第5話 素材屋




 瓶のマークが書いてあり、その下に「素材屋」と書かれた店を発見した。

木製のふちに入口一面が擦りガラス張りになっている。


入店した。


扉の鈴が鳴ると「いらっしゃい。」と言うおばあさんの声が奥から聞こえた。


手前の扉側には、植物が陳列されており、店内はコンビニのように棚で区切られている。



この植物らは、回復薬の元や魔法の植物だろう。

見たことない奇形な植物や、少しうねって動く、生きているような植物などもあった。


適当に棚を見ていくと、目についたのは合金の糸巻に巻かれた、とてもきれいな糸があった。


それは一見存在しないかのように透明ながら、光の反射によって何とか視認することができた。

手に取ってみようとする。


「手ぇ切るよ。」


少し体が震えた。

その声の方を向くと、おばあさんが後ろに立ってた。


「それはね、銀蜘蛛ぎんぐも鋼糸はがねいとって言って、いつもは柔らかいんだけど、強い衝撃で物に触れると急に硬化して、簡単に肉を断ててしまうんだよ。

それを聞いたときは、『糸の軽さと鋼の硬さを持つのであれば、チェストプレートにぴったりじゃないか!?』と思ってね。

しかしどうやら、どうやってもハサミで切れないし、『どのくらいの強い衝撃で硬化するのか』、というのがあまり分かってなくて、指を切っちゃう子がいたりして、『無理だ』って言われたのよ。

さすがに厚手袋をしながら裁縫は出来ないし。

武器にするにしても、こんな細いんじゃ使えないだろうと思って、断念してるんだよ……

今なら金貨5枚のところ、金貨3枚にするよ。」


なるほど。確かに蛇腹剣として使うには細くて長すぎるし、ムチにしては殺傷能力が高すぎる。

こういう糸といえば暗殺者の武器という印象があるけど、技術の専門性が高すぎて扱える人がまず少ない。

よって、需要がない。


おばあさんが、不敵な笑みをしてきた。


「そ、それなら、これと厚手袋をいただきます……」


流石に気圧けおされてしまった。


「それと、毒薬と解毒薬、大きな袋と、のり、ありますか?」

「まさかあんた、拷問でもするんじゃないだろうね〜」

「いやまさか……」

「あるよ、買ってき。」


俺は、毒蛇の唾液、解毒ポーション、老木の樹液、馬の革、銀蜘蛛の鋼糸、厚手袋を購入した。


合計で金貨4枚と銀貨3枚の出費だけだった。


購入した物を馬の革で包み、店を出ると、路地裏から一瞬、顔を隠す人影が見えた。

やはり、誰かに付けられているらしい。


もう空は夕焼けに染まっていた。

正面には「魔道具屋」と書かれた看板があったが、体力的にも経済的にも底を付いき始めていた俺は、宿を探しに歩みを進めた。

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