【アプグレ】畑:農家の剣士志望娘

 ここで残念なお知らせがある。ポンちゃんは付いてきてくれなかった。支部長であるポンちゃんには仕事があった。

 でも代わりにロゼッティアが付いてきてくれた。


「まあ、そんなことが……? アルト様のすることとは思えません……」


「あたしも驚いちゃったー。でもね、さらにね……」


「まあっっ!? アルト様はもう16歳……知らぬうちに大人になられていたのですね……」


「2人ともっっ、僕の後ろでこそこそやるの止めてよ……っっ」


 【施設:畑】が見えてきた。

 僕は耳をふさぎたい葛藤を抱えながら、僕じゃない僕がやった行為の数々を暴き立てられていた。


「恥ずかしがることはありません。このリアーナ、幼少より貴方を見守ってきた者の一人として、これほど喜ばしいことはありません。……少し、妬けますが」


「あたし、約束するよ! アルトはあたしが守るから、リアーナ様もミュラー様も心配しないで」


「頼もしい限りです……。あ、私のことはリアーナとお呼び下さい」


「じゃああたしは、ロゼ、ゼッティ、ゼッちゃん、好きな呼び方でどーぞ!」


「はい、ゼッティ。ふふ、お腹の子の名前も考えないといけませんね……」


 知らない間にパパになっていたでござるの巻……。

 それにロゼッティアが僕を見る目も、心なしか少し変わったような気がする。

 言語化しにくいのだけど、なんというか、今も獲物を見るような目で見られているような……。気のせい……だよね……?


「そろそろ、始めてもいい……?」


「あっ、あのねー、リアーナさん、アルトの力は本当にすごいの! すっごいことになるから、覚悟しておいた方がいいよ!」


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 【畑】Lv1をLv2にアップグレードしますか?

 →・是 ・否

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 銀の目を使って確認画面を2人に見せて、『是』を押した。


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 【畑】が隣接エリアに拡張されます。よろしいですか?

 →・是 ・否

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「ねぇアルトー、どういうことー? あたしの工房が畑の中に埋もれたりしないよね……?」


「心配ないよ。ほら、光ってるのは反対側の土地だよ」


「そっか、ならよしっ! コマネチさんたち喜ぶだろうなーっ! あ、後でうちの工房見せるから寄ってね、リアーナ!」


 問題なさそうなので『是』を押した。


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 ザラキア領主:アルト(50/100)は【畑】のアップグレードを進めた!

 成功! 建設度が100%となり【畑】Lv1は、【畑・田園】Lv2となった!

 土地整備により木材10を獲得! 石材25を獲得!

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 荒れていた東側の土地が整地された。

 それが終わると地面全体が白く輝きだし、川沿いの地形そのものが変化した。


 畑がみずみずしい黒土に変わった。

 隣のエリアは水田となり、畑と水田の境目にブドウ畑が生まれた。


 米。それは環境さえ整えば、小麦を超える生産効率を発揮するチート作物だ。

 それが黄金の穂をたらして、冬真っ盛りだというのに彼方に輝いていた。


「これがっ、アルトの銀の目の力っ!」


「まあっ!?」


「帝都の人はアルトのこと怪物とか山猫とか、酷いこと言ってたみたいだけどー、そいつらみんなバカ! アルトの銀の目はっ、みんなを幸せにする力なんだよーっ!」


 それを聞くとリアーナ姉さんがうつむいてしまった。いやうつむきながらも、彼方に広がった農園を見つめていた。


「もしこの光景をミュラー様が拝見されたら、さぞやお喜びになられることでしょう……。士官学校でもミュラー様は、アルトの悪口を聞くたびに、深く傷ついておられていましたから……」


 リアーナ姉さんは僕たち兄弟のために感動の涙を流してくれた。


――――――――――――――――――

【畑・田園:Lv2】

 【効果:兵糧400(月)】

 【労働者 16/16】

 (現在のザラキアの【求職者】16)

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 これで3ヶ月後には兄上の依頼を達成できる。

 リアーナ姉さんにそう説明して、橋の向こうの畑と田園を訪れた。


「これルイーズッ、何畑さぼって剣ふっちょるっ!」


「うるせークソ親父っ、何度も言ってるだろ! オレはコマネチおじさんみてーな剣士! いや、冒険者になる女だぜっ!」


 お邪魔すると畑はどうも騒がしかった。

 ブドウ園の辺りで、女の子が剣を振りながらお父さんとケンカをしていた。

 髪は茶色。太い足と大きな胸をたくわえた、農家の娘さんらしい健康的な子だった。


「あっ、アンタはまさかっ、ミュラー元帥の副官の、リアーナ様じゃねーかっ!?」


「いかにも私がリアーナだ。君は?」


 リアーナ姉さんが外向けの軍人の顔になった。


「オレはルイーズ、ここの人間だ! けどこう見えてオレ、これでも体力と剣に覚えがあるんだぜ! なぁっ、オレを鍛えてくれよ、リアーナ様!」


 気質はかなり荒そうだ。気の強さが目つきに出ていて、僕には少し近付きがたかった。


「アルト様、この娘、体格も気質も戦士に向いた、なかなかの掘り出し者かと存じます。可能ならば私は願いを叶えて差し上げたいところなのですが、よろしいでしょうか?」


「もちろん。ザラキア名物・自販機のハンバーガーとおでん、チョコレート菓子、コンビニ弁当を用意して帰りを待ってるよ」


 畑をアップグレードしたら、水田とブドウ畑と、冒険者志望の女の子が生えてきた。

 彼女は将来建てる予定の【ダンジョン】と相性がいいと思う。


「ありがとうございます。話は聞いたな、ルイーズ! アルト様のお許しにより、私はネビュロニア兵の基礎をお前に叩き込んでやろう。さあ、その剣をかまえろ!」


「やったぜ! よろしくお願いしますだぜ、リアーナ様!」


 僕の人生とは明らかに毛色の異なる汗臭い展開が始まったので、ロゼッティアと畑を離れて橋を渡った。


「ごめんね、ロゼッティア。身重のところ悪いけど、買い出しに付き合ってくれる?」


「えー、断る理由ないよー! リアーナさんが喜びそうなご飯とか、かわいいガシャポン・ポン、一緒に探そう!」


「ありがとう、女の子の好みとかわからないから、助かるよ」


「あっ、ノワールさんだっ!」


 その時、ロゼッティアが川岸を指さした。今日1度それをやられていた僕は、それが騙し討ちしかけるためのブラフだと知っていた。


「嘘ーっ♪」


 知っていたけど僕は騙された。振り向いてもそこに傭兵のノワールさんなんていなかった。

 ロゼッティアは隙だらけの僕に正面からくっついてきて『なんかイチャイチャしたくなっちゃた♪』と僕に断ってから、その通りにした。


 明らかに、アップグレードを経たロゼッティアは、その積極性も大幅アップグレードされていた。


「改変でこの世界に迷い込んできたアルトくーん、今夜からあたしたち、普段通りにー、一緒に寝るんだよー♪」


「え……。う、嘘だよね……?」


「こっちは、本当ー♪ 楽しみだね、アルトー♪」


 何度も何度も繰り返すことになるけど、それでも声に大にして言いたい。

 僕の力はヤバすぎる……!! 一緒に寝るなんてそんなの、一睡もできる気がしないっ、翌朝には心臓が限界を迎えて事切れてそう!!


 父親になる覚悟だって、そんなのいきなり突き付けられても、つくはずがなかった……。


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【備蓄:辺境伯領ザラキア】

 【兵糧】 680   (+ 901)

 【金】  381   (+ 680)

          返済(ー 450)

          (残り 10ヶ月)

 【木材】127 【石材】87 【人材】1

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