Episode002 『うちゅうじん』との邂逅
その少女は、綺麗な翡翠色の髪をしていて、それを肩甲骨の辺まで伸ばしてある。
肌は白く、強く触れれば壊れてしまいそうな印象すら抱かせた。
俺はその姿に、思わず釘付けにされてしまっていた――。
……とそこで俺は我に返り、とりあえずどうするべきか悩む。
まずは、この少女の正体について訊くのが最優先事項なんだろう。
だが、もしかすると、あの地面に突っ込んでる流星だと思っていたモノは、俺にしか見えていない幻想なのかもしれないし、逆に、少女がそのことにすら気付いていないレベルの鈍感さんの可能性もある。
何より、その美少女の姿が仮の姿なのかもしれないのだから、むやみに近づいてしまっていいとは考えにくい。
それこそ、近付いたところをパクッといかれるかもしれない。
急に現れた非日常の犠牲者第一号に、それこそ、マミられるという悲惨な死に方で死体になりたいなんてヤツは、この世にそうそういないだろう。
俺だってそうだ。
……だが、『恋は駆け引き』という言葉があるように、俺は、その少女を信じて、接してみるべきなのかもしれない。
貿易だって、最初はお互いの信用なんてあってないようなものだ。
その中にお互いの損得を見極めていくんだから、似たようなところがある。
つまり、最初から信用しないということは、大きな損を生む要因になるのだ。
だからこそ、俺の踏み出した一歩目には、迷いは少なかったと思う。
俺はさっさと公園の中に入り、少女目掛けてあるく。
できるだけ、警戒させないよう、何となくで来たのを装って。
そして、俺が遂に話しかけようとしたとき、彼女は言った。
「あれ? もしかして、ホントにわたしたちと姿の似てる生命体がいる星に来れちゃったって感じなのかな?」
……この言葉で、彼女の正体に気付けないヤツは、それこそバカを極めている。
何を彼女が言ったのかと言わせてみれば、要するに、『自分たちと同じような生物のいる星を探していた』ってことなのだ。
そこで確定するのは、まず、宇宙人か何かの類だということ。
俺は今まで宇宙人の存在を信じていなかった――だからこそ『宇宙研究部』に入った――のだが、どうやら、これは信じるしかなくなってしまったようだ。
別に、そのこと自体が嫌なんてことはない。
だが、あまりにも唐突すぎる種明かしに、俺は唖然とせざるを得なかった。
そんな俺を目の前にしつつ、少女は続ける。
「その様子だと、わたしの言葉は通じてるみたいだね。流石はわたしたちと姿が同じなだけあるね~。……わたしはサリア。ちょっと遠くから来た、異邦人だよ♪」
そう言って、美少女……サリアは、可愛く首を傾げてウインクしてみせた。
その姿が、俺にはあまりに尊いものに感じられ、思わず気絶しそうに……はならなかった。
いや、そうなりかけなかったと言えば当然、それは嘘だ。
だが、今はそんな冗談を言ってられる暇はない。
だって、それはつまり、この公園に何かが落下したというのも、本当のことになるということなのだから。
何にせよ、今はこの場から離れないとマズい。
彼女の生存もそうだが、俺だって家で家族が待っている。
というか、もう門限が近い。
この前怒られたばかり――先輩の所為で部活が長引いた――なのだから、小遣いを減らされる……最悪の場合、なくなるなんていう羽目になりかねない。
使い道こそCDと宇宙関係の本ばかりだが、俺からしてみれば、それは『生きる意味』でもあるから、それらを買えなくなるのは嫌すぎる。
さっきからの様子だと言葉は通用するみたいだし、とりあえず……!
「な、なあ! 言葉が分かるなら、ちょっと俺と一緒に早く来るんだ! このままだと、君の自由はなくなるぞ!」
「え? どういうこと? ……あー、もしかしなくても、わたしがこの星で『うちゅうじん』って呼ばれてるからか」
俺が半ば叫ぶようにしてサリアに呼びかけると、すぐに彼女は理解を示してくれた。
どうやら、一方的な翻訳が行われているワケではないらしい。
それとも、もしかすると、その星の言語が日本語と同じ発音やら構成だとか……?
いやいや、まさかそんなことはあるはずはない……って、今はそれどころじゃない!
「そうだよ! なあ、第一発見者の俺が言うのは信用できないと思うが、俺が匿うから、一緒に来るんだ! 君の自由は保障する!」
俺は更に追加で、説得の言葉を投げかけた。
そのとき、俺はやっと、好きな人の為に必死になる気持ちというヤツを理解した気がした……いや、してないんだろう。
俺が感じたのはほんの一部にしかすぎず、本当に覚悟を決めてそういうことを言い、実行に移している男なんて、世界中に少なからずいるだろう。
それに比べてみれば、俺なんて、根本的な解決になることは全くできない。
それこそ、宇宙人を匿っていたとバレれば、拷問が待ち受けているかもしれない。
色々と、俺自身にデメリットしかないことかもしれない。
……でも、好きな人を守ることに、デメリットを考えることも、ましてや理由なんかは、全く不要で、むしろ、余分とさえ言える。
俺がすべきはただ1つ。……行動で示すことだけだ。
なんて心の中で思っていると、少しだけ考える素振りを見せていたサリアが。
「うーん、いいよ! 楽しそうだし、わたしが捕らえられちゃったら、結局この星までわざわざやってきた理由なんてなくなっちゃうからね」
と言って、同意してくれた。
『この星までやってきた理由』というヤツが妙に気になったが、今はそんなことを有徴に聞いてる暇なんてない。
そう、何故なら、既に周囲から人が集まってきているからだ。
幸いにも、俺たちの会話は誰にも聞かれていなかったようだが、このままだと、彼女の正体がバレるのも時間の問題である。
とにかく、今は逃げるに限る。
俺はさっさとサリアの手を握り、そして走り出す。
好きになってしまったた美少女を、ただ守り通す為に。
Episode003 『うちゅうじん』を連れて帰った。
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