【建設】錬金術工房:くっ、お金が足りない!

4月1日、春――


 次の建築目標は【施設:錬金術工房】だ。建設コストは以下の通り。


――――――――――――――――――――――――――――

 【錬金術工房】

  Lv1【費用 金1000 人材1 鉄材50 石材50】

     【効果:金・兵糧収入+25%】

――――――――――――――――――――――――――――


 鉄材は金4で鉄材1が買えるので、実質的なコストは金1200と石材50となる。当然、予算が足りない。

 兄上に依頼されたクエストを達成しても、今の予算では3ヶ月先、初夏まで待たなくてはならなかった。


「このたびはラクーンファイナンスをご利用下さり、まことにありがとうございます」


 そこで4月1日、ポンちゃんの上司カフェさんを屋敷に招いた。


「触りますか?」


「えっ、何度もいいんですかっ!?」


「貴方様は上客にございますので、お望みとあらばなんなりと」


「で、では、遠慮なく……!」


 商談に入る前に、カフェさんのごんぶとな尻尾に抱き付かせてもらった。

 ああ、この太さ、このボリューム感、ポンちゃんとは比べ物にならない……。


<「 もきゅぅぅ……っっ!! 」


<「ポンちゃんの方が形も触り心地もいいもきゅぅぅっっ!! 」


<「 もうゼッちゃんに言いつけるもきゅっ!! 」


「ポンちゃんそれは止めて!! 僕は純粋に、特大サイズのたぬ尻尾を抱きしめたいだけなんだ!!」


「そこまでわたくしの尻尾を愛して下さるとは、たぬ獣人冥利に尽きます」


 カフェさんはかなりの美人獣人キャラだけど、僕は尻尾と耳にしか興味がない。血の通ったたぬ耳を触らせてもらうと、応接間の席に着いて商談に入った。


「なるほど、その施設を建てると収益25%増しですか」


「はい、参考に今月の収益がこちらです」


―――――――――――――――――――――

 【兵糧】2531   (+ 931)

 【金】  356   (+ 680)

          返済(ー 450)

          (残り  8ヶ月)

―――――――――――――――――――――


 銀の目で収支を見せると、カフェさんの目が鋭くなった。これが本当のエコノミック・アニマル、いやエコノミック・ラクーン・ドッグというやつなのかも……。


「本来は追加の融資となると条件が非常に厳しくなるのですが、確実に税収が上がる貴方の場合は、話が別です」


「では!」


「ただし条件がございます。そこのポンデ・リンが勝手に建設した【自販機&ガシャポン・ポン】コーナーの、アップグレードもしていただきましょう」


<「 もきゃーっ!? 」


<「気をつけるもきゅ! この人がポンちゃんの特になること、するはずないもきゅぅぅっ! 」


 【自販機&ガシャポン・ポン】はポンちゃん完全出資の事業だ。ラクーン商会にはポンちゃんに販売した商品の利益しか入らない。まったく上手くやったものだった。


「えっと……つまりどういった腹積もりなのでしょうか?」


「我が社はポンデ・リンを再評価することにいたしました。この世界の者たちはよっぽど自動販売機とガシャポン・ポンがお好きなようで、あの施設は現在、たぬまを超える収益を上げております」


「え、そんなに……?」


 このわがままボディの中に、ポンちゃんはどれだけのお金を隠し持っているのだろう。

 ラクーン商会を頼らず、ポンちゃんにお金を貸してもらった方がよかったのだろうか。


「先ほどモールを拝見いたしましたが、我がラクーン商会の品物を加工した商品も数多く、わたくし、その光景に得も言われぬ興奮にとらわれました」


「興奮、ですか?」


「ラングリシュエルワールドの皆様は――いえ、貴方の力がもたらしたザラキアの民は、まことたくましい方々ですね。特にラッコのマーチのパフェはわたくし、追加でもう1つ注文してしまうほどに感動いたしました」


「パ、パフェをおかわり……?」


「は、何かご不明な点でも?」


「いえ……意外と大食いなんですね……」


 メチャメチャ冷酷なビジネスマンだった人がふいに見せた笑顔に、僕は『あーりがとう、ございー、まーすっ』と感謝したくなった。


「わたくしの個人的裁量で、金2000をご領主様に融資いたしましょう」


「え、本当ですかっ!?」


「ただし、8ヶ月で完済していただきます。月に金250の返済となりますが、それでよろしいですね?」


「え? ちょ、ちょっと待って下さい。あの、利息は……?」


「ご心配なく、これは純然たる投資です。我が商会は【自販機&ガシャポン・ポン】の拡張で、十分な増収が見込めると分析しております」


 非常にありがたい話だった。カフェさんはもふっとした尻尾以上に、度量の大きな女性だった。

 その【自販機&ガシャポン・ポン】のコストと効果を確認した。


――――――――――――――――――

 【自販機&ガシャポン・ポン】

  Lv2【費用 金1250】

     【効果:金200(月)】

――――――――――――――――――


「わかりました、ではその条件でご融資下さい。いずれはコンビニのアップグレード、さらには他のラクーン商会の施設も建設してみせますので」


「はい、では契約成立です。こちらをどうぞ」


 カフェさんが手を逆さにかざすと、テーブルの上に金貨の山が現れた。確かに200万シルバー:金2000だった。


「ご活躍を心から期待しております。できれば美味しいスイーツをさらに……おほんっ。……では、参りましょうか、ポンデ・リン」


<「 もきゃぁっ!? ポ、ポンちゃんこの後、大切なお仕事があるもきゅぅっ! 」


「何を言うのです、今や貴方はラクーン商会と取り引きする大手小売店オーナー。これからの予定を話し合わなければなりません」


<「 外せないお昼寝の予定があるもきゅぅぅっ!! 」


「モールのフードコートがよろしいでしょう。参りますよ、ポンデ・リン」


<( 助けて……助けて……!? )


<( ポンちゃんに何か外せない用事を振って!? )


 僕はポンちゃんの吹き出しを見ないことにした。カフェさんはたぬきを小脇に抱えて一礼して、うちの屋敷をやや弾むような足取りで出て行った。


 メチャクチャガメツい人がふいに見せた笑顔を、思い返しながら。


「アルト様、どちらへ?」


「あ、ザンダー爺! ロゼッティアはどこ?」


「奥方様ならば工房に向かわれました」


「まだ結婚してないよ……っ。ありがとう、ちょっと行ってくる!」


 執事のザンダーがここにきて外出がしやすくなった。コンビニと自販機漬けだった食生活が劇的に改善された。

 おまけにザンダーは元軍人。老輩ながら護衛としての働きも期待できる。


「陳情もろもろ、些事はこの爺にお任せを」


 仕事を取られがちだけど、それはそれでよし。僕はロゼッティアを誘いに出かけた。

 職人であるロゼッティアも錬金術工房の建設を、ずっと心待ちにしていたのだから。


―――――――――――――――――――――

 【兵糧】2531   (+ 931)

 【金】 2356   (+ 680)

          返済(ー 700)

          (残り  8ヶ月)

―――――――――――――――――――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る