第4話

一瞬、須藤清香が俺を見て止まった。俺が止まったのかもしれない。髪もマロン色だが、目も薄茶色で色素が薄い。その目がスッと横に細くなって、綺麗な笑顔を作った。その笑顔に何も出てこない。わずかな時間だったと思うけれど、永遠に感じた。


「ありがとう」と言ったかと思うと去っていった。


(え? ありがとうって? 拒否の言葉だっけ?)と呆気に取られて、俺は純を見た。


「え? なんで誘った?」と純に聞かれる。


「いや、なんか…外部生だし…あれかな? とか思って」


「余計なお世話なんじゃない? ほら、親と食事とかあるのかも?」と気まずさを誤魔化すように美緒が言ってくれた。


「そっか。そうだよな」と軽い鞄を肩にかけて、教室を出ることにした。


 それが俺にとって、須藤清香。彼女との初めて会った日の出来事だ。余計なお世話だったようなので、もう関わらないでおこうと心に決めた。


 決めたはずなのに…。

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