第3話

後ろの扉が開いて、開けられた窓と一直線で風が通る。誰もが振り返ったと思う。


 桜の下にいた彼女が入ってきた。


「おーい、遅いぞ」と担任の先生が言う。


「すみません。迷ってました」と淡々とした口調で彼女が言った。


 彼女は目を細めて、口を引き結び、注意した担任の方が少し押されるような空気感があった。


「そうか…。早く、座れ。窓際の…前から三番目」


「はい」と言って、特に急いだ様子もなく、スルスルと机の間を抜けて座った。


 誰かが「あの子、学年代表の挨拶してなかった?」と言った。


「そろそろ、自己紹介を始めるぞー」と担任が言う。


 ほとんどが内部生なので、今更とは思ったが、数少ないとはいえ外部生もいるので、自己紹介が始まる。みんな知ってる顔ばかりで、緩んだ自己紹介が始まる。中学の頃のクラブや、好きなことを一言添えて挨拶していった。


 あの遅れてきた彼女は


須藤清香すどうきよかです」と名前だけで、すぐに着席した。


 みんな何か言いたかったが言えない空気で、静まり返った。


 俺の番になったので、いつも通りの大声で


「アメフト部に入ってました。高校も続けます。吉田勇希よしだゆうきです。よろしくお願いします」と言った。


 ごく普通なことを言っただけだった。なのに教室の中から笑いが起こる。慣れた者同士の、よく知っている人間同士の居心地のいい雰囲気だ。

 その後、いろんな書類をもらって、今日は授業もなく帰宅となる。


「カレーパン、いつにする?」と隣の女子に話しかける。


 彼女は佐々木美緒ささきみおという名前だった。


「今日でもいいけど…。時間があるなら、マック行かない?」


「いいけど…」と俺は振り返って、後ろの席の渡辺純わたなべじゅんにも声をかけた。


 何となく二人きりで行くのが恥ずかしく感じたのだった。


「マック? いいよ。賭けの分?」


「自分で出すよ」と美緒が言う。


 その時、たまたま俺の横をあの須藤清香が通り過ぎたので、思わず声をかけてしまった。


「一緒にマック行かない?」

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