【完成】鉄壁の城塞:たぬルーム

「バルコニーに行きたいんだけど、案内してもらえるかな、ザンダー?」


「……なんの遊びか存じませんが、ご命令とあらば喜んで」


 ロゼッティアが『知ってるの、アルトッ!?』と言いたそうな顔で僕を見るから、さっきの不意打ちの仕返しに笑い返してあげた。


「このザンダー、ロゼ様のような明るく美しく健康的な女性と、アルト様がご婚約なされたこと、まことに喜ばしく思っております。ああ、思い返せば、幼少期のアルト様は――」


 お喋りな執事ザンダーがバルコニーに連れて行ってくれた。

 防壁の内側には見慣れた庭があり、樹木や花たちも取り除かれることなくそのままだった。


 城に入ってすぐのところは防衛のための大広間になっていて、大広間の周囲には渡り廊下が付いていた。襲撃者に対して全包囲からの射撃を行うための構造だろう。


 階段を2つ上がり、入り口の3階部分に引き返せばそこが白亜のバルコニーだった。


「あの日、この爺は誓ったのです。現皇帝の陰謀により倒れた前皇太子殿下に代わり、この爺がアルト様とミュラー様を守ると!」


「そ、そうだったんだ……? 言われてみれば、そうだったような気がしてきたよ……」


 爺は僕たちを案内すると、やさしそうに僕たちを見つめてバルコニーを出て行った。

 3階の高さにあるバルコニーからは、ザラキアの発展途上の町並みを一望できた。


「ザンダーさんには驚いたけどっ、ここ見晴らしサイコーだねーっっ!!」


「うん、これはいいね。畑、ドロイド工房、職人街、モール、自販機コーナー、コンビニ、全部見渡せる。達成感があるよ」


「うんうんっ、次はどこに何を建てるか、わくわくしちゃうよねー!」


「建てて正解だったよ。もし襲撃されてもここに逃げ込めば安心だ」


 バルコニーに満足すると、僕たちは城内をさらに回った。

 大型の厨房、兵士宿舎、武器庫、地下貯蔵庫。どれも立派で頼もしかった。


 僕たちの部屋は2階から3階に移され、その部屋の隣には小さな扉があった。

 扉には鍵がかかっている。ノックをすると『モキャーッ』と返事が返ってきた。


<「 ポンちゃんのお部屋にいらっしゃいませ、もきゅ! 」


<「 さあどうぞどうぞ、中へもきゅ! 」


「うっはーっ、ここかわいいーっ!」


<「 ご主人様、ありがとう! お礼にポンちゃんのベッド使ってもいいもきゅよ! 」


「いや入れと言われても……」


 僕たちの肩幅ではその小さな扉を抜けることはできない。頭だけで精々という大きさだった。


「わはーっ、全部ちっちゃーいっ! かわいいしー、暖房効率よさそーっ!」


 と、僕の婚約者は頭をたぬきの家に突っ込んでそう言った。僕から見れば隙だらけで、突き上げられたお尻とか見放題だったけれど……。


「おおーっとぉー? アルトー、どこ見てんのー?」


「み、見てない……っ、見てないっていうか、見せてきたのはそっちじゃないかっ」


「……ふーん? まあいいやー、あたしたちの部屋、もう1度見て見よっか?」


「い、今……っ!?」


 ポンちゃんとお別れして、隣の僕たちの部屋に引き返した。

 部屋の広さは以前と変わらない。外装が白亜の石壁に変わり、ベッドがクイーンサイズになっていた。


 ロゼッティアがそのベッドに横たわる。


「ねぇ、アルトー? ちょっとだけゴロゴロしてかなーい?」


「ご……ご用聞きの仕事が、あるから……っっ」


「どーせモールでだらだらするだけでしょー? おいでおいでー♪」


「待ってよっ、こんな、昼間から、ダ、ダメだよ……っ」


「ゴロゴロするだけなのにー、何期待してるのかなー♪ ほら、おいで、アルトー♪」


 ここまで言われたら断れない。だって僕は改変により、ロゼッティアの婚約者となっているのだから。拒めば彼女を傷つける……。


 妖艶な笑みを浮かべるロゼッティアの隣に、僕は借りてきた猫のように寝そべった。


「やばー、楽しすぎるー♪ あたしたちの屋敷がお城になっちゃったー、あははっ、すごーいっ♪」


「うん、それについては同意だよ。ザンダーさんが生えてきたのは、計算外だったけど……」


「面白い人だからあたしはいいと思う!」


 給料の支払いで収入が減るのが痛手だけど、どちらにしろ必要な人材だった。これでノワールさんが治安維持と練兵に専心できる。


「じゃあそろそろ僕は行くね。改変で物事がどうなったのか、街に出て観測しなきゃ」


「はい、残念ー!」


 けれど身を起こそうするとロゼッティアに腕を回された。いい匂いのする身体を密着させてきて、僕の顔を間近からのぞき込んだ。


「逃げられると、思っていたのかなぁー?」


「お、思いたいっ、思わせてよっ! だってほら窓を見てっ、まだ昼間だよ……っ!?」


 立派なガラス窓からは明るい日差しが差し込んでいる。羞恥心を隠してくれる暗闇はどこにもいない。


「あー無理♪ 劇的リフォームであたしっ、ボルテージ上がりまくりで今無理っ! ごめんね……ごめんね、アルト……」


「ひ……っ、ひぃっ!?」


「大丈夫……あたしの方がお姉さんなんだから、全部任せて……」


 こうして僕は昼過ぎから、顔を真っ赤にしたままのバレバレの姿で、街に出てご用聞きを行うことになったのだった。


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【備蓄:辺境伯領ザラキア】

 【兵糧】1600   (+ 920)

 【金】  126   (+ 695)

        新規支出(-  30)

          返済(ー 450)

          (残り  9ヶ月)

 【木材】132 【石材】97 【人材】3


【防衛設備】

・【御殿】耐久800/800

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