【取引(たぬ)】兵糧:金

 それから1ヶ月が経つと、ザラキアに本格的な冬がやってきた。

 この季節は雪で身動きが取れない。毎日毎日雪かきをして、終わりのない雪空との戦いに明け暮れることになる。


 そんな生活を帝都してきた僕には、積雪のない・・・・・ザラキアはまさに天国だった。確かに外は寒いけど骨まで凍みる寒さというわけでもなく、雪国生まれの僕には毎日が感動だった。


 とはいえ寒いものは寒い。僕はこの月を暖炉でぬくぬく過ごしたり、ロゼッティアを誘ってモールやコンビニ、自販機&ガチャポン・ポンコーナーで遊んで過ごした。


 だってしょうがないじゃないか。次の施設アップグレードを行うには、【求職者】も【人材】も足りていなかったのだから。

 そんなわけで僕はそれからさらに1ヶ月待った晩冬。2月1日の朝まで、簡単な家事以外ろくすっぽ働かずに自堕落に生きた。


 だって、寒いし、無理してがんばらなくてもいい季節だし、やれることなんてたかが知れていた。

 そういうわけで明日からがんばると決めていた僕に、冷たい朝がやってきた。


 冷え込みで冷たくなっていた鼻を手で温めながら、僕はまだ寝ぼけているポンちゃんを脇に抱えてリビングルームに下りた。


「おはようございます、ご領主様。珍しいですね、怖い夢でもご覧になられましたか?」


「おはよう、ノワールさん。今日からしばらくはがんばる予定なんだ」


<「 眠い……寒い……ポンちゃん、お布団帰りたいもきゅぅぅ…… 」


 ノワールさんは暖炉に火を入れてくれた。

 僕とポンちゃんは暖炉の前にしゃがみ込んで、朝の冷え込みを堪えた。


「少し早いですが、コンビニで朝食を買ってまいりましょう」


「あ、じゃあ僕はグラタンと牛丼――いや、よくよく考えてみたら僕ら、たぬまに依存し過ぎじゃないかな……?」


「では、そろそろメイドを雇われては?」


「メイドを雇うより、コンビニ飯を買い続けた方が安上がりなのだから困ったものだよ」


 ノワールさんに買い出しをお願いして、僕はポンちゃんを揺すり起こした。


「ポンちゃん、今日からはがんばるって約束でしょ」


<「 もきゅぅ……ポンちゃんは冬も普通に働いてたもきゅぅ…… 」


「ポンちゃんは働き者だね」


 かれこれ2ヶ月ぶりに、僕は銀の目を使って、領地の状態と備蓄を確認した。


―――――――――――――――――――――

【内政:辺境伯領ザラキア】

 【人口】 710   (+125)

     (ドロイド人口 +35)

 【治安】 90/100(+10)

 【民忠】 92/100(+16)

 【兵力】  10

 【馬】    0

 【魔導師】  0

 【魔導兵】  0

 【求職者】 59

 【施設数】6/6

 【補足】()は先々月比


【備蓄:辺境伯領ザラキア】

 【兵糧】3880   (+1356)

 【金】  381   (+1120)

          返済(ー 900)

          (残り 10ヶ月)

 【木材】117 【石材】62 【人材】6

―――――――――――――――――――――


 金収支は黒字。兵糧も十分にあるので、そろそろラクーン商会に売却してみようか。


<「 すぴー……。もぎゅっ?! 」


 ポンちゃんのたぬきアイを力ずくで開かせて、画面が示すリソースを見せた。


「ポンちゃんって、兵糧の売買とかもできる?」


<「 ポンちゃん、これでも優秀なのですもきゅ 」


「それは助かるよ。カフェさんは尻尾は素敵だけど、雰囲気がちょっと怖いし……」


<「 はいもきゅ、控えめに言って鬼上司もきゅ…… 」


 ポンちゃんに頼めば兵糧の売買が可能。そのこと前提で、僕は次のアップグレード候補をリストアップした。


――――――――――――――――――――――――――

【内政施設アップグレード】

 【畑】

  Lv2【費用:金400】

     【効果:兵糧400(月)】

 【職人街】

  Lv2【費用 金400 人材5】

     【効果:金200(月)】

――――――――――――――――――――――――――


 現状の財政状態ではこの2つが精々だろう。


「兵糧3200と金800を交換したい。ポンちゃん、お願いできる?」


<( できる、もきゅぅ…… )


<( でもあと1時間だけ、寝かせてほしいもきゅ…… )


「しょうがないな、ポンちゃんは」


 吹き出しの使い方が巧みなたぬきがそう言うので、僕も急かさずに暖炉の前で二度寝した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る