【建設】御殿:僕たちの新居
「この【御殿】というのは?」
「たぶん、この屋敷だよ。陥とされたら終わりの最終防衛ラインだ。ただこれを建設しても、街や畑は守れない」
ただ今の予算で建てられるのは、この【御殿】だけだ。
「建てましょう。いずれにしろ有事の際は、アイゼンベフ要塞からの援軍が頼りです。街と畑は捨て、ここで民を守るのが上策かと」
「……へぇ、そういう発想はなかった。さすがは歴戦の傭兵ノワールだね」
画面を消してノワールさんにうなずいた。ここに守りの堅い避難所を生み出せば、来月の移住者が増えてくれるかもしれない。
それにこの屋敷が立派になるなら、僕やロゼッティア、ポンちゃんにとっても、日常を彩る楽しいイベントになる。
「ロゼッティアとポンちゃんは?」
「は、奥様は工房、ポンは街で労働、あるいはバクチに勤しんでいる頃かと」
もう妊娠6ヶ月目に入っているのにロゼッティアは工房通いを止めてくれない。
「なら僕はロゼッティアを呼びに行くよ、ノワールさんはポンちゃんをお願い。って、まだ結婚してないよ、僕ら!」
僕の力は現実を改変する。だからこそ、ここで暮らす家族には僕の隣で変化に驚いてほしい。
「お任せを。……楽しみにございますね、ご領主様」
堅物のノワールさんが童心に返ったかのような明るい顔で笑った。彼女はすぐにそれに気付いて、表情を引き締めてしまったけれど。
・
事情を説明しながらロゼッティアを屋敷に連れ帰ると、ポンちゃんとノワールさんが古い
<「 ポンちゃん、小さなお部屋がほしいもきゅ! 」
「いいねーっ! あたしは自分の作業部屋がほしい!」
「広い厨房と武器庫も必要となりましょう」
「それも大事だね。それで他に要望は?」
「身を隠しながら矢を放てるバルコニーと、バルコニーと接続された防壁が必要かと」
<「 ポンちゃんの部屋には、小さい暖炉と家具がほしいもきゅ! 」
「みんなの避難所にするならー、備蓄倉庫とかも必要なんじゃない?」
みんなのおかげでだいたいのイメージがまとまった。
これから僕たちの家を新しくする。快適にすると同時に、いざというときにみんなを守る最後の砦をここに築く。
「よし、イメージも固まったし、いけそう!」
僕は銀の目の力を使った。
―――――――――――――――――――――
【施設:御殿】を建設してもよろしいですか?
→・是 ・否
―――――――――――――――――――――
どこに建設するかの指定はできなかった。領主の屋敷を中心とした、250メートル四方が光り輝くことになった。
「なんか感慨だね……! ついにここまできたぁー、って感じだねーっ!」
<「掛け布団はふかふかの羽毛がいいもきゅ! ポンちゃんしか入れないプライベートルームもきゅ! 」
「おいおいは多くの兵を駐屯させたいところです」
僕たちは屋敷からさらに距離を取り、建築と改変が引き起こされるエリアを出た。
「それじゃ作るよ、ここに【御殿】を!」
僕は画面を手元に表示させて『・是』をタッチした。
――――――――――――――――――――――――――――――――
ザラキア領主:アルト(100/100)は【御殿】の建築を進めた!
成功! 建設度が100%となり【御殿】の建設が完成した!
土地整備により木材30を獲得! 石材35を獲得!
――――――――――――――――――――――――――――――――
僕たちの屋敷が輝き、再構成されてゆく。
まず最初に外壁となる石の壁が高々とせり上がった。
それが終わるとその周囲の地形が変化して、水のない小さな堀となった。
そして外壁の内側には、バルコニーと尖塔を持つ立派な城が建っていった。【御殿】とあるので和風建築を連想したけど、それはなかなかどうして立派な西洋のお城だった。
「うわーっ、お、おっきい……っ!! え、これがあたしたちの新しい家っ!? で、でっかぁぁーっ!?」
<「 ポンちゃんのお家がお城になったもきゅぅー♪ 」
「素晴らしい! これならば領民全てを収容し、援軍の到着まで待ちかまえることも容易でしょう! 」
僕たちが暮らしていた領主の屋敷は、ところどころ木材が腐り、管理されていない空き部屋ではすきま風が吹くような古い建物だった。
それが銀の目の力で、国内諸侯が見れば羨むほどの立派なお城に変わっていた。
外壁を含めれば、その敷地面積は150メートル四方を超えている。
とにかく僕たちの新しい家【御殿】は縦にも横にもやたらにでかかった!
<「 ポンちゃん探検してくるもきゅー! 」
「私も施設の確認に入ります、ご領主様方はごゆっくり!」
ノワールさんも若い頃はヤンチャだったのかな。はつらつとした笑顔を浮かべて、全力ダッシュするたぬきの後ろを駆けていった。
「僕らも行こう。お手をどうぞ、奥様」
「ありがとー、旦那様ー♪ ちゅーっ♪」
「う……っっ?!!」
湿った唇と吐息が頬に触れた。
ロゼッティアはいちいち過剰反応を起こす僕を明らかに楽しんでいた。
「あー見てアルトー! バルコニーあんなに高いよーっ!」
「あ、あう……あう……」
「まずはあそこ行こ! 一緒にあたしたちのザラキアを見渡そうよーっ!」
ロゼッティアの手を引くつもりが逆に引っ張られて、僕は高く堅牢な城門に移動した。
「お帰りなさいませ、アルト様、ロゼ様。いつもながら仲睦まじく、この老輩もつい嫉妬してしまいますぞ」
城門の前には執事風のお爺さんが槍を片手に立っていた。
誰この人……? そう言ってはならないのが僕の力のルールだ。
「アルトッ、誰このイケオジッ!?」
「はっはっはっ、ご冗談をロゼ様。アルト様を幼少より見守ってきたこのザンダー、斯様な城を守れる日がこようとは恐悦至極にございます」
し、知らない……。
こんな素敵なイケオジ、僕の人生にいなかった……。
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