第6話 飛行魔法の色々
「ぎゃあ、怖い怖い怖いっ!!」
「あわわっ、暴れないでターラーちゃん、危ないよっ!!」
「ひーんひーん、高いよ高いよーっ!!」
今日はエリカの飛行魔法を試してみようと、彼女の箒の後に跨がったターラーであったが、最初は景色を見て綺麗と言う余裕があったのだが、だんだん高さが怖くなり、パニックを起こして泣き出してしまった。
エリカは箒を揺らさないように、ゆっくりゆっくり地上へと下りた。
ターラーは箒から飛び落ちて地面に両手を付けて脱力した。
「ああ、大地って素晴らしい」
「高い所苦手だったんだね」
「初めて知りました。崖とか大丈夫なんだけど、空中は怖い、エリカちゃんは良く平気だね」
「気を失ったり、位置が解らなくならない限り、落っこちても重力軽減でふんわり下りれるから」
そう言うと、エリカはポーンとジャンプして、タンポポの綿毛のようにゆっくりと落下した。
「すごいっ! どうやってるの?」
「地面の奥底から重力って力が出ていて、なんでもかんでも地面に向けて引っ張っているんだよ。飛行魔法はその重力を操作して飛ぶんだよ」
「そうなんだ、すごいねっ」
ターラーには良くわからないけど、凄い説明だった。
「お前さんは怖く無いんかえ? ソーニャ」
「最初は怖かったけどね、慣れたわよ」
師匠達はテントの前にテーブルを出して樽エールを飲みながら二人の弟子を見ていた。
「何しろね、船よりも速いのよ、空。徒歩で一ヶ月かかる場所に二時間ぐらいで飛べるのよ、多少怖いぐらいは我慢するわ」
「そりゃあ、早いねえ」
ターラーがこっちを見ていた。
「そう言えば、ソーニャ師匠の属性はなんですか?」
「『夜』よ」
「夜、ですか」
なんだかあまり詳しく聞いてはいけない感じの属性だなと、ターラーは思った。
お昼ご飯を済ませた後、ターラーは火魔法組合にやってきた。
「ロッカ先輩! 火魔法に移動魔法は無いんですか」
「あるぜー」
「おおっ」
やってみる事になり、ターラーはカエルっぽいロッカ先輩と中庭に出た。
ロッカ先輩の杖には足場っぽい物がついていて、彼女はそれをカチャンと展開させた。
「手だけで保持すると、すっぽ抜けて落下すっからな」
「おおっ」
「金具は鍛冶屋の魔女に頼め」
「あい」
ロッカは杖の金具に足を掛け、呪文を唱えた。
ズドドドドドド。
と、下腹に来る重低音とまばゆい光と共に火炎が杖から吹き出して、ロッカは天に昇って行く。
まっすぐ、どこまでも登っていく、蟻よりも小さくなった。
見上げているターラーの首が痛くなった。
そして、またズドドドド、と轟音と共にまっすぐ降りて来た。
「どや!」
「い、いえ、その、移動できないんですか、遠くに行くとか」
「火魔法ってのはまっすぐにしか出ない。斜めに射出したら遠くに飛べるが、着陸が難しくてぺしゃんこになる。年に何人かはこの魔法で死ぬ」
斜めに飛んで、その頂点で反対側を向いて、火力を調整して軟着陸……。
確かに大層難しそうだ。
「高い所からの景色は綺麗だし、敵軍の布陣とかを偵察できる良い魔法だぞ、金具を買って覚えろ」
「は、はい……」
あまり覚えたく無い移動魔法であった。
とはいえ、何かの時には使えそうな気もする。
道に迷った時とかね。
垂直に上がって、垂直に着陸するのはそんなには難しくなさそうであった。
鍛冶魔女のテントに行って、足場金具を付けてもらい、午後は垂直移動魔法を練習した。
確かに、高く飛ぶと景色が綺麗で遠くまで見る事ができる。
エリカの後に乗った時と違って、自分でコントロールしてるのでそんなに怖くは無い。
練習中に飛んでいるエリカとすれ違い、笑って手を振り合った。
「さすがに『青』は出力が高いので覚えが早いな。ただ、あんまり高く行くな、空気が薄くなって気を失う。これで年に何人もの魔女が死ぬ」
「魔女は簡単に死にますね」
「練習中の失敗で結構死ぬよ」
魔法は危ない技術なんだなあ、と、ターラーは今更ながら実感した。
夕方になったので、火の組合から出てターラーはテントに戻った。
「じゃあ、魔女の酒場にいくかね」
「はい、師匠」
「いろんな魔女がいるけど、短気を起こして喧嘩しちゃあなんねえよ」
「そ、そんなに治安が悪いんですか?」
「魔女はみんな
ゾーヤはターラーを連れて、西の大きなテントに入った。
テーブルが沢山出ていて、沢山の魔女が飲んだくれて、歌を歌い、楽器をかき鳴らしていた。
ゾーヤは適当なテーブルに座り、対面にターラーを座らせた。
「お前さん、酒は?」
「の、飲んだ事ありません」
「んじゃ、今日から飲め、おねえちゃん、エールを二つ、あと定食を二つだ」
「はい、かしこまりました」
ターラーは物珍しくて辺りをキョロキョロ見回した。
ここに居るのは、店員や料理人を含めて、全員魔女なんだなあと、今更ながら思った。
「そう言えば、風属性に飛行魔法は有るんですか?」
「あるけど、危ねえ、あたしは一回使って死にかけて懲りた」
「そうなんですか」
ゾーヤとターラーの前に木のジョッキに入ったエールが置かれた。
おそるおそる飲んで見る。
わ、苦いけど、まあ飲めなくは無い。
というか喉の奥がかっと火が付いたように熱くなった。
「風は火の反対で、まっすぐ飛ばねえから、風で飛ぶとなるともう、これは大ばくちでよう。急ぎの時にやってみたが、死ぬかと思ったな」
「火はなんか、まっすぐしか飛ばないんですよ、融通が効かないというか、魔法も属性で色々なんですねえ」
エールをぐびぐび飲んでいると、定食がやってきた。
肉や根菜がごろごろ入ったシチューに黒パンだった。
凝った料理じゃないけれども、とても美味しかった。
エールを飲むたびにターラーは愉快になり、シチューを食べ、黒パンを食べ、またエールをぐびぐび飲んで、夜半につぶれた。
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