第7話

 ほのちゃんと二人だけで話をする事になった。

 場所は最初に来たカラオケ店。


 部屋に入り対面の席に座ったが、互いに無言。


 すると、ほのちゃんが――

 「とりあえず、歌ってよ」と、端末を私に向けた。


 気乗りしなかったが、会話の切欠が掴めない私は端末を受け取った。


 曲を入れる。

 ほのちゃんと初めてカラオケに来た時に最初に歌った曲――



  ♪  ♪  ♪



 歌いながら考えていた――


 三年前のここから始まったんだ。

 バンドをやるなんて想像すらしてなかった。

 音が整いすぎてて、バンドと全然違う。

 バンドならもっと雑で、もっと熱い。

 だから……”変身”出来た。

 バンドだったら誰でも良かったのかな?

 多分、違う。


 涙が溢れてきた。

 声も震え、歌を止めた。


 「咲っ!歌ってよ!この曲だけでも!」


 ほのちゃんは肉声で叫んだ。

 その表情から、怒りではなく、嘆願を感じ取った。



 私は再び歌い始めた。

 "カラオケモード"ではなく”本気モード”で。

 正確な音程とか、細かいリズムとかどうでもいい!

 伝えたい想いをただ叫ぶ。

 『なんで終わりにしようなんていうのっ!?』という想いを――



  ♪  ♪  ♪



 息を切らし歌い終えた。


 ほのちゃんは乾いた拍手をする。


 「やっぱり凄いよ……咲は……」


 感慨深そうにほのちゃんは言った。

 どう応えるべきか悩んでいると――


 「ごめん。やっぱり単なる嫉妬。私には無い”何か”が咲にはあって……それが羨ましくって。悔しくて……」


 ほのちゃんは俯く。


 「ほのちゃん……?」

 「なんか、そういうの感じちゃうとさ……。だんだんやる気出なくなって……。一緒にやってれば私もって思ったりしたんだけど、それもなんか情けなくって……」


 はっきり言われると反論出来ない。

 「そんなことないよ」みたいな言葉は、逆効果になる気がして。


 「……でも、批難したい訳じゃ無い。私自身、納得しちゃってるんだ……。だから……本当にごめん」


 ほのちゃんは深々と頭を下げた。


 励ましたい気持ちもある。

 文句を言いたい気持ちもある。

 謝りたい気持ちもある。

 ただ、どれも少し違う気がして……。

 だから――


 「うん……。わかった。話してくれて有難う」

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