【休息】フードコート:女性誌
それからメガネ屋、理髪店、本屋、修理屋、似顔絵屋。順番に見物していった。
最後の似顔絵屋で僕の似顔絵が7つも並べられて販売されているのを目撃すると、僕はその場から逃げ出していた。
「あはははっ、そんなに必死で逃げなくてもいいのにー! 泣きそうになってかわいいー♪」
「僕の立場になってみてよ! 恥ずかしくて死んじゃうよ、あんなのっ!」
モールを一巡してフードコートに避難した。
粉砂糖のかかった揚げたてのドーナッツだけが、僕の羞恥心を癒してくれた。
「むふふふ……♪」
「な、何……?」
「アルトって、結構お姉さま方に人気あるんだよー。でーもっ、残念っ、もうアルトはあたしのものなんだなーっ♪」
「……帝都でジメピカリャーと呼ばれていた頃からすると、嘘みたいな話だ」
熱くなった顔をロゼッティアからそらした。すると僕は、またもや視線を合わせてはいけない危険人物と目が合ってしまった。
「なんじゃ、きておったか」
「あーっ、出たーっ、妖怪・悪徳総支配人!!」
それはこのデパートの総支配人ニジエールさんだった。ロリババァ8人衆の中でも最もガメつく商売上手な彼女は、投資額で家族を追い落としてその地位に収まった。
改変により植え付けられた記憶によると、そういうことになっているらしかった。きっと僕の知らないところで、8人の魔女による壮大な戦いがあったのだろう。
「ひっひっひっ、相も変わらぬ口の悪さじゃのぅ……。デートか?」
「ち、違……っっ、違わないけど、何よーっ!?」
「そうかそうか、かわいらしいことじゃのぅ……。で、エッチはもうしたのか?」
「んなぁーーっっ?!」
僕たちはニジエールさんにからかわれた。手を繋ぐだけで胸が痛くなる僕に、それ以上のことなんてできるわけがない。興味は、すごくあるけど、絶対無理だ……。
「いかんのぅ……? うかうかしておると、他の女にアルト坊やを横取りされるぞ?」
「大丈夫、僕は浮気なんてしないよ」
「ア、アルト……」
ロゼッティアとしてはそこが不安だったのかもしれない。彼女は不安混じりの微笑みで感動してくれた。
「騙されるな。男どもは最初は皆こう言うのじゃ。しかしな、乳や尻のでかい女に口説かれれば、純情な男など即、コロリじゃ……」
さすがロリババァ、まるで見てきたような言い方だった。
でも僕は浮気なんて絶対しない。ロゼッティアだってそれくらいわかってくれている。
「押しが足りない、ってこと……?」
そんな僕の信頼は3秒で砕け散った。
「いかにも。時の流れは残酷じゃ、人の心は日々移り変わり、現状に慣れてゆく。それを知りながら永遠の愛をうそぶく男のなんと薄っぺらきことか」
それどころかロゼッティアは、真剣な顔でロリババァの世迷い事に耳を傾けていた。
「ただでさえそこの坊やは、何かとチョロいのじゃからのぅ……?」
「勝手にあることないこと吹き込まないでよっ!!」
「聞いたところによると、最近の若者はかなり進んでおるそうじゃぞ? そなたももっと大胆に、ぐいぐいと、年上の強みを活かしてゆくがよい。ヒッヒッヒッヒッ……」
ニジエールさんは焚き付けるだけ焚き付けて消化もせずに、僕の前から気分上々ルンルンの足取りで逃げた!
ロゼッティアは僕と視線が合うと、すくみ上がって顔をそらす。せっかくの楽しいデートだったのに、なんてことをしてくれるんだ、あの人は……!
「ア、アルト……あ、あたし……もっとがんばる……」
「落ち着いて。ニジエールさんは、100シルバーの物干し竿を3000シルバーで売り付ける詐欺師だよ。つまり、あの人の言葉を真に受けるのは根底から間違っている」
「あたし……あたしなりに勇気出したのに……足りなかったんだ……」
「いや足りてるよっ! これまで何度も心臓が止まりそうになったからっ!」
「あたし、他の女に取られたくない! だってアルトのこと一番理解してるのあたしだもんっ! 権力とかお金目当ての汚い女にっ、アルトは渡さないっっ!」
明るく元気で闇のないロゼッティアから、空想上のライバルへの嫉妬の炎を感じた。
「あたし、コンビニ行ってくる!」
「へっ!?」
「女性誌、っていうの、買って勉強してくる! また明日ね、アルト!」
「えっ、女性誌っ!? ちょっ、ちょっとっ、ちょっとそれはダメッ、あーーっっ?!」
僕はモールのフードコートで突然彼女に捨てられた。捨てられた僕はしばらく呆然と過ごした後に、賭場へと引き返した。ポンちゃんの隣に座って、畳に高級路線お菓子『ブラックロリコーン』を並べた。
「はっ、ちったぁいいツラするようになったじゃねぇか! さあ、クソ領主がおいでなすったところで、皆方! よござんすか、よぞざんすね!?」
<「 ゼッちゃんはどうしたもきゅー? 」
「そこは触らないでやんな。野郎どもには、色々とあんのさ」
<「 ポンちゃんのイチゴの飴ちゃんあげるもきゅ。元気出すもきゅよ 」
僕ってそんなにチョロいかな……。
ポンちゃんがくれたピンク色の飴ちゃんを舐めると、僕はお菓子をくれるポンちゃんの心の広さにチョロくも感激していた。
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