【探索】コンビニ:いてくる
僕が想像していたのは都市部にあるような、駐輪スペースすらない小さなコンビニだった。
だけど僕の目の前に生えてきたそれは、コンビニと呼ぶよりも『道の駅』と呼んだ方が正しい馬車駅付きの巨大休憩所だった。
「ア、アルト……」
「ごめん、不安にさせちゃった? これが僕の、銀の目の本当の力。僕はお金や資源をコストにして、こういう施設を生み出せるんだ」
「違うよ……っ、こ、これっ、これ……っ」
これは思わぬ収穫だ。
馬車駅には楕円形のロータリーが多数と、待合所、車庫や厩舎が併設されている。
その奥には花壇と時計柱が設けられ、さらにその向こうには現代でよくある見た目のコンビニが建っている。
ガラス張りの窓と自動ドア、高ルクスの照明器具が照らす昼よりも明るい
「すっごーーーいっっ!! こんな立派な花壇初めてっ!! それにあのお店、正面側全部、ガラス窓!? 何これ何これっ、アルトの屋敷より立派だよーっ!!」
ロゼッティアは少しも怖がっていなかった。広大な馬車駅、花壇、そしてその向こうにあるコンビニに駆け寄る彼女を僕は追った。
「わっ、中になんかいるっ!?」
<「 あれは……ポンちゃんの仲間もきゅ! おーいっ! 」
ポンちゃんがコンビニのガラス戸に駆け込んだ。それはやはり自動ドアだった。
「ア、アルト……今……」
「あれは自動ドア。人が前に立つと、自動で開くドアなんだよ」
「う、うそぉぉ…………」
ロゼッティアは自動ドアの前で立ち往生した。両手で口を覆って店内をうかがっている。
俺の記憶の倍くらいの広さがあるけど、中の内装や陳列物はよくある標準的なコンビニだった。
「君、入らないならどいてくれたまえ」
「ぁ……ごめんなさい……わっ、わっ!?」
現実の改変が始まったようだ。僕たちの背後に神経質そうな貴族の紳士と若い令嬢が立っていた。
僕たちが道を譲ると、彼らは自動ドアに驚きもせずに奥へと入っていった。
ファンタジー世界の人たちが『ちょっとコンビニ行ってくる』する光景は、かなりっていうか超絶にシュールだった。
来客はそれだけに止まらず、数々の貴族、富豪、旅の商人、そのへんの農家のおっちゃんが入店してゆく。
「え……? えっ? え……ええええ……っ!?」
「僕の力は現実を改変する。何か施設を建てると、その施設を当たり前の物のように人々が受け入れるようになる」
だから、僕と君は本当は、赤の他人なんだ……。
「大丈夫、僕たちもじきにこの現実を受け入れるようになる。コンビニの使い方を、知りもしないのにわかるようになるんだ」
「そうなんだ……」
でも僕はこの現実では彼氏だ。変わってゆく世界に縮こまってしまっているロゼッティアの手を握った。手を触れ合うだけで顔が熱くなった。
「大丈夫だよ、僕がずっと隣にいるから」
「べ、別に、不安になってなんかいないよーっ! あたし、これでも根性あるんだから……っ!」
「うん、僕よりたくましい」
そう返すとロゼッティアがやっと笑ってくれた。もう片方の手を使って、僕の右手を包み込んで胸の前で抱いた。
「はぁ……ビックリしたー……」
「僕もだよ、まさかこんなに立派になるとは思わなかった」
馬車駅がここにあれば、いい感じにお客様を周辺施設に呼び込める。
コンビニ。それは人が集まる道の駅。そういう側面もこうして見ると多大にあると思う。
「わぁ……あの人たち、普通に買い物してるー……。あ、あたしたちも、入ってみない……?」
「自動ドアはもう怖くないの?」
「こ、怖がってなんかいないよーっ! あんなのっ、勝手に開くだけだよっ!」
「別に無理しなくても――おっとっ!?」
ロゼッティアは僕の二の腕にしがみついた。自分がすごく大胆なことをしていることに気付いているのかもわからないまま、彼女は僕を店に引っ張った。
「うわっ、開いたっ!?」
「そ、そうだね……」
あ、当たっている……。当たっているからね、これ……。
僕は辺境伯であり紳士だから、この程度でみだりに取り乱したりしないけど、腹の奥で燃え上がるこのパッションはすごいよ!! 今日はいい夢見れそう!!
「わぁぁぁ……っっ、変な物がいっぱい置いてあるぅぅーっ!」
「それはちょっとお店の人に失礼――って、猫ぉぉっ?!」
茹でダコの内股になってコンビニにやっとこさ入店すると、僕たちは直立歩行をする人型の猫と出会った。いや、犬の人もいた。
彼らはたぬきを彷彿とさせる焦げ茶とクリーム色の制服を着ていた。
「いらっしゃい、ただいま開店セール中ミャァァッッ!」
「今ならソフトスナックが全品5シルバー引きだワン! 買ってくワン、異世界人!」
ソフトスナックといえばレジ前。目を送ると、2つあるレジではたぬきがちょこんと台に乗っていた。
あれ、ポンちゃん……? いや、微妙に毛の濃さが違う……。あれがポンちゃんの仲間か。
「あ、あぅ……」
「ロゼッティアッ、大丈夫!?」
あまりに現実離れした情景に、ロゼッティアが腰を抜かしかけた。僕はそれを抱き支える。そして思った。
女の子ってやわらかい……。
僕はもう……辛抱たまらないですっ!!
<「 お買い物はポンちゃんに任せるもきゅ! 」
<「 ご主人様はゼッちゃんを外で休ませてあげるもきゅよ! 」
「ありがとう、ポンちゃん。ロゼッティア、いったんここを出よう」
財布をポンちゃんに預けて、馬車駅の休憩所で僕はロゼッティアを休ませた。
コンビニのラインナップが気になって止まないけど、今は彼氏のつとめを優先した。
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