僕の竜魔法を見てもらおう

「ギルベルト様」

「あ……」


 エルザさんが中庭に現れ、僕の秘密特訓が見つかってしまった。


「え、えへへ、こんな時間にどうしたんですか?」


 僕は誤魔化そうとして、愛想笑いを浮かべる。

 秘密特訓のことが知られたら、エルザさんはきっとメルさんに言っちゃうと思うから。


 だけど……きっともう、ばれてるよね。


「……私から申し上げることは何もありませんが、ただ、どうかご自愛くださいませ。ギルベルト様のお身体は、もうあなた様お一人だけのものではないのですから」

「あう……」


 とりあえずは僕の意を汲んでくれたみたいだけど、エルザさんが僕に向ける視線は、少し怒っているようにも見えた。

 それはそれで嬉しいけど、心配させてるんだからちゃんと反省しないといけないよね……。


「その……竜魔法自体は使えるようになったんです。あとは上手く調節さえすれば、きっと問題ないと思います!」


 僕は胸の前で握り拳を作って意気込み、エルザさんに告げる。

 そのためにこうやって特訓もしているんだし、みんなを心配させないためにも頑張らないと。


「……ではせめて、何かあった時のためにお一人で特訓をなさるのはおやめくださいませ。もしどうしてもとおっしゃるのであれば、このエルザめをお傍に」

「で、でも、それだとエルザさんを付き合わせることになっちゃうし……」

「ご心配なく。ギルベルト様に万が一のことがあるほうが、それこそ私自身が耐えられませんので」


 エルザさんの申し出に遠慮しちゃうけど、確かに彼女の言うとおり、心配をかけてしまうほうが駄目だよね。


「その、分かりました。であれば申し訳ないですけど、僕の特訓に付き合ってください」

「かしこまりました」


 僕がぺこり、とお辞儀をすると、エルザさんも胸に手を当ててお辞儀をして返してくれた。


 ◇


「あつっ!?」


 竜魔法の特訓を再開するけど、やっぱりどうしても魔力を制御することができず。右手が大火傷を負った。

 その度に回復魔法で治療するけど、このままじゃらちが明かない。


 唯一の救いは、使用する竜魔法……【フランメ】に必要な魔力が思いのほか少なくて、何度も使い続けることができるってことかな。


「はあ……やっぱり無理なのかなあ……」


 大きな溜息を吐き、僕は肩を落とす。

 竜魔法自体は普通に使えるようになったものの、魔力が制御できなかったらメルさん達を引き続き心配させることになっちゃう。そんなの、竜魔法を習得したとは言えない。


(……せめて傷ついてもいいから、そのことがみんなに気づかれなければいいんだけど)


 僕が魔力の制御にこだわるのは、メルさん達に心配させたくないからに過ぎない。

 たとえ傷ついたとしても回復魔法で治せばいいし、これくらいの痛み、へっちゃらだから……って。


「エ、エルザさん!?」


 エルザさんが僕の右手を取り、慈しむように撫でた。


「ギルベルト様は少々無茶をなさいます。今もあの・・・と同じような顔をされておられました」

「あ、あの・・・って?」

「『王選』においてライナーが放った強大なブレスを受けた時です」


 あー……エルザさんの言うとおり、今から考えれば本当に無茶なことをしたなあ……。

 僕とエルザさんが消滅してしまわないようにと、ライナーの攻撃で受けた傷よりも早く治すことに必死で…………………………あ。


「そ、そうか!」

「あっ」


 僕は思い立ち、右手をエルザさんから話して目標となる壁へと向け、左手で右手首をつかむ。

 竜魔法を使って傷ついてしまうのなら、それよりも先に回復魔法で治してしまえばいい。


 そうすれば、見た・・・は完璧に使いこなしたように見えるから。


「【フランメ】!」


 僕は魔法を唱えると、淡い光に包まれた右手から巨大な火球が放たれ、壁は無残にも溶けて抉られてしまった。

 もちろん、僕の右手には火傷一つない。


「エルザさん!」

「お見事です、ギルベルト様」


 僕は振り返って笑顔を見せると、エルザさんも微笑んでくれた。

 よかった。回復魔法で治療したことはばれてないみたいだ。


 これなら……メルさんを心配させないで済む。


「よおし! もっともっと練習しなきゃ!」


 もちろん、いずれは回復魔法がなくても使えるようになることが大事だから、特訓を怠るわけにはいかない。

 その後も僕は何度も何度も【フランメ】を放ち続け、とうとう魔力が底をついてしまった。


「あはは……ちょっと疲れちゃった……」


 立つ力も失ってしまい、僕はその場でぺたん、とへたり込む。

 でも、竜魔法が使えたことによる充実感で、すごく気分がよかった。


「……竜魔法もそうですが、あまり無理をなさらないでください」

「あはは……き、気をつけます」


 エルザさんにじと、とした視線を向けられ、僕は苦笑するしかない。

 や、やっぱり僕、夢中になると歯止めが効かず、やり過ぎちゃうところがあるみたいだ。


「よ、よいしょっと。それじゃエルザさん、遅くまで付き合ってくださってありがとうございました!」

「こちらこそ、ニンゲンであるあなた様が竜魔法さえも使いこなす瞬間を見させていただくことができ、光栄にございます」

「や、やだなあ……」


 僕はよろけながらも立ち上がってお辞儀をすると、エルザさんがそんな大層なことを言うんだけど。ちょっと恐縮して照れちゃうよ。


「それじゃ、失礼します」


 エルザさんと別れ、僕はメルさんが眠るお部屋に戻ろうとした……んだけど。


(あれは……)


 なんとお城の入り口の陰に隠れながら、こちらを見つめる二つの真紅の輝き。

 間違いない、あれはきっとメルさんだ。


 でも、そうか……メルさんは僕がお部屋を抜け出して特訓していることに、気づいてたんだ。

 それで、ああやって僕のことを見守ってくれて……。


「えへへ」


 メルさんの優しいまなざしがすっごく嬉しくて、僕はどうしても頬が緩んじゃう。

 きっと彼女は何事もなかったかのようにとぼけると思うから、僕もそれに合わせて知らないふりをしよう。


 そして、見てもらうんだ。

 大切な女性ひとを守るために身に着けた、僕の竜魔法を。

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