勝利しても居場所がない世界
――白い光のブレスが、メルさんに向けて放たれた。
『いかん! ギル坊、すぐに離れ……っ!?』
『心配いりませんよ』
慌ててこの場から離脱しようとしたコンラートさんに、メルさんはくすり、と微笑みながら告げる。
眼前に迫る、光のブレス。
それを。
『な……っ!?』
メルさんは虫でも追い払うかのように、右手で上空へとはたいてしまった。
うわあ……あんなにすごいブレスでも、メルさんにかかれば本当に大したことないんだなあ……。
今更だけど、メルさんの強さをまざまざと見せつけられた気分だ。
『あら……まさかこれで終わりとか、そんなはずないですよね?』
『クク、当然だ。あのマンフレート王すらも
なおも余裕の笑みを浮かべ、クラウスは一気に詰め寄る。
それをメルさんは不遜な表情で見下ろしたかと思うと、不敵に笑い、牙を見せてなめずった。
『ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!』
『グウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!』
雄叫びを上げ、黒と白の竜がぶつかり合う。
激しい衝突音がデュフルスヴァイゼ山の上空に響きわたり、僕も、コンラートさんも、取り囲む竜達も、そのすさまじさに思わず言葉を失った。
そんな空気を破るかのように。
『むっ!?』
『ヘッ! よそ見してんじゃねえよ!』
巨大な剣を手にした青い竜が、コンラートさんに斬りかかった。
『おいてめえ等、何ぼさっとしてやがる! クラウス陛下があの姫さんの相手をしている間、俺達はこのジジイを始末するぞ!』
『『『『『はっ!』』』』』
青い竜の檄を受け、周囲の竜達が一斉にこちらへと向かってくる。
……『王選』は一対一の戦いに何人たりとも加勢してはいけない掟。でも、それ以外となれば話は別だ。
「コンラートさん!」
『はっは! 心配いらんわい!』
コンラートさんは右手で空に何かを描いたかと思うと、赤の魔法陣が浮かび上がった。
そこへ手を突っ込んで引き抜くと、現れたのはグレイブと呼ばれる巨大な槍だった。
『そうれ! かかってこい!』
次々と襲いかかる竜達を、コンラートさんは一人、また一人と薙ぎ払っていく。
その圧倒的な強さは、メルさんほどではないにしろ白い竜にも引けを取らないんじゃないかと思えた。
『チイッ! ジジイのくせに相変わらず強えな!』
『貴様こそ実力がありながら、自分の手を汚そうとせんのは感心せんな!』
青い竜はコンラートさんから距離を取り、竜達を差し向ける。
多分疲れてきたところを狙うつもりなんだろう。
だけど。
「こうやってこちらに来てくれるのは好都合なんだよね」
『はっは! そのとおりじゃ!』
僕とコンラートさんは頷き合う。
『王選』に当たって僕達が最も警戒していたのは、掟を破って王国の竜総出でメルさんに襲いかかってくること。
彼女が強いことは理解しているけど、それでも多勢に無勢ということもある。
不意を突かれてしまうことだってあるし、さらに卑劣な手を用いる可能性も否定できない。
少なくとも今、メルさんが相手をしているのはクラウスだけ。
このまま彼女があの男を倒すまで、他の全ての竜を引きつけるのが僕達の役目なんだ。
「コンラートさん! 右上に竜が二体来ます!」
『任せろ! ぬおおおおおおおおおおッッッ!』
『ガッ!?』
『ギャウッ!?』
グレイブ一閃、二体の竜は胴体を横に真二つにされた。
勇猛に……ううん、気丈に振る舞いながら、コンラートさんは次々と竜を斬り伏せる。
きっと彼だって、
それでも、メルさんに
「これは……コンラートさんのせいなんかじゃないから」
『……はっは、ギル坊は優しいんじゃな。姫様がお主を好きになるのも、無理がないわい』
僕がそう言うと、コンラートさんは寂しく笑う。
早くこんなくだらない戦い、終わってしまえ。
たった一人の男が自分の欲のために起こした、この戦いを。
『今だ! 押し込め!』
『『『『『うおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!』』』』』
多くの竜がコンラートさんのグレイブの餌食になっても、なお士気は高く、とどまることなく襲いかかってくる竜達。
それほどまでに、この竜達はメルさんを拒絶するのか……っ!
「なんでだよお……っ」
メルさんを拒絶する竜達に……メルさんを認めない世界に、僕は悔しくて拳を握り、
勝利すれば元通りになる。そんな淡い期待があったけど、それは完全に裏切られた。
もう……勝利しても、彼女には居場所がない。
『大丈夫……大丈夫じゃ。姫様には、まだわし等がおる』
「コンラートさん……」
竜達をあしらいつつ、コンラートさんが優しく語りかける。
あ、はは……今から思えば、初めて会った時に酷いこと言っちゃったな。
メルさんに拒絶されても加勢してくれて、こうして一緒に戦ってくれているのに。
人間の僕に、こんなに優しくしてくれているのに。
「……絶対にあなたも、死なせたりしませんから」
『はっは、期待しておるぞ』
まだ戦いは始まったばかり。
僕はぐい、と袖で涙を
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