第5話

 バンドとしては賞を逃したが――


 『ベストパフォーマンス賞 ヴォーカリスト部門』


 私の得た称号。

 当然、誇らしくはあった。

 運営のミスにより本名が公表されてしまったが……。


 といっても、私生活で話題に上がる事は無かった。

 でも、それでいい。



  ◇  ◇  ◇



 私宛に封筒が届いた。

 送り主を調べてみると芸能事務所?からだった。



  ◇  ◇  ◇



 バンドの皆を集めて封筒を開けることにした。

 興奮する私とは裏腹に皆はどこか浮かない表情だった。

 気に留めず、嬉々として封筒を開けた。

 そして理解した。


 それはバンドとしてでは無く、私個人へのオファーだった。



  ◇  ◇  ◇



 その辺りから、バンド活動は減っていった。

 受験等で忙しいのは知っていたけど、それ以外の見えない隔たりが生じていたような気もしていた。

 当然、私にも”それ”はあった。



  ◇  ◇  ◇



 季節は流れ、高校を卒業。

 バンドの皆も無事に先の進路へ進んだ。


 私は美容師の専門学校へ進学。

 このちゃんと同じ学校となれたのは心強い。

 このちゃんはバンドへの執着が薄いというのも、付き合いやすい理由のひとつ。

 他二人も地元に残る事になったので、バンドは継続することになった。



  ◇  ◇  ◇



 専門学校入学初日。

 新クラス内で自己紹介を行った。


 このちゃんとは別のクラスになってしまった為、心細い。

 私は緊張し、消え入りそうな声で自己紹介を行った。

 『成長してないなぁ』と、感じながら物思いに耽っていた。



 「違ってたらすいません。もしかして、天王山に出てた遠月さんですか?」


 いきなり話しかけられテンパった。

 『天王山って何だっけ?』と。


 「えっ!ええっ(↑)!?え……ええ(↓)」


 文面にしたら訳の分からない言葉で答え、頷いた。


 「やっぱり!!名前を聞いて、声の感じとかで、そうかなぁ?と思ったんです!」


 話し掛けてきたのは新クラスメイトの岡村おかむら 麻衣まいさん。

 彼女もバンドをやってるらしい。

 じゃなきゃ知らないか。


 彼女は緊張している私に気を遣いながら、話を合わせてくれた。

 バンドの話では共感できる部分もあり、少し盛り上がれた。

 ぼっちな学校生活に光が差した。

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