第7話 狂い




 俺は人間を2人殺した。

「目には目を、歯には歯を、暗殺には暗殺を」

ハンムラビ法典で言えば正当防衛である。

そんな自己正当化を一蹴してしまうほど、俺の抱いた感情は全く違うところにあった。


それは快楽と達成感だ。


俺は現代社会に染まりすぎて忘れていた。

所詮、全ては「生きているか」、「死んでいるか」の二元論で語れると。

そしてそれは「強者か」、「弱者か」ということが本質であり、その自己認識こそが快楽の本質であるのだ。


「あぁ、この世界に来てよかった。俺はやっと生きる意義を感じられた。

虚無的で無意味に複雑なあんな世界より、こっちの世界の方がよほど残酷で、劇的で、本来あるべき世界じゃないか!」


意識は明瞭であった。

あまりの興奮と余韻から寝られそうにもなかった。


先ず死体をどうしようか。

部屋の地面は血の湖と化して、もう証拠隠滅は不可能だった。

ロビーにはおじさんが石のように硬直している。

今すぐには、出られそうもない。


首のない死体を漁った。

ローブには、王座の間で報告していた彼女が付けていた金の紋章が付いていた。

敵は国王だろう。

しかし、なぜ、こんな回りくどい真似をしたのだろうか。

あの場で、処刑してしまえばよかったのに。

新たな殺さないといけない事情ができたのか。

考えても結論が出そうになかった。


続いて、脳天を撃ち抜いた男性を見る。

左手薬指には、指輪がはめられていた。

この人の胸には銅の紋章が付いていた。

そこには、「アルタ・ヴェール」と刻まれていた。

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