第4話 夜市の開会式

 ワルプルギスの夜市の開会式は次の日の昼にあった。

 はげ山の天辺が広場になっていて、貫禄のある老魔女が台上で挨拶をし、開会を宣言した。

 激しく花火が打ち上げられ、楽隊が騒々しい音楽を鳴らし、魔女たちは歓声を上げた。


 敷布に座ったターラーの視界いっぱいに無数の魔女がいた。

 空にも沢山の魔女が箒で飛んでいる。


「うわあ、凄いなあ」

「さあ、まずはターラーの魔法の勉強の場からだあな」

「どこで教えて貰えるの? 学校があるの?」

「学校は無い、それぞれの属性の組合がある。今から火の組合にターラーを登録に行くよ」

「はいっ、師匠!」


 はげ山に付けられた石段を下りながら、ターラーはワルプルギスの夜市を見渡す。

 今は昼間だけど、沢山の魔女が行き交って、衣服を買い、屋台で肉串を買って囓り、立ち飲みスタンドで酒を飲んでいる。

 沢山の模擬店と沢山の会合が行われている。

 杖、書、宝石、魔導具、色々な物がバザーのように売られている。


 ゾーヤが連れて来てくれたのは、火のように真っ赤な中型テントであった。

 誇らしげに火の紋章が掲げてある。


「おや、『六枚刃のゾーヤ』、何用だえ?」

「新弟子が火だな、登録に来た」

「おお、そうかそうか、そりゃあ何よりだ、あんたの家系に火が組み入れられるなんざ、なんたる幸運か、あんたかい、新弟子は」

「は、はい、ターラーと言います」


 奧から何人もの魔女が顔を出した。

 どの魔女も赤系統の魔女服を着けている。


「うおお『付け火のターラー』かい、そりゃ剛毅な」

「農民の反乱で五十人焼いたってえねえ」

「縁があって、ゾーヤーの弟子かえ、良いねえ」

「あ、あははは……」


 ターラーは照れ笑いをした。


「んじゃ、夕方まで魔法を教えてもらいな、私は風の組合に顔を出してくるからさ」

「は、はい」


 そう言って、ゾーヤはターラーに金貨を一枚握らせた。


「これは?」

「新弟子は先輩に昼飯を奢るもんだ、これで支払いな」

「は、はいっ!」


 ゾーヤーは手をひらひらさせて雑踏の中に消えていった。


「あはは、まったく昔気質で良い魔女だよ、ゾーヤは」

「あんたも運が良い、あの人は魔女の道々の中でも最上の魔女の一人さね」


 ゾーヤが皆に尊敬されているのを知ると、なんだかターラーもとても嬉しくなった。

 いつもぶっきらぼうだけど、心根は優しい人だと、ターラーはゾーヤをそう思っていた。


「まずは、魔法を見せてくんない、何が使える?」

「ファ、ファイヤーボールが」

「そうかいそうかい」


 年かさの魔女はターラーをテントの中庭に誘った。

 中型テントと思って居たけど、一軒家ぐらいの広さはあるようだ。


 中庭には所々焦げた的があって、魔法を試し打ちできるよういだ。


「まあ、一発撃ってみ」

「は、はい」


 ターラーは杖を構え、魔力を練り上げた。


「ファイヤーボール!」


 バンと大きな音と共に鞠ほどもある火球が飛び、的に当たった。


「ほお」

「勉強もしてないのに、なかなかだね」

「何でこの魔法を覚えたんだい?」

「せ、先生が本の断片を持っていて、そ、それで」

「あー、海賊版の魔術書か」

「良く撃てるようになったもんだね」


 わりとひらべったくてカエルを思わせる魔女が杖を振りながらターラーの前に立った。


「ファイヤボー」


 ズドンという音と共に、ターラーの物より大きい火球がもっと早い速度で飛んだ。


「……凄い!」

「あたしらは、これで飯を食ってるからねえ。火球は基本中の基本だよ。もっと速射性に優れた魔法、『ファイガトリング』」


 ド、ドドドドと無数の小さい火球が発生し、的を襲った。


「とか、遠距離狙撃の『ロングファイ』とか」


 小さいが、とても早い、まっすぐな火球が的を貫いた。


「あと、やらないが、曲射して着地点で地面を焼き尽くす『グレネーファイ』とか、火魔法にも色々あんだあ」

「すごい、すごいっ、私も覚えられますかっ」


 火の魔女たちはゲラゲラ笑った。


「次の夜市までには全部覚えてらあね」

「本当に!!」


 四年後までに、多彩な火魔法を覚えられる。

 ターラーの胸は高鳴った。


 ギシっと音を立てって、シワだらけの老婆が現れた。

 開会式で挨拶した老魔女だとターラーは気が付いた。


「ターラー、あんたは胸で魔法を練ってるね、魔法は腰、子宮の辺りで練る、やってみろ」

「は、はい」

「大婆さま、見てらしたんで」

「おめえらの目は節穴だ」


 ターラーは、魔力を練るのに胸の呼吸と一緒にやっていた、それが胸で練るという事なのだろう。

 腰、下半身、子宮あたりで練れば良いのか。

 下っ腹を意識して魔力を練ってみた。


 あ。


 確かに思ったよりも楽に力強く練れる。

 魔力を子宮から尾てい骨に動かし背骨に沿ってあげ、肩を経由して杖に伝えた。


 キイイイイイン、といつもよりも甲高い作動音がした。

 杖はいつもの赤ではなくて、青色に光っていた。


「青……」

「百五十年ぶりの、『青』だ。ようこそターラー、私ら『火の組合』はあんたを歓迎する!」

「は、はい」


 『青』ってなんだろう、とターラーは困惑していたのである。

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