第4話 少女リア




 明らかに浮いた服装で街を出歩いていると、

道のはじに金髪の少女が泣きそうな表情をして、耳を塞いで俯いているのが見えた。


無視して歩もうとしたが、気がつけば少女の前にいた。


「親とはぐれたの?」


俺に気付いた少女が顔を上げると、その目は黄色と薄緑のオッドアイだった。


「うん……」

同時にお腹も鳴った。

「独りで泣かずによく頑張ったね。」

適当に褒めて、恐る恐る頭を撫でた。


注意をそらせて、気晴らしになるように試みてみる。


「見て。

この手の平には、1枚の金貨があります。握りしめて魔法をかけると……

ほら、消えました。

ここら辺のどこかにあります。見つけたら特別に差し上げましょう。」


少女の目に輝きが戻り、嬉々ききとして探していると、頭から金貨が落ちてきた。

その物音に気づき、少女は銀貨を見つけた。


「あったーーー!!!」

「それで美味しいものでも食べてきな。」


立ち上がって、散策を続けようとすると、少女は自分の裾を掴んでいた。


「一緒に食べよう……」


確かにこのまま孤独にさせて、一人で注文させるのは酷な話だ。


「奢ってくれるならいいよ。」

「うん!!特別に奢ってあげる!!」


少女は笑顔を取り戻した。



俺と少女は、屋台と親を探しながら歩いた。


「お兄さんは、どうして私を助けてくれたの?」


なんだか、不気味な質問だった。


「自己満足かな。」

「じこまんぞく?よく分からなーい。」

「そうだね。」


どうやら、串焼き店のような屋台があった。


「店員のおじさん!サムホルム牛の串焼き2つ頂戴!」

「あいよ。」


店員のおじさんが、慣れた手つきで、串焼きを網で焼いていた。


「はい。銅貨8枚ね。」

「これで!」と言って、少女が金貨1枚を差し出すと、店員のおじさんは少し驚いた顔をして、銀貨9枚と銅貨2枚を少女に返した。


店員のおじさんは、少女に奢らせている大人の姿を見て、少し軽蔑するような眼差しで俺を見た。


「サムホルム牛の串焼き」とやらは、筋が硬く、油の独特の臭みを持ち、正直好みではなかったが、少女は美味しそうに頬張っているのを見ると、なぜか美味しく感じた。


「そういえば名前を聞いてなかった。俺はアサヒっていうんだけど、君は?」

「ワタシは、リア・ヴェール。「リア」って読んで。」

「よろしくね、リア。」

「うん!アサヒ!」


「リアは何してたの?」

「お母さんとお買い物。」

「お父さんは?」

「お父さんは騎士様として王様に仕えてるんだって!」

「それは凄いね。」

「うん!それで、私は将来お姫様になって、お父様に守ってもらうの!」

「そっか。きっとお姫様になれるよ。」

「本当?頑張る!」



そんなことを喋りながら、ちょうど食べ終える頃に、目のクマのすごい金髪の女性と、どこかで見覚えのある金髪の男性がこちらを見ていた。


「あの人たちは……」


少女が俺が指さした方に視線を向けると、その方向へ走って行って女性と男性を抱きしめた。

俺はそれに付いていった。


「ありがとうございます。リアと一緒に居てくれたんですね。」


誘拐犯だと思われてなくて良かった。


「いえ、大丈夫です。リアさんがとても上手にお話ししてくれたので。」

「はい。本当にありがとうございます。ほら、リアも感謝して。」

「ありがとうね。アサヒ!」

「うん。またね。」


そう言って、リアは両親と手を繋いでどこかへ行った。

一度こちらを振り返り、大きく手を振った彼女の笑顔は、前を向く一瞬、物憂げなものに変わって見えた。


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