【来客】姉さん:クエスト発生
はぁ、どえらいこと、してもうた……。
いや僕はしてないけどしたことになっているのが理不尽だ!
と世間に訴えようにも理解してくれる人はどこにもなく、畳みかけるようにエロ漫画みたいな映像が脳裏に流れ込むと、僕はベッドで悶絶するしかなかった。
工房のアップグレードはもうやりたくない、恐い、ヤバい、僕はロゼッティアをはらませてなんかいなぃぃっっ!
それからさらに悶絶し、改変された記憶と改変前の記憶をひたすら『ブツブツ』言いながら統合していると、ドアから小さなノックが響いた。
扉の向こうで『もきゃー』とか『みゃー』とか鳴いているやつがいる。
<「 ポンちゃんもきゅ! 開けてもきゅ! 」
<「 あ、ご主人様! 綺麗なお客様がきたもきゅ! 」
ポンちゃんを抱っこすると気持ちが落ち着いた。
現実の僕は未成年のくせに年上をはらませたエッチ星人だけど、ポンちゃんのもふもふはどこにいようと変わらなかった。
ポンちゃんが案内してくれたのは陳情に使う応接間ではなく、暖炉で薪が焚かれたリビングだった。
僕がやってくるとミュラー元帥の右腕、副官リアーナが席を立ってかしこまった。
「リアーナ姉さん!」
「しばらくぶりです、アルト様。任務でたまたま近くに寄ることになりまして、ミュラー様のお手紙をお持ちしました」
「兄さんの……?」
「はい、こちらを。アルト様の目まぐるしいご活躍に、ミュラー様はいつだって誇らしくされておられますよ」
原作では厳しい女軍人のリアーナさんは、やさしく僕に微笑んで兄の手紙を渡してくれた。早速呼んでみた。
――――――――――――――――――――
前略――
なんてかしこまった手紙は俺たちらしくないよな、タケちゃん。そっちの活動が軌道に乗ってきたようで何よりだ。
ずっとそっちに行きたかったんだが、俺にも野望がある。元帥の仕事に、政争、未来を変えるためのせせこましい下準備。何をするにも時間が足らず、なかなかそちらの視察というわけにもいかん。帝都とザラキアは遠すぎる。
しまった、これではグチっぽいな。
この手紙を送ったのは他でもない、祝福のためだ。タケちゃん、婚約おめでとう。まさか子供まで作るなんて、やるじゃないか。
危うくミュラー元帥という役を忘れて、リアーナの隣で笑い転げるところだったぞ。お前、意外と好き者だったんだな。まさかJKくらいの子に手を出すとは思わなかったぜ。
けどそういう生き方も案外ありだろうな。せっかく転生したのだから、そういう生き方の方が正しいのだろう。
おっと。お前をもっとからかってやりたいところだが、大事な話がある。
俺たち共通の敵、東方のラングリード王国の様子がおかしい。彼の国は、我が国に競うように急激な軍拡を始めた。お前ほどやり込んだわけではないが、これは原作にはない新たな動きだろう。
見捨てられた地ザラキア、その辺境伯であるお前にミュラー元帥として警告する。そろそろ防衛体制の構築に入れ。事が起きてからでは手遅れだ。
無論、元帥としてもこの事態を私は憂慮している。まだまだ先と思われた開戦が、こうなると前倒しで引き起こされる可能性も高い。
そこでザラキアの辺境泊アルトよ、お前に兵糧物資の調達をお願いしたい。納品先はザラキアの隣、要塞都市アイゼンベフ。
そこに下記の物資を今から3ヶ月以内に届けてくれば、私は元帥としてお前に報酬を払おう。
すまんが一つ頼む。仲間たちの運命を変えるために、どうか私に力を貸してくれ。
ミュラー・ネビュラートからタケちゃんへ
――――――――――――――――――――――――――
笑うなよ、アッキー……。
笑わないでよ、ミュラー兄さん……。
必要物資の詳細に目を通し、僕は兄さんからの手紙をたたんだ。
「リアーナ姉さんは、内容については聞いている……?」
「はい、大まかには。がんばりましたね、アルト様」
姉のようにやさしくしてくれていた女性に、エッチなやつだと思われてしまった事実に僕は軽く絶望した……。
「兄上のこの依頼、受けるよ。兵糧調達のつてもあるし、どうにかなると思う」
ポンちゃんが『もきゅー』と鳴いた。
驚かせるといけないから、吹き出しは出さない紳士なたぬき。それがポンちゃんだった。
ところが僕の返事がトリガーとなったのか、僕の銀の目が暴走してしまった。
――――――――――――――――――――
【受領済みクエスト】
・ミュラー元帥の依頼1
【納品:兵糧3000】
【報酬:金550、石材50、兵士20】
※兵士は兵糧を消費します
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ラクーン商会のレートでは『金1:兵糧4:資源:10』となっている。現状、10名しか領地を守る兵士がいないのも危険だ。つまりこの依頼、僕には得しかない。
「銀の目の力によると、少し手を打てば3ヶ月後に問題なく納品できるみたいだ。兄さんによろしく伝えておいて、リアーナ姉さん」
そうと決まったら畑のアップグレードに入ろう。
「もう喋っていいよ、ポンちゃん」
<「 こんにちは、綺麗なお姉さん! 」
「な……っっ!?」
<「 ポンちゃんは、ラクーン商会支部長のポンちゃんです! 部下はいないもきゅ! 」
「なんと……なんと、愛らしい……。先ほどからずっと気になっていたのですが、なんなのですか、この犬は……!?」
<「 ポンちゃんわんこじゃないもきゅ! ポンちゃんはたぬきもきゅぅ! 」
やさしいリアーナ姉さんはポンちゃんを怖がらせないように膝を突いて、手を出しては引っ込めた。
「ポンちゃん撫でられるの好きだから、抱っこしてあげて」
<「 どうぞもきゅ 」
リアーナ姉さんはポンちゃんを抱いて、しばらくそのもふもふを満喫した。
それから姉さん落ち着くのを待ってから、これからするべきことを切り出した。
「リアーナ姉さんに僕の力を見せたいんだけど、一緒にきてくれるかな? そしてそこで見た物をミュラー兄さんに伝えて欲しいんだ」
「花を咲かせるあの力ですね。アルト様のご成長を見届けるためにも、ぜひお供させていただきたいです」
「ありがとう、姉さん!」
そう決まったので僕たちは屋敷を出て、連作障害知らずの【畑】に向かった。
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