっと怖がると思ったけどね」とつまらなそうに言う。コロコロ表情の変わる幽霊だな。なんて思った。
「幽霊って人を助けるんだね」
「君が死にたがってたなら助けたことにはならないかもしれないけどね」
また笑いながら言う。「別に死にたかった訳じゃないけど」と否定するのも面倒だったから、それについては触れなかった。
最初は自分の気が触れたのかと思ったりもしたが、会話が成立してることだったり留まっているボタンを見て、彼女が幽霊であることは信じなければいけない事実のようだった。
ただまぁ、それでもいいと思った。ここから先の人生でこの場所に来ることはないだろうし。
「じゃあ、助けてくれてありがとう幽霊さん」とだけ言って彼女に背を向けた。
幽霊があんなに気さくだと思ってなかった僕は、これから先の人生で幽霊が見えるようになったとしても別にいいか。と思ってた。母さんにもまた会えるかもしれないし。なんて、楽観的に。
バス停まで歩いたのはいいものの、当然こんな時間に走っているバスはない。家までの数キロに及ぶ道のりを仕方なく歩くことにした。
「幽霊を見た帰り道、絶対に振り返ってはいけない。憑いてきてしまうから」
どこかで聞いたことのある迷信は、やはり迷信だったようだ。
僕が歩く半歩後ろを、当然のように彼女はついてきた。彼女曰く「君が帰り道、また自殺をするんじゃないかと思って」とのことだった。
そう語る彼女の目は輝いていて、その理由が適当にでっちあげたものであることは僕にもわかった。
「地縛霊とかみたいに、その場所じゃないと存在できない訳じゃないんですね」と聞くと彼女は。
「なにそれ?もしかして君、幽霊に詳しい人?」と言っていた。
そこからは特に話すこともないのでひたすら歩いていたが、風で揺れるビニール袋とか、草むらを歩く猫の足音などに、彼女はいちいち驚いていた。
きっと彼女は、誰もが想像上の幽霊からはどう見たってかけ離れすぎていた。
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