第8話
「どうかした?」とみんなが顔を覗かせる。
「ちょっと立ちくらみしてたところで、もたれてたドアが急に開いたから」と美術教師は説明した。
「あ、なーんだ」と俺は納得した。
すると、女史はくすっと笑って、その笑い方がものすごく冷たかったけれど「生きててよかったですね」と言った。
俺は少し背筋にすうっと冷たい風が入ってきたような気がした。
(生きてて? よかった? なんか…生きてない可能性がありってことなのか?)
俺が思ったように、何か違和感を感じたのか美術教師が少し驚いたような顔で聞き返す。
「え? あ…あぁ」
「あの…念のため、保健室に行かれては? どこかぶつけてるみたいですし…。打ちどころが悪いと、怖いですからね。社会科準備室行くついでに保健室同行もお願い」
「あ? え? 先生は一人で行けるでしょ?」
「ほら、途中で倒れるかもしれないし…」と初めてまともに会話した気がして思わず頷いてしまった。
俺は先生に「行きますか?」と声をかけた。
二人で保健室に向かうことにしたが、女史はそのまま、美術室に残っていた。
振り返ると、開けっ放しの窓にもたれて、こっちに向かって軽く手を振っていた。
(早く行け)と言われているような気がして、なんとなく気になったけれど、俺はクラブ活動に大分遅れていることの方が気掛かりだった。
(さっさとこの教師を送って、社会科準備室にも寄って…あれ、なんで? 俺がこんなことを)…と思ったけれど、もう女史の言われるがままに動いていた。
何だかそういうことも腹立だしく思えてきた。
(もう絶対、関わりを持たないことにする)と何回目になるのか、また心に誓った。
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