【実食】カルビ弁当:ラッコのマーチ

<「 こちら、たぬま名物カルビ弁当もきゅ! 」


 たぬきマーケット。略して、たぬま。レンチンされたたぬまのカルビ弁当は、甘辛いタレと牛脂の芳香を香らせて空腹の僕を誘惑した。


「アルトッ、それ半分ちょうだいっ!」


「え、半分もっ!?」


 僕の彼女は朝食を食べていない彼氏に、その美味そうなカルビ弁当を半分寄越せと要求した。


<「 彼氏なら当然もきゅ 」


 懐かしの割り箸。それを使って僕はカルビ弁当を口にかっこんだ。


「う……美味……っ、米、美味……っ、肉、美味……っ、ああっ、どんどんいける!!」


「ちょっとーっ、あたしの分の残してよぉーっ!?」


「……さっきまで不調そうだったし、やっぱりこれ、僕が全部食べておくよ」


 僕は彼女に笑顔でそう伝えた。


「心配してくれてありがとう、アルト。でも全然余裕だからあたしにちょうだいってばぁーっ!」


 僕のカルビ弁当は強奪された。


<「 どうぞ、プラ・・スプーンもきゅ 」


 ポンちゃんが環境にまったく配慮されていないプラスプーンを提供すると、ロゼッティアは女を捨ててカルビ弁当にがっついた。


「コンビニ、すごい! あたし、このお弁当、毎日食べたい!」


 僕のカルビ弁当は彼女の胃袋に消えていった。


<「 ラッコのマーチと、ポテチと、ポップコーンもきゅ。紙トレイも買ったもきゅ 」


「ポンちゃん……君、なかなか慣れてるね……?」


<「 ポンちゃんも独身もきゅ…… 」


<「 花金はこうやって、好きなお菓子全部盛りして食べてたもきゅ! 」


「成人病コースじゃないかな、それ……」


 紙トレイに盛られたお菓子を早速摘まんだ。一口目はもちろん、ラッコのマーチ!

 僕は16年ぶりの準チョコレート菓子の味わいに昇天した。


「アルト、それそんなに美味しいの……?」


「うん、甘くてねっとりしてて美味しい。ロゼッティア、口開けて」


 ラッコのマーチを摘まんで、隣のロゼッティアの口の前に運んだ。


「う、なんか変わった匂い……。嘘だったらあたし、怒るからね……?」


 やわらかそうな二枚の唇を開いて、僕の彼女はチョコレート菓子を僕の手から食べた。

 ポンちゃんはポテチとポップコーンを小さな手で抱えて、黙々とカリカリしている。


 そんな塩分摂取量で、大丈夫か……?


「甘い……」


「そこはまあ、チョコレートだし」


「でも、美味しい……思ったより、断然美味しい……! というか、手……止まらない……!」


 ラッコのマーチ、ポテチ、ポップコーンの順で紙トレイが空になっていった。

 その間に僕はポンちゃんの戦利品を確かめた。


 カップ麺、ペットボトル入りの紅茶、ハンディライト、電卓、電池、ボールペンにメモ帳、ホチキス、粘着テープ、台所用洗剤。ずいぶんと買ってきたものだけど、どれも異世界にあったらちょっと嬉しい物だった。


 ん、これは……?


「え、マ、マンガまで売ってるの、あの店……っ!?」


<「 はい、もきゅ! 夜、ご主人様と一緒に読みたいもきゅ! 」


「それいいねっ、えーと、どれどれ……。ん……?」


 見たこともないその少年誌をペラペラとめくる。


「やけに、ケモ度が、高いような……。というか、ケモしかいない……?」


<「 当たり前もきゅ! ポンちゃんの世界のマンガもきゅ! 」


 マンガが読める! そう胸をときめかせたのも一瞬のこと。その少年誌には人間の姿がどこにもなかった。僕たち人間から言わせると、それはケモキャラ専門誌だった。


 うーん、違和感あるけど、展開はちゃんと少年誌でまた不思議だ……。


「ロゼッティア、これ電卓っていうんだけど、よかったら使い方を教えようか?」


「んーー? あ、わかったーっ、マッサージの道具っ!」


 僕の彼女は電卓を持つと、ボタンがある方を人の首筋にゴリゴリと押し付けた。

 こんな斬新な使い方をする人は初めてだ……。当たり前だけど全然効かない。


「かすりすらしてないかな。これはね、ボタンを押すと、代わりに計算をしてくれる道具なんだよ」


「えーっ、うそだーっ! そんなのあるわけないよーっ!」


「じゃあ見ててね。2桁同士のかけ算を5秒で解くよ」


 たかが電卓が導き出した結果にロゼッティアは丸い目を大きく広げて、『何これあたしも欲しい!!』と大声で叫ぶほどに驚いてくれた。

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