この世界には主人公が多いのだ!

金津義満

1.五嘉津檍(いつよつおく)の弑する。

私立〇〇学園、その学園は由緒正しき者のみが入学できるいわゆるエリート校。

その学校には、中庭があり、中庭は校舎に囲まれており、教室や保健室、放送室などをいっぺんに見られることができる点ぐらいしかない。そんな学園では最近、不可解な事件が起きている。

その事件は連続女子生徒殺人事件と言い、名前の通り、連続して女子生徒たちが無残な姿で亡くなっているという不可解な事件。

この事件の犯人はまだ捕まっておらず、今もなお学園内では緊迫した空気に覆われていた。

1之壱.将来への目標

とある日、明日は学校という日に檍は不可解な夢?を見る。

そこは無が広がる、いや地平線といったほうが良いのだろうか、とにかく何にもない場所に特殊な絵が描かれているだけで至って普通なカレンダーを持っている一人の女性がいた。

「私立〇〇学園中等部、五嘉津檍(いつよつおく)、貴様にこのリカレンダーアイという摩訶不思議な道具を与えよう」

どうやらすでに個人情報を把握されているようだ。

でもこんな女性と出会ったことはないし、話したこともないから完全初対面な状態、しかもカレンダーのことをリカレンダーアイっていう変な名前で呼んでいるし、より怪しい…

「あの〜すみません、ここどこですか?そしてあなた誰ですか?」

「おっとそういえば自己紹介がまだだったな!わしの名前はダーリィユイ、人間で言う神という存在じゃ!」

「神…?」

「そうじゃ!神じゃ!」

こいつは何を言ってんだ?冗談にも程があるぞ…

「今、「こいつは何を言ってんだ?冗談にも程があるぞ」と考えておったか?」

「…っ!?」

考えていることを当てられ、驚き、後退んでしまう。

「神は何でも知っているのじゃよ?」

「そ、そんな…」

神に対して余計な妄想をしなくて良かったと安心した檍だったが、どうせこれもわかっているのかと思うとゾッとした。

あることを思い出し、すぐにその心配は無くなっていた。

「待てよ?思い出したぞ、俺はさっきまでベッドの上でウトウトとして、そのまま寝たはず、つまりこれは夢、夢の登場人物が自分の考えてることを知っていてもおかしくないしな」

ようやく答えを出せた気がする、しかもこれは現実じゃなくて夢とわかった今、神に何でもし放題なのでは?と考えた檍の思春期ならではの発想はすぐに壊された。

「何を言っているんだ?これは夢でもなんでもない、神が住むところ、つまり神秘的な場所ってわけだからそういう行為は…ね?」

「っ…!そんなこと!思ってねーし!?」

「わかるのじゃよ、お主が考えてることなんか」

神のその言葉に檍は怒りを覚え、ムカついてくる。

「なんか」ってなんだ!なんかって!そもそもおまえがこんなところに無許可で連れてきた時点で誘拐だよ!誘拐!神のくせに犯罪犯してんじゃねーよ!」

「なんじゃと!お主だってな…」

〜十分後〜

その後神との口論は続き、結局何もまとまらずお互いがお互いに力尽きた形で口論は終わった。

「で、神さんよ、なんでおまえは俺にリカレンダーアイだっけか?そんな変な道具をくれようって思ったんだ?」

「変な道具と言うでは無いよ、摩訶不思議な道具と言っておくれよ」

「わかったから教えてくれ、どういう経緯で渡そうとここに呼んだんだ?」

「……」

さっきまで笑顔だった神の顔は少し悲しそうな顔をしたが、すぐにまた笑顔になり「気まぐれじゃよ!」と返事をした。

「気まぐれ…か…」

「そうじゃ気まぐれじゃ」

そう言いながら立ち上がる神はとても綺麗に見えた。

「こらこら、わしに好印象を抱くんではない、お主には彼女がおるのじゃろう?」

「そんなことまでわかるのか、さすが神…」

神の言う通り、自分には晴偉(はるい)という名の幼馴染でもあり、彼女でもある愛する人が居る。

「そんなことよりお主、良いから早くリカレンダーアイを受け取るんじゃ」

まだ起きあがっている途中の檍に向けてリカレンダーアイを差し出してくる。

「はいはい、ありがたく頂戴します。神様」

そのままの体制ではさすがの神でも失礼と思い、ちゃんと立ち上がってから、改まってお辞儀をしながら丁寧にリカレンダーアイをもらうと、突然、体が燃えるよううに熱くなってくる。

「なん…だ、急に、kらだ(体)が、暑い…」

砂漠に居るような暑さでその場に座り込む。

「お、始まったんじゃな!強人化(ストロングか)が!」

「強人化…?」

胸を抑えながら質問をする。

「そう強人化!その暑さに耐えられたお主は特殊な能力を手にする事ができる!」

「そ、そんな事言われても…」

暑い、体全体が焼けるように暑い、今にも失神しそうだ、意識が遠退いていく…もうダメだ…

そのまま耐えていると急に暑さがなくなり、瞬時に体から無数の棘が生えてくる。

棘は頭から首、胴、腕と上から下に生えていき、最後には足まで棘が到達し、最終的に棘で地面を立つようになった。

この間約五十秒が経過していた。

もちろん、着ていた服は棘のせいで突き抜けており、棘が無くなった時にはボロボロになっていると予想するが今はそれどころではなかった。

「もう終わったんじゃな」

「なんだこれ!体中に棘が!」

「お主は能力、刺々弑(とげとげしい)を手に入れたんじゃ、落ち着くんじゃ!落ち着いて祈るんじゃ!棘が無くなってほしいと祈りを!」

落ち着くために深呼吸をし、落ち着きをとり戻すと思いっきり手を合わせ棘が無くなってほしいと心から祈ると徐々に体から生えた棘が檍の体内に戻っていく。

祈り終わり体を見ると棘が無くなって案の定服がボロボロになっているのを確認した途端、体に力が入らなくなり、立つこともできずその場に倒れ込む。

「朝がくるんじゃな…あと疲労もあるじゃろう…なら早めに話しておこう、貴様に渡したそのリカレンダーアイは身近の人間の死を予告(カレンダー)してくれるんじゃ、謎解き形式でな?」

「何だ…そ、れ…」

「そしてお主の能力、刺々弑(とげとげしい)は自分の体内から棘を生成して、飛ばすこともでき…」

神が解説している途中で意識が無くなってしまった。

残ったのは全く動かなくなった体のみ、もちろんこの後に神が言った言葉は檍には聞こえなかった。

「弑(しい)、弑する、立場が下の者が上の者を殺害するという意味…か、お主にぴったりじゃな…」

1之弐.予告(カレンダー)

目が覚めると汗で服がびっしょりになっており、穴は空いていなかった。

あたりを見渡すといつもの自分の部屋、地平線など全く無く、狭い部屋にゲーム機や漫画が散乱していた。

狭いというかただ物が多くて狭く感じるだけだと思われる。

檍は慌てていつもの目覚まし時計を手に取り、時刻を見ると◯月◯日水曜日、午前七時四十五分。

「夢、だったのか…」

夢にしては記憶が鮮明で現実味がありすぎて夢という実感が持てなかった。

とりあえず今は学校に行く準備をしなくちゃ遅刻すると思い、学校へ行く準備をするためにベッドから出ようとすると布団の中に入った足元に違和感、何かがある。

四角形で、薄くて、まるで夢の中で神からもらったリカレンダーアイのような。

現実になってほしくないなと心配になりながらも手に持って、布団から取り出す。

「現実、だったか…」

神の存在は現実だったことを実感してしまっていると「檍〜!早く支度しなさい!」

一階から学校へ早く行けと急かす母の声がした。

今それどころでは無いが、学校に遅刻しても困ると思い仕方がなく準備を始める。

準備は至って単純、制服を着て、歯磨きをして、朝食を急ぎで食べ、今日の授業内容と持ち物はあっているかの確認、ただそれだけなのですぐに終わった。

「行ってきま〜す」

元気が無いがとりあえず行ったことを家族に報告しなくてはと思い、小さな声で学校へ行く言葉を告げる。

登校している最中、少し神について考える。

神が現実なら与えられた能力も現実なのでは?

リカレンダーアイを持ってきてしまったがいざ予告(カレンダー)が来たらどうすれば良いんだ?

カバンの中に入っているリカレンダーアイを見るなりため息を付く。

まずなんなんだよ謎解きって、人の死を弄ぶなよ…

そのように考えている間に家から徒歩十五分もする学校が実感二分でついてしまった。

校門から見る学校はとても広く校門から横に伸びていくスタイルで裏門は、第二校舎の入口がある。

そしてその真ん中に中庭、校門から見て校舎の右側は校舎の二分の一サイズの体育館、だが、二分の一と言っても校舎自体がでかく、体育館だけで普通の学校一校舎分のスペースを取っている。

「はぁ…結局、能力が使えるかどうか試せなかったな…」

自分の手を見ながら独り言を言うと

「なんのこと?」

後ろからとても可愛らしい声が聞こえてくる。

振り向かなくても誰かは声を聞いただけですぐにわかった。

「ううん、なんでもないよ、というかバスケの大会は大丈夫だったのか?晴偉」

「優勝バッチグーだよ!」

「何だその報告は」

陽気に喋りかけてくるこの女こそ、俺がお付き合いしている望幹晴偉(のぞみきはるい)張本人、とても可愛らしい長く青い髪に制服越しからでもわかるほどの膨らんだ胸、ただかわいいとしか言えない。こんな女の子と付き合えた俺は多分この先、いいことなんて一つもないだろう、そう言い切れるほど奇跡な出会い、周りからも「なんでおまえが!」ってよく言われるほどだった。

「優勝か、やっぱすごいな晴偉は」

晴偉の頭を撫で、褒めるが、どうも笑顔にはならず逆に怒った顔をしていた。

いわゆる逆張りってやつか、と思っていたがどうやら不満を抱えていたらしく「そんなことよりだよ檍!なんで先学校行っちゃうの!登校中、一人で寂しかったじゃん!」と檍の前に来てほっぺを膨らませながらいわゆるツンデレポーズで怒っていた。

「悪い悪い、少し考え事をしてたんだ」

神のこと、能力のこととかを考えていたら晴偉との会話がうまくできないと思う、そんなことで嫌われたくないし、この考え事は一人で抱えなくてはならない事だったため色々と感づかれたくない……。

まぁ神に会っているなんて頭脳だけでわかったらそいつこそ神だろう。

「ふーん、考え事ねぇ…まぁ考え事は一人でしたいよね!うん!許してあげよう!」

「晴偉様〜ありがたや〜」

「私のことは神として崇めよ!」

本物の神はもう居るんだがな…まぁ天使の部類とでも言っておこうか……。

晴偉と檍は他愛のない話しを続けながら教室まで足を進めていると体感五十秒で教室の前まで来ていた。

「やっぱり晴偉と話してると時間立つのが早いないつもなら3分とかなのに晴偉といると五十秒だ」

「私も檍と話してると楽しいや!」

やっぱり天使で合ってるな。

この笑顔には誰にも勝てない気がする。

「じゃ私の教室こっちだから!」と言い晴偉は隣の教室を指差す。

「おう!また昼休みでな!」

「その間浮気しないでね!檍!」

「する相手いないから大丈夫、心配いらないぞ!」

「そこはしないって言い切りなさい!」

発言と同時に晴偉は檍のおでこにデコピンをする。

「は~い…」

檍はおでこを両手で抑えながら返事をする。

お互い言いたいことも言い終わったと思った檍は教室に入ろうとすると晴偉が裾を掴んでくる。

「待って!」

「どうした?晴偉?行ってきますのチューでもほしいのか?」

「違う!!」

なんだ、違うのか、ちょっと期待してたんだけどな…

「今日の放課後暇?」

顔を赤らめながらそんなことを聞いてくる。

だがまだ確信が持てない、なぜこの推測ができるのか、それはまだ確定のお言葉が出てきていないから。

「暇だけど、どうしたんだ?」

檍はいつもより声のトーンをかっこよく、凛々しくしていた。

「その、今日親帰ってこないからさ、家、来ない…?」

顔を真赤にさせながらそんなことを聞いてくる。

確定のお言葉、もらえました。

「必ず行く」

返事はもちろん秒速で返した。

「やった!じゃ!またね!」

そうして晴偉はすぐさま教室に入っていってしまうが、檍は教室の扉の前でまだ高校二年生なのに脳内卒業式を開いていた。

卒業式があるのは高校三年のなのだが、別の卒業式でもやっているのか、泣くよりも鼻の下伸ばしていた。

檍が脳内卒業式を行っている間、中からクラスメイトが出てきて扉の前で鼻伸ばしている変態が心配なのか声をかけてきた。

「大丈夫?檍君?もうすぐチャイム鳴るよ?」

「俺の物(ぶつ)はもうすでに鳴っているよ!」

その声は上の階の職員室にまで届きそうな声だった。

「……は?」

時刻八時半、学校のチャイムが鳴る。

その後の時の流れを早く感じ、気がつけば下校時間になっていた。

それからいつも通り玄関前に集合し、晴偉と一緒に下校するがその間に会話は無かった。

赤くなっている夕日に映る二人の歩く姿、その姿は青春そのものだった。

「着いたよ…檍…私の家…」

「お、おう…」

気まずいとても気まずいこれがヤる前の距離感ってやつなのか…

家に上がり晴偉の家の匂いを堪能したところで二階に上がり「晴偉の部屋」と扉の前に書かれている部屋に招かれる。

部屋の中はthe女の子という部屋でゴミやらゲームが一切なくめちゃくちゃいい匂いのする部屋だった。

「お、お邪魔します」

「もう家にお邪魔してるでしょう」

二人とも気まずい中でもちゃんとツッコミを入れてくれる晴偉だった。

「まぁ、いいよ、取り合えず、そこら辺にすわっ…」

晴偉が一点を見つめたまま硬直する。

なんで止まったんだと思っていたが、一点の方向を見るとすぐに硬直した理由分かった。

テーブルの上にあったのは0.01mmと書かれた箱とメモが書かれた紙、メモには「避妊はするんだよ!by気の利く良いママ」と書かれていた。

正気を戻したのか晴偉はすぐさま0.01mmを手に取りポケットに入れた。

「こ、これはね、檍…風船…的な?」

メモが取れていない時点でバレバレだった。

だがちょうどよかったナイス晴偉ママ!今度は晴偉ママも入れてあげよう。

照れながらなんとか弁解しようとする晴偉をベッドに倒すと晴偉は一瞬でダンゴムシのように体を丸める

「ごめん檍、まだその、心の準備できてなくて…その…」

「その?」

檍は怒りの表情一つ見せずに晴偉の次なる返事を待つ。

「今週の金曜日、その日を親帰ってこないんだ!…だからその日まで、待ってくれる…?」

「喜んで!」

ニヤニヤが止まらないまま普通に遊んで普通に会話して門限の七時半になろうとしていた。

「おっと、そろそろ帰ら なくちゃだな」

「あっ、そうだね、時間というものは止まってはくれないんだね…」

「 何が言いたいんだ?」

わかっているがあえて晴偉の口から言ってほしい憶はあえてわからなかったフリをすると晴偉は顔を真赤にしながら

「その、ずっと檍と一緒に居たいって意味だよ…」

その言葉でお互い掛ける言葉がなくなり沈黙が続く。

ただ檍はとても満足していた。

3分後ようやく檍が口を開く。

「じゃあそろそろ帰るよ!」

「うん!そうだね!早くしないと門限過ぎちゃうもんね!!」

時刻は7時36分、すでに門限を過ぎている。

「 じゃ!また明日な!」

「うん!じゃあね!」 そっと扉を開け出ていこうとすると「待って!!」と晴偉に呼び止められる。

檍はいってらっしゃいのキスを期待し、唇を少し尖らせながら後ろを向くとそこにはスカートをたくし上げて顔を真赤にして顔をそらしている晴偉が居た。

見てはいけないのに目がパンツの方にいってしまう。

檍から見えるスカートの中の純白パンツ晴偉はとてもいい眺めだった。

「え、えーと、そういうおつもりで…?」

この場合、「どういうつもり」よりも「そういうつもり」のほうが正しいのでは?と頭の中で瞬時に考えついてしまった。

「ち、違くて、その、今日はがっかりさせちゃったから、せめてこのくらいはって思って…」

「人と話すときは目を見て話せ」と檍が小学生の頃担任だった梨那(りな)先生から習ったことを思い出す。

今になって梨那先生に謝罪したい、ごめんなさい梨那先生、でも仕方がないんです、僕の目はすでにオートエイムというチートをやってしまっています。

ごめんなさい梨那先生と心のなかで謝罪しながらあの頃の梨那先生を思い浮かべる。

「晴偉、それは誘っているようなものだぞ…」

「それでも檍が満足してくれるなら…」

「良いのか?」

「で、でもその、「H」はまだ覚悟ができてなくって、本当に金曜日まで待ってほしいなって…」

晴偉の顔は火照っていてどこか無理をしているように見えた檍は晴偉に近づき、そっと頭を撫でる。

「無理しなくていいからな、「H」なんて何時でもできるし、晴偉が無理してする「H」は俺は嫌だよ、それともうちょっと自分を大切にしたらどうだ?」

我ながら良いことを言ったよくやった。

と自分自身を誇らしく思いながら晴偉の方を見ると、気まずそうな顔をしていた。

「え、どうしたんだ?他になにかあったのか?」

「えっと、その、私無理して無くて、逆に楽しみにしています……」

その後はもう覚えてない。

覚えているとしたら帰っている途中、常に下半身が元気だったことくらい…

そして今現在、午後十時頃、晴偉との会話を思い出してはニヤけてを繰り返し行っていた。

「抹茶喰っちゃ江っ戸勝った(めちゃくちゃえっどかった)……」

おっといけないいけない、ついつい思っていることが言葉になってしまった。

ちっともいけなく思っても居なさそうな声で自分のことを棚に上げていると、急に部屋の一角から光線のような眩しい光が檍に襲いかかった。

「何だ!眩しい!!」

「始まったんじゃな予告(カレンダー)が…」

自分じゃない他の声が聞こえ、横を見るとそこには昨日の夢に出た神がいた。

「お前!この世界に存在できるのかよ!」

「まぁ神じゃからな?」

「何でもありだな!神はよ!」

「それよりもじゃ!始まったんじゃよ!予告(カレンダー)が!」

予告(カレンダー)、それは夢の中で聞いた。

予告(カレンダー)が始まった、ということは身近の人が近いうちに死ぬと言い換えることができる…

眩しい中、もう一度リカレンダーアイの方を見ると、徐々に光が消えていき、消えるまでに10秒もかかった。

「終わったみたいじゃな…」

神の声が合図のように神が声を出した瞬間、檍はすぐに動き出しリカレンダーアイを今月までめくると書かれているところは明確だった。

その日一つだけ黒で「16時47分、全校生徒の前、処する、集まる、良い、中庭のとある隅」と書かれていた。

「何だよこれ……」

檍は膝から落ちリカレンダーアイを落とす。

「どれ、わしにも…おぉ、これはまた、早いのぉ…」

神は日付を言っているようにしか見えなかった。

「金曜日、その日が誰かさんの命日だとリカレンダーアイは予告(カレンダー)してるようじゃぞ?お主、どうするつもりだ?」

そんなの決まってる。

「何としてでも!!必ず助ける!!」

「勇敢じゃな〜」

「まず晴偉…そうだな…リカレンダーアイが言ってるように学校の中庭だったら見渡しいいし、ほとんどのクラス覗けるし集められなかった人も見渡すことができる!よし!そうするとして、どう呼ぼ…」

檍の長い思考が続く中、神がボソッと「意味ないんじゃがな〜」という。

「なにか言ったか?」

「いや、そうじゃ!言い忘れておった!リカレンダーアイの予告(カレンダー)は未来が変わると消えるんじゃ!予告(カレンダー)が予定通り実行されても消えるがな!」

「そうか!そうか!だったら!ありがとな!神様!」

その後も難聴主人公こと五嘉津檍(いつよつおく)は神の独り言を聞き逃し着々と作戦を練っていた。

1之参.木曜日の過ち

「おはよ!檍!」

「お、おう、おはよう…」

「檍、めっちゃ眠そうだね?目にくまができてるよ?」

そりゃそうだ…昨日は徹夜で身近の誰かを助ける方法を考えていたせいで今日の授業は寝そうだ…

「い、いや大丈夫だ…心配要らない…」

「そう?体調悪かったらすぐに言ってよね?」

「あぁ…」

寝てないこともあっていつもの道がすごい遠い気がする…

「あ!そうだ!言い忘れてたんだけど、明日、大会優勝を記念して校内放送で感想会をするんだって!」

「おぉすげぇじゃんか…」

めちゃくちゃすごいことだけど今は疲れててそんな祝えることができない…

元気なさげな祝われかたに怒ったのかほっぺを膨らまし「もうちょっと褒めるとか無いのかなぁ?うちの彼氏はさぁ?」と挑発してくる。

でもそんな挑発に乗れるほど元気がない。

「ごめんよ晴偉〜、今はそんな気力ないんだ…」

「檍、祝うこともできないなんて熱出てるんじゃないの?いつものテンションだったら「すごいな!!晴偉!!今日はパーティーだ!!」とか言って胴上げしてくれそうなのに?」

全然似ていない声真似で必死に表現しているようだが、言動も似ていないことには気づいていない、全く可愛い奴め。

そう思っている檍の言動を晴偉は完全再現できていた。

「いつものテンションでも胴上げはしないと思うぞ…」

その後、晴偉といつもの道でいつも通り学校に着き、授業中寝てしまったが寝ている自分に教師は何も言わずそのままいつも通りに進められる授業。

そしてあっという間に昼休みがやってくる。

授業中寝ていたこともあって気分は良い方だった。

「とりあえず身近なやつから片っ端から…」

まずはクラスの親しいやつから呼びかけようと思っていたその時、後ろから肩を叩かれる。

「五嘉津檍(いつよつおく)君、ちょっといいかな?」

後ろを振り向くといたのは数学担当の男の先生だった。

「どうしたんですか?先生、要件なら後にしてもらえます?今自分忙しいんですよ」

「悪いけど校長先生直々の呼び出しだから後には出来ないんだ」

意外な人物の名前が出てきた事に檍は聞く姿勢をとる。

「‎校長が自分になんの用なんですか?」

「それがな、今日の授業、校長先生が見てたらしくって…」

その言葉を聞いただけでなんとなくわかった。

「だから校長室に呼び出せって…」

「……はぁ、わかりました校長室に今から向かいます」

なんでこんな事になったんだ…

オールなんてしなければよかったと自分の行いに後悔しつつ重い足取りで校長室へと向かった。

檍が校長室へ入るといつも他の生徒の前では笑顔が耐えない校長がとても真剣な顔をしていた。

真剣というより檍を睨んでいる。という方が正しかった。

「失礼します校長先生、」

「おぉ檍君、よく来てくれたね。まぁそこに座ってくれ」

座ると話が長くなる気がした檍は座らずに話を続ける。

「単刀直入に聞きますが、今回はどういったご要件で?」

「まぁ、ひとまず座らないか?」

「please tell me your requirements(要件を話してください)」

「……何が言いたいのだい?」

「いやぁ日本語がわからないのかなと思いまして」

「日本語が読めていないのはどっちかな?」

「読めていないのではなく理解して遠回しに拒否をしているんです。おわかりですか?」

「……」

遠回しにディスったことにより空気は最悪、今にも殴り合いが起こりそうな空気をしていた。

「ではこの状態で話をしよう。檍君、君は今日の授業何を学習した?」

「睡眠というものの重要さに気付かされました」

「…では普段の授業で何を学習しているんだい?」

「学習なんかしていません、すでにわかっていることを学習しろと言われても全部わかっていることは学習することが無いので、何も学習していません」

「ほう、でも君は今日、学習しようという意欲が足りていなかったと私は思うのだが?」

早く話を終わらせて作戦を実行したいのだが…

話を終わらせて良い立場でもないため終わりにもできず話の主導権は校長が握っていた。

「今日の授業中は学習する意欲足らなかった。それは事実ですのでここで謝罪します。申し訳ありませんでした、以後気をつけます」

早く話を終わらせるなら相手の意見側に同意すれば良いというのを梨那先生が話していたことを思い出し、改めて梨那先生に感謝しながら、校長の意見に賛同するのは癪だが、ここはあやまるしかない。

そう考えながらも深々と頭を下げ謝ると、校長が意表を突かれた顔をする。

「いやぁ、まさか檍君が頭を下げるとは予想もしなかったよ」

確かに校長に頭を下げた事がなかったがなかったため驚くのも仕方がない気がする。

「分かってもえましたでしょうか?」

「あぁ、まぁ自分非を認めたのでお説教はこのくらいとしますかもう良いでしょう、水に流しましょう」

「ありがとうございます」

「君にこの学園を託そうと私は思っているんだ。この学園を校長から直々に託したいと思われている人材なことを忘れずに」

「わかっていますよ校長先生では自分はこれで失礼します」

校長室からようやく解放された檍は気を取り直して再び作戦を実行しようとするとまたもや後ろから檍を呼ぶ声が聞こえた。

「五嘉津檍(いつよつおく)君どうだったかな?」

さっきの数学担当の先生の声と似ているというかそのまんまだったことから振り返らなくても誰だかわかった。

「校長先生とですか?まあまあでしたが、それがどうしたんですか?」

「いやぁね、校長先生と檍君って犬猿の仲みたいな感じじゃん?」

言葉では心配しているように聞こえるが発音を聞けば心配していると言うよりも煽っているように聞こえた。

「言った通りまあまあでしたし、今日は負けを認めたようなものですよ」

「ほぉ、檍君にしては珍しいね…まぁ今日の授業居眠りしていた時点で珍しかったんだけどね」

普段授業中は先生の話しを聞いていると言うより自主学習をしている。

「話しは「珍しい」というトーク、それだけですか?それだけなら自分はすぐにでもやりたい事があるんですが」

「あぁ、ごめんごめん、実はトークの本題は授業のことなんだ」

「え?」

その言葉に嫌な予感しかしない……

「授業中寝てたでしょう?だから罰として反省文を書かせろって校長先生がさっき言ってたんだ」

予感は外れてほしかったが当たってしまった。というより外れてほしかった予感を作り出した校長を殴ってやりたい。

「それは他の時間ではダメですかね?」

「ダメだね、今すぐにでも書かせないとね」

次々と面倒事が増えていく、それはまるで何かに邪魔をされているような感じだった。

なぜかこのままではいけない気がした。そう思った頃には足が自然と動き出していた。

「ちょっと!檍君!どこへ行くんですか!」

「お手洗いです!」

檍はそのまま脱兎の如く素早く廊下を走り、着いた場所は晴偉の居る教室。

「は…晴偉は居るか!!」

急ぎなため、深呼吸する暇がなく、息を切らしたまま教室に晴偉が居るかの確認をする。

鼓膜は自分の息だけしか聞こえない、目もかすれてあまり良く見えない…

「おい、どうなんだ?晴偉は…」

「晴偉さんならさっき校長先生に連れて行かれてたのを見ました…」

クラスであまり目立たずひっそり学校生活を送ってそうなメガネっ子がそう言ってくる。

にしても校長が晴偉になんのようなんだ……?

「とりあえずありがとうな!えっと…」

しまった…名前をド忘れてしまった。

「あ、えっと、八名町麗(やなまちれい)です…」

「名前忘れちゃってごめん!えっと…栞さん!ありがとうな!」

「あ、はい…」

皆からは根暗女と呼ばれていたが、目がしっかり見えるようになりよく見ると頬に切り傷があるが、意外と悪い顔はしていなかった。

それよりもまずは晴偉を探さなくてはならなかった檍は栞を後にしようとすると

「あ、あの!」

麗に呼び止められる。

「ん?どうかしたか?」

「もう授業中なんですけど……」

「え…?」

昼休みの終わりは確か2時半。

檍が勢いよく廊下にある時計に目を向けると時刻は2時50分。

5時間目が始まるのは2時45分…

「Oh……」

辺りは沈黙に包まれた。

5時間目に間に合わなかったショックで檍は事の矛盾に気づかなかった。

1之肆.あっという間な1週間

その後、何故か分からないが晴偉とは会えず、下校時間になり、教室に行っても無駄だと思っていても念の為と自分自身に錯覚させ、晴偉の教室まで向かうと、普通に帰る準備をする晴偉が居た。

「おまたー!」

久しぶりに聞く晴偉の声はいつにも増して可愛く聞こえた。

「晴偉…お前ずっとどこにいたんだ?」

「ん?あー会議だよ、会議!」

「なんのだ?」

「なんのって、まさか忘れちゃったの!?」

帰り道の夕日はエモいと言うかオレンジ色過ぎて逆にエモく無くなっている中、2人は下校をしていた。

さっきまでおなじ歩幅で歩く2人だったが、檍の歩幅が変わった。

早くなったとかそういうのではなく、檍は立ち止まった。

「忘れたって、何をだ?」

「もう!覚えてないの?」

「全く……」

檍は今日ほとんどのことを覚えて無く、覚えているとしたらさっきあった出来事と作戦のみだった。

「はぁ、まぁいいや!その日のお楽しみってことで!!楽しみにしておいてね!!」

「あぁ!楽しみにしているが、いつかだけ教えてくれないか?」

明日なんか特にやめてほしい……

「それもお楽しみだよ!!」

これではわからないが、ゴリ押しして晴偉に日にちを吐かせても嫌われるだけ……

まさに積みだ…

この積み状況を回避する方法は、明日晴偉とほぼ一緒にいるしか無い…

「じゃ私こっちだから!じゃーね!!」

「おう!またな……」

最後の最後まで「!」をつけなかったのは多分晴偉と別れるのが辛いから、もっと近くで見守れたなとつくづく思った。

「帰るか……」

さっきまで赤くなっていた夕日は徐々に暗闇へと変わっていく。

その間、檍は自分の家へと足を運ばせながら謎解きをしていた。

一体何なんだ…謎解きの意味がわからない…。

まず明日は全校集会なんていう行事がないから全校の前では殺せないから他殺は無いだろうと推測した。

次に中庭の隅、これが一番良くわからない。

中庭は四角形、だから中庭には4つの隅がある。

隅にはそれぞれの特徴があり、校門から一番近い壁側の校門から見て右側の隅、そこは特に何もなく、あったとしても廊下の窓しか無い。

次に左側の隅、ここには蛇口があり、自分もたまにそこの蛇口にお世話になっている。だがそれしか無いと言ってもいい…

お次は裏門から一番近い奥側の壁の二隅、この二隅は特に何もなく、強いて言うなら校門から見て奥の壁の右側はチャイムや放送などが流れる名前のわからないあれがある。

「そんな中庭の隅になんかあんのかよ……」

困惑してつい言葉に出てしまうのは問題が難しすぎるためといっても良い、そのくらい難しい…。

檍は必死に考え、考えまくった末、全くわからずに家についてしまう。

「やっぱ晴偉を尾行するのが一番正しいのか…」

犯罪紛いな事をしようとしているのは十分承知済み、だが、これしか無いのだ。

晴偉を助けられればたとえ犯罪者というレッテルが貼られても良い!何としてでも晴偉を守るぞ!!

そう心に決め家の扉を開ける。

家族との雑談は気を紛らわすことができ、少し気分が楽になった。

昼食も終え、風呂も入り、まだ時間は早いが、明日に備え、ベッドへ直行する。

「明日は必ず、晴偉を救って見せる!!」

そう断言し眠りにつく。

その日の深夜2時46分、日付は金曜日に変わっていた。

深夜2時47分、とある家のガス栓が謎の大爆発を起こし、家は全焼、住んでいた者全員が死亡した。

「もう聞いた人は居るかもしれませんが、今日の深夜2時半頃に、家が謎の爆発によって八名町麗(やなまちれい)さんが17歳という若さでこの世を去ってしまいました……」

「嘘、だろ……」

今日は晴偉を守ろうと必死で、登校中は晴偉の周りをぐるぐる回って守っていたのに……

檍は少し勘違いしていた。

リカレンダーアイは一番親しい人の死を予言すると思い込んで、勝手な解釈で晴偉だと思ってしまった。

でも実際違っていた。

知り合った時点でリカレンダーアイの餌食だった。

「そんな……」

檍の感情はすでに壊れきって、もう授業なんかやっている余裕はなく、絶望していた。

「みなさん、手を合わせて冥福を祈りましょう……」

クラス全員が手を合わせ目をつぶり、教室はとても静かになっており、真剣な顔で顔手を合わせている者もいればだるそうに合わせてるやつも本気で泣いているやつもいた。

そんな顔をみた檍は居ても立っても居られず、教室を飛び出してしまう。

「ちょっと!!五嘉津(いつよつ)君!?」

先ほどとは異なり教室はざわつきを取り戻していた。

一方檍はというと、麗が死んだのは自分のせいだと思い込み、廊下を走りながらも自暴自棄になっていた。

「なんで勘違いしてたんだよ!!晴偉じゃなかったんだ!栞だったんだ!なんで!なんで勘違いなんてしちゃったんだよ!!なんで!なんで!助けられなかったんだよ…」

校庭へ出たところでゆっくりと減速しだす。

「なんで、なんでなんだよ、今日、晴偉を助けようと必死だったのはなんだったんだよ……これじゃあまるで……」

これ以上は言葉にできなかった。

この言葉を言うのは体が拒絶していた。

言ってしまったら檍のすべてが壊れてしまう気がしたから「晴偉以外みんな死んでいいと思っていた」なんて到底発言できなかった。

その後もチャイムが何度なっても教室には帰らず、校庭は目立つので使っていない空き教室まで行き、一人で引きこもっていた。

「こんなんが何回もあるのか……」

引きこもること3時間、学校はすっかり昼を迎えようとしていた時、一つの放送が入った。

「五嘉津檍(いつよくおく)、五嘉津檍、至急、校長室まで向かうように」

その声は紛れもなく校長そのものの声だった。

「くっそ、俺が校長に逆らえないのは人を一人殺しても同じか」

学校では現在、四時間目が始まっていたようで、校庭では、体育の授業でサッカーをやっているうちのクラスが見えた。

「今頃事件がなければ俺もあそこにいたのかな……」

校庭を横目に校長室へ向かう。

「失礼します」

校長室に到着し、引き戸を三回ノックし、校長室へ入る。

「これはこれは授業サボりの檍君、君の顔を見るのは久しぶりだな、今までどこで何をやっていたんだい?」

遠回しというかちゃんと考えればどストレートなのがわかる。

「同級生の死を受け止められず、空き教室で引きこもってました」

「友の死を引きずることは良いことだと思うが、授業をサボるのはどうかと思うよ?檍君?」

いいタイミングかどうかわからないが今になって四時間目終了のチャイムが鳴った。

「だから自分にどうしろと?」

「そうだね、取り合えずそこに座って反省文書こうか?」

もうこの際、反省文書いたほうがマシだ……

校長が動き出したと思ったら、反省文を書くための紙を取り出し、座っている席の前の机に紙を置いてくる。

反省文の紙は分厚く、軽く三十枚は超えていそうだった。

「とりあえず反省文三十五枚、書こうか?」

「了解しました…」

話が終わった途端、筆記をすぐさま手に取り、文を書き始める。

数分が立ち、時計を見ると、ちょうど昼休みの中間くらいだった。

辺りは賑わっており、元気そうな生徒が度々校長室前を通過していった。

文章を半分まで終わらせると、校長は口を開き始めた

「そういえばこのように檍君に反省文を書けなんて言ったのは初めてだよ、今日したことはそのくらいダメなことだったんだよ檍君、わかったくれたかい?」

その言葉を聞いた瞬間背筋が凍った。

「校長先生、つかぬことを聞きますが、木曜日、自分を叱った後、誰かに反省文を書かせろと指示を出しましたか?」

「ん?なんのことかね?そのような提案は出していないがね?しかも君を叱った後、すぐに晴偉君と面談しててそんな時間は無かったはずだよ?」

事実確認が済んだところで、檍は速攻、鞄からリカレンダーアイを取り出し、今日を探す。

神の話では実行されたらリカレンダーアイの予告(カレンダー)は消えているはず。

今日の月まで到達し、日にちを見る。

「くっ…、まじかよ、」

「まじかよって、どうかしましたか?檍君?」

「すいません校長先生、ちょっと人を助けに行ってきます」

校長は何か勘づいたらしく、何も言わず、ただ頷くだけだった。

「ありがとうございます!」

律儀にお辞儀する間など無く、顔をあわせず、お礼をし、校長室を出ていく。

「やっぱり終わってなかったんだ、クソッ!これだから神は嫌いなんだ!」

歯を食いしばりながら、全力疾走で晴偉のいる教室まで向かう。

「たしか、晴偉は毎日、教室で、飯を食ってたはず!!」

走り出して数分もしないうちに教室についてしまう。

まさにこれが愛のパワーというやつか……

我ながら自分の脚力に感動しながらも教室の扉を思いっきり開ける。

「晴偉は居るか!!」

またもや教室一体の空気が檍によって破壊された。

沈黙だけが続き、何も返事が来ない。

そして見る限り晴偉の姿が無い。

「お前さぁ、」

声をかけたのは少々目立ちたがり屋そうないわゆるギャル。

「お前晴偉の居場所知っているのか!?」

話しかけてきたということすなわち、晴偉の居場所を知っているに違いないと思っていたのだが。

「晴偉のストーカーなんでしょ?やめたほうが良いよ?そういうの?」

俺が晴偉のストーカー?勘違いにもほどがある。

というか多分冗談なのだろう。

「そんな冗談いってな…」

「冗談言ってるように見えるかよ?」

檍が話している途中に割り込みで話してきた。

確かに声はガチ、そしてギャルの表情もガチの顔をしていた。

「そんな、証拠はどこにあるんだよ!」

少し強気で無罪を訴える。

「証拠?証拠もクソもねぇよ!でもよ、故人が言ってたことは聞き入れたくなるもんだろ……わかりやがれ!!」

麗がそんな事言うはず無いが、このクラスの故人は一人しかいなかった。

だがここで引き下がるのが妥当、今にも晴偉は死にそうなのだから。

それにこれ以上、話をややこしくしたくない……

「話を変えよう…」

「話を変えたイコール認めたってことでいいよなぁ!?」

ギャルが檍に殴りかかる。

「ちょ!やめろ!」

押し倒されて、檍はギャルの下敷きになりひたすら顔面を殴られ続けた。

これだから暴力女は嫌いだ……。

「おい!こいつ空き教室に連れて行け!!」

檍はあとから来たギャルの仲間に引きずられながら空き教室に連呼される。

〜数分前〜

昼休みの中間、教室でご飯を食べ終わった晴偉は弁当箱を片付けていた。

3つの机は中心が三角形になるように並べられ、晴偉はその一つの席で弁当箱の片付けをしていた。

「今日も美味しかったなぁ」

「偉いな、毎日美味しい美味しいって言って食べて、この事聞いたらお母さん泣いちゃうぞ?」

「えへへ、そうかなぁ?」

少し嬉しそうに返事をした。

その後、弁当箱を片付け、少しの時間、友達と退屈していると扉から「晴偉さん、そろそろ」と晴偉を呼ぶ声が聞こえる。

「あっ!ちょっと行ってくるね!」

「「いてらー」」

晴偉の友達の二人がハモる。

ハモる姿を見た晴偉はくすっと笑いながら席を立ち、扉の方へ歩き始める。

その背中を見ながらふと、友達が疑問に思う。

「ん?あいつが晴偉になんのようだ?」

「あいつ放送委員任もさせられてるらしいし、なんかやんじゃね?」

「でも放送とかは必ず放送掲示板に乗ってから放送するよな?」

放送掲示板とは、放送室の前に貼ってある紙で、そこには放送をする内容などが書いてある。

「しかも今日放送予定は何もなかったぞ?」

「じゃあヤんじゃね?」

「かもなぁ…」

またもや、だらんとした格好へと戻る友達だった。

「さ、入ってください」

「はい!!」

そこは少し古びた古風ある放送室。

部屋の広さはだいたいワンルームくらいで、一角に放送用の器具など、一角にDVDの収容棚、そしてもう一角に放送マイクが設置され、もう一角は入ることが禁止されている扉の四角で構成されていた。

晴偉が入った瞬間閉ざされる扉に晴偉は少し驚きながらも放送室へと入っていく。

「じゃあ始めますか……」

「ちなみにどういった内容で放送するんですか?」

晴偉の前に歩いていたが急に立ち止まる。

そいつはゆっくりと晴偉の方を振り向きながら「放送?何を言っているんですか?」と意味不明な言葉を放った。

「え、だって今日は大会の感想会じゃ?しかも他のメンバーはどこに居るんですか?」

「君は感の悪い子だねぇ?」

「えっ……?」

「そんな子にはお仕置きが必要だよねぇ?」

晴偉はそいつに押され、倒れ込む。

その瞬間に晴偉の手がぶつかり、放送開始ボタンが押された。

檍が空き教室に連れて行かれ尋問が行われる2時00分。

放送室で晴偉が押し倒される2時00分。

空き教室は他の教室と離れていて、とても静かだったため小さな音だが放送が入った事に檍と晴偉の友達は気がついた。

「なんだ?こんな時間に放送……?」

檍に色々話を聞こうとわざわざベルトまで持ってきてくれた友達は放送が流れているチャイムに目を向ける。

その放送は音量調整がしっかりされていないのか、とても小さかった。

友達はチャイムに耳を傾け、檍も耳を傾けると、小さく聞こえてくる声。

その声は日本語がわからなければただ単に可愛い声。

だが日本語がわかる檍や友達は意味合いがとてもわかり、焦りだす。

「おい、これ……今日は放送が流れないはずだよな!?」

「それあんたが言ってたじゃん!」

「そういえば特別演劇か!」

「あーね!内緒にしといてね!」

現実を見たくないのか、理由をつけて現実逃避をしているように檍からは見えた。

次に聞こえる声は檍の喉を震わせた。

どことなく聞こえて来る喘いでいる声と「クチュクチュ」とまるでうがいをしているような音が聞こえてきた。

「あっ……そ、そんな……、そんな……、」

言葉が出てこないというよりそれぐらいしか言えなかった。

これが本当の絶望だと思うと栞の絶望は嘘のようだった。

「う、嘘……だ…嘘だ!!!早く!!!はなっっせ!!!この野郎!!!」

檍は机に拘束されていて動くことができていなかった。

「早く!!離せよ!!!!貼っっっヤっく!!!ひゃやく!!!」

滑舌が悪く、うまく話せていなかった。

檍の瞳からは耐えているのに、涙がこぼれており、情けなかった。

友達はというと、そんな檍と晴偉の声を聞いては見ては耐えられなかったのかその場で爆笑する。

「………、なんgおがじい(なにがおかしい)……何がおかしい!!!!!」

檍の感情は悲しみ、怒り、憎しみの3つで構成されつつあった。

「いやぁ、おかしいのなんのって!これでお小遣いがもらえるとか神バイトすぎでしょ!!」

「正直、晴偉はうちらにとって邪魔でしかなかったしね?」

「いやぁこんな簡単なのにこんなにもらっちゃっていいのかなぁ!あ、そうだっ!残念だったねぇ!五嘉津檍(いつよつおく)君っ!彼女!絶賛、レ◯プ、ク◯ニで感じてま〜す!!」

腹黒ギャルがまたもや大爆笑する。

「………」

「おっとぉ?もしかして彼女がレ◯プされてるの聞いて興奮して反論できない感じ??」

「ある意味感じてんの草生えるんですけどぉ」

檍にはもう何も感情が残っていなかった。

晴偉の思い出や学校生活の思い出、家族の思い出のすべてが、たった一つの思いにシフトチェンジしていた。

「おめぇら、腹くくれやぁ…」

「その状態でなにができっ……」

言葉がなくなったと思ったら、一番威張っていた腹黒ギャルのおなかには何かが貫通したかのようなでっかな穴が空いていた。

「なnこr(なにこれ)…」

その穴はへそから心臓までを開けるまで大きい穴で最後に言葉を発するのがやっとだった。

腹黒ギャルが大量の血を出しながらその場に倒れ込む。

多分即死だろう。

「いやぁぁぁぁぁ!!!佳恵子(かえこ)!?佳恵子!!!」

声をかけても無駄だ。

「あんた!!こんなことっ……」

「うるさい顔には刺々弑(とげとげしく)……」

へそから心臓までを突き抜けるほどの棘を頭に放ったため、首から上がすでに無くなっていた。

腹黒ギャルの仲間も死んだところで縄を棘で切り、マッハで放送室まで向かった。

正気を取り戻した檍は晴偉のことを思いながらただひたすらに放送室へ向かう。

中庭に差しかかったその時、チャイムから「痛い!痛い!」

晴偉の痛がっている声が聞こえてくる。

「くそっ!!くそっっっ!!!」

その声に涙を流しながら最悪生きていればと思った檍は止まった足に棘を刺し、足を無理やり動かし、放送室へ向かう。

その間、涙は流しっぱなしだった。

1之伍.最後の面会

放送室を前にして檍は怒りというより、恐怖のほうが勝っていた。

この先でもし晴偉が死んでいたらと思うと震えが止まらない。

だが時間が命だ。

そう決意し、扉に鍵がかかっていたため、棘で扉を破壊する。

気持ち悪い……。

今自分が何をされているのかがわからない。

はじめは弄られるだけで済むかと思っていた晴偉だが、自体が悪化し、そいつの物をしゃぶらされ、そしてとうとう檍に捧げるはずだった処女までを奪われてしまっていた。

晴偉の体はもう限界に近い形であり、もう感覚がなくなりつつある。

「檍……助けて………」

そこからの記憶は無くなっていた。

放送室の中に入ると、廊下の空気とは異なり、重く暑い空気が漂っていた。

その空気と同時に流れてくる匂いは嗅ぎたくもない女の匂いと男の匂いが混ざりあった嫌な匂いだった。

放送室を覗くと、そこには淫らな格好で地面に倒れ込み気絶している晴偉と扉が破壊されたことに気づいておらず、事後の賢者タイムに入っているのかぼんやりと外を眺めているそいつが居た。

「もう一戦行くか……、ほら!立てよ!!」

そいつに蹴り飛ばされた晴偉は目を覚まし、自分が置かれている現状を理解すると、震えが止まらなく、その場から座ったまま動くことができなかった。

「お前は俺の性奴隷(せいどれい)なんだよ!!ほらとっととしゃぶれ!!」

そいつはズボンを下ろし、晴偉の口に無理やり自分の物を押し込もうとしていた。

晴偉はその行動に否定的で、口を開けようとしなかった。

「こいつ!自分が置かれてる状況がわかってんのかよ!!」

そいつは晴偉にもう一発、また一発と暴力を繰り返していた。

晴偉は小声で「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」としか言えなくなっていた。

「もう耐えられない……」

檍はこれ以上は耐えられなくなり、棘を一発打ち込む。

その間、檍の感情はショックで壊れていた。

あったはずの目の光はいつの間にかに無くなっていた。

打ち込んだ棘はオートエイムが積まれているかのように一直線にそいつの物を貫通した。

「くっ!!いってぇぇぇ!!誰だぁ!?」

そいつはその場に倒れ込み、物をおさえながらも視点は棘が飛んできた方へと目が行く。

「ッ……!!なんでオメェがいんだよ!!五嘉津檍(いつよつおく)!!」

「うるさい………」

「あのバカども、処理に失敗しやがったのか!!!」

怒っているのか、放送室の床に一発殴りを入れていた。

「はん!だがいいさ!!檍君よぉ?もう晴偉ちゃんと一時を過ごしたからよぉ?俺はそれで十分なんだわ!あぁ可愛かったなぁ!!晴偉ちゃんの喘ぎ声は!!知ってるか?こいつレ◯プされてんのに感じちゃってたんだぜぇ!?可愛そうだなぁ?愛しくて愛しくてたまらなかった自分の彼女がこんなおじさんに汚されてよぉ!!!晴偉ちゃんのま◯こはもう俺のせ◯しで染まっちゃったぜぇ!!!残念だったなぁ!!!初戦、脳でしか動いてない優等生くんがよぉ!!!」

うるさい、とにかくうるさかった……。

うるさいだけでほざくやつは嫌いだ……。

ここでさっきまでうるさかったそいつの声は消えた。

嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ。

自分を棚に上げて自慢するやつは嫌いだと一発。

肝心なときに勇気が出ない「「「女」」」は嫌いだとまた一発。

期待度が高い「「「女」」」は嫌いだとまたまた一発。

すぐ騙される「「「女」」」は嫌いだと更に一発。

「好きだよ……」という声を最後に心拍は停止し、命は儚く散っていった。

すべてが可愛かった「「「君」」」が好きだったと最後の一発。

痛みを覚えると、ずっと暗かった景色がはっきりしてくる。

そこには無惨な姿で死んでいる数学を担当する教師と、どことなく幸せそうに檍を抱きしめながら死んでいる晴偉がいた。

「ははっ……はははっっ……はははははははははははは!!!!これで!!!!これで良かったんだ!!!!!!これで!!!!!!これで……、これで……」

口から出てくる大量の血とともに目から流れてくる涙は本物だった。

「晴偉っ……晴偉っ……」

「好きだった、自分を棚に上げて自慢する姿が好きだった!!!」

心に一発。

「肝心なときに勇気が出なかったうぶなところが好きだった!!!!」

心にまた一発。

「期待値が高くて期待してくれてるところが好きだった!!!!!」

心にまたまた一発。

「すぐ騙されてどっか行っちゃうような天然なところが好きだった!!!!!!」

心に更に一発。

「好きだよ……」と彼女に告げる。

すべてが可愛かった「「「君」」」の唇に檍は自分の唇を捧げて最後の一発。

ぽっかり空いた自分の体は戻ることなく、心拍が徐々に弱まっていく。

「ははっ……これ良かたか……まだやりたいこ……」

「まだやりたいことがいっぱいあったのにな……」と言う前に心拍が停止していた。

「大丈夫ですか!!!救急隊で……」

そこには無惨な姿で死んでいる数学を担当する教師と、お互いを抱擁(ほうよう)しながら亡くなっている2人の姿が発見された。

2人は安らかそうにどことなく幸せそうに死んでいた。

1之陸.死後の世界

その後2人の死体と数学を担当する教師、本名八名町龍気(やなまちたつき)56歳の死体が回収された。

八名町龍気(やなまちたつき)は他の事件にも関与していることが警察の調べで発覚した。

最近この町で増えていた強姦殺人事件のほぼ半数は八名町龍気(やなまちたつき)がやっており、家族の娘と奥さんは龍気(たつき)によって殺された真実も明らかとなった。

娘、八名町麗(やなまちれい)と母の八名町露美(やなまちつゆみ)は父、八名町龍気に日々暴力、性行為をされ苦しんで、苦しんでいた後、龍気によって殺されたという。

ちなみにギャルたちは無事発見された。

八名町娘、母を除き、その事件一連の死亡者を殺すために使われた凶器は不明だが全員同じ凶器で殺されている跡があることから犯人は別にいると見て現在警察が動いているようだ。

事件はでかでかと新聞に乗り、テレビにも放送されるほどの大事件となった。

「いやぁ、あやつは良い死に方をしよった!!だが最後はもうちょっと残酷でも良かったんじゃがなぁ、まぁどちらにせよ、記念すべき一人目の主人公がどん底に落ちた!!これは良い進歩と言っていいじゃろう!!」

神はその場でパーティをやるような勢いで喜んだ。

「さて、次はどの主人公にしてやろうかのぉ!」

神はさらなる主人公を探しに道具片手に旅立った。

2.尾籠累光(おこるいみつる)の帰する。

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この世界には主人公が多いのだ! 金津義満 @kikkouyutui

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