竜達のクラウスにかける期待
『ハア……ハア……なんじゃ、この程度か』
多くの竜達をたった一人で迎え撃ち、コンラートさんは息を切らしながらも不敵な笑みを浮かべる。
とはいえ、さすがに疲労の色は濃く、このまま押し込まれたら敗北は必至だ。
僕はちらり、と上空を見やる。
『ちょこまかと! 逃げ足だけ速いですね!』
『フン。ファーヴニルと真正面から闘う馬鹿がどこにいる』
メルさんは逃げるクラウスを
あの男が時間稼ぎをしていることは明白だけど、『王選』である以上、僕達が手を出すこともできない。言い換えれば、メルさんが勝利してこちらに加勢することもできないってこと。
つまり……僕達だけで、この状況を打破するしかないんだ。
『やれやれ、ようやくちっとは大人しくなったか? ジジイ』
『何を抜かす! 貴様ごとき、一太刀で充分じゃ!』
威勢はいいけど、青い竜まで参戦してきたらきっとやられてしまう。
何とかして、コンラートさんが回復する時間を稼がないと。
「……ねえ、聞いてもいい?」
『あん?』
「あの男は……クラウス=ドラッヘ=リンドヴルムは、毒を用いてマンフレート前国王を弱らせてから『王選』を挑み勝利した。そんな男を、どうしてあなた達は望むの?」
理由なんて尋ねなくても分かっている。
それはクラウスが、ファーヴニル一族によって世界から隔離された王国を解き放ったから。
竜は……自分達は最も優れた種族なのだと、希望と誇りを与えてくれたから。
『……さあな。少なくとも俺は、クラウス陛下のほうがこれから先面白えことが起こると思ったからだ。マンフレート王の時みたいな、こんなちっぽけな山に閉じこもって細々と暮らすような、そんなつまらねえ毎日は、もう御免なんだよ』
ずっとふざけた態度ばかり取っていた青い竜が見せた、真剣な表情。
きっとたくさんの
それがクラウスの手によって、これまで手に入れることができなかった
一度でもそれを手にしてしまったら、もう放すことなんてできない。
『つーかニンゲンのガキの分際で、よくもまああの気難しい姫さんに取り入ったもんだ。あれか? あの姫さん、
『っ! 貴様! 姫様を愚弄する気か!』
青い竜の言葉に、コンラートさんが激高する。
へらへらとしている青い竜だけど、その瞳は一つも笑っていない。おそらく
『だったら何だよ。いいか、とにかく俺達は、あんな姫さんなんかより、クラウス陛下を選んだってことさ』
「それは、『王選』の結果がどうなってもって意味?」
そう尋ねた瞬間、青い竜は顔を歪めた。
それだけで、答えを言っているのと同じだよ。
やっぱりこの連中は、掟なんて最初から守るつもりなんかない。
ただ自分達が望む……ううん、違うね。自分達にとって
それでも僕達から、『王選』という掟を破るわけにはいかない。
そうじゃないと、僕達の正当性が認められないから。
「なら『王選』なんて馬鹿正直に受けないで、最初から全員でメルさんと戦えばよかったんじゃない? ……あ、そうか。たとえ王国全ての竜が挑んでも、勝てる見込みがないからしないんだね」
『…………………………』
そう告げた瞬間、青い竜は鬼の形相を見せる。
『ベル坊、残念だがそれが事実じゃ。我等竜が束になったところで、姫様に……ファーヴニルに勝つことなどあり得ないんじゃ』
青い竜に
なるほど……結局のところ、ファーヴニル一族がいる限り他の竜が王になることなんてあり得ないわけか。
だからこそ余計に、メルさんのお父さんである前国王を倒したクラウスさんは、英雄視されているのかも。
むしろ
竜は耐性があるだけに、そう思っていてもおかしくはない。
「はあ……要は調子に乗って、
でも、竜達がファーヴニルを倒せるのだと勘違いしてもしょうがないと思う。
たとえファーヴニルさえ死に至らしめる特殊な毒を用いたのだとしても、クラウスが前国王を倒したのは事実なんだから。
(なら逆に、この竜達がメルさんに大勢で挑んだりする可能性はかなり低そうだね)
きっと竜達は『クラウスしかファーヴニルに勝つことはできない』と考えているだろうから、自分達がわざわざ死地に飛び込もうとするとは考えにくい。
もちろんあの男のことだから何か企んでいるだろうし、このままで終わらないことも分かっている。
なら、僕達がここで持ちこたえさえすれば……ううん、この竜達を倒せば、それだけメルさんを助けることができるんだ。
「コンラートさん」
『分かっておる。ギル坊のおかげで、体力も回復できたしの』
グレイブの柄を握りしめ、コンラートさんが口の端を持ち上げる。
分かり切った話をあえてしたのは、全ては時間稼ぎのため。クラウスだって逃げ回って同じことをしているんだから、非難される筋合いはないよね。
『さあ! 気力も体力も充分! 次にわしの得物の餌食になるのはどこのどいつじゃ!』
竜達を見回し、コンラートさんが吠える。
既に多くの竜達は傷つき、倒れていった。こうなると、どうしても二の足を踏んでしまうよね。
そう、思っていたんだ。
――ひゅかっ。
『な……な、ん……じゃ……?』
「コンラートさん!?」
風を切るような音が聞こえたかと思うと、気づいた時にはコンラートさんのお腹に穴が空いていた。
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