【建設】コンビニ:たぬま
カフェさんは視察の続きをすると言い残してこの屋敷を出て行った。たぶんだけど彼女は別に悪党というわけではなく、ただ自分の仕事を淡々とこなしているだけなのだろう。
そんな勤労熱心な彼女の太い尻尾を見送ると、午後からは働かない主義の僕の胸に、奇跡的にも勤労意欲が湧いた。
ああ、あのわがままに揺れるぶっとい尻尾、もうちょっと触っておけばよかった……。
「よしっ。ポンちゃん、これからコンビニ建てに行かない?」
<「 もきゃーっ、次はコンビニにするもきゅかーっ!? 」
「うん、消去法でそうなった。お金を借りたからには、収支をプラスにしないと。ほら見て」
最近、地図を使わなくてもザラキアの内政画面を出せるようになった。
僕はてきぱきと画面を操作して、ポンちゃんに【内政施設(たぬき)】の項目を見せた。
――――――――――――――――――――――――――
【内政施設(たぬき)】
【コンビニ たぬき・マーケット】
Lv1【費用 金1000】
【効果:金200(月):兵糧400(月)】
【居酒屋宿ぽんぽこ】
Lv1【費用 金1500 石材100】
【効果:金100(月) 出生率・移住率アップ・小】
【リゾートスパ・ラクーン】
Lv1【費用 金2500】
【効果:金200(月) 負傷兵回復・大】
【ダンジョン鉱山・ムジナ】
Lv1【費用 金100 石材500】
【効果:鉄材:100(月) 税収25%アップ 治安低下・小】
――――――――――――――――――――――――――
手元には3561金ある。来期の収入予想は295金で、これから毎月450金を返済しなければいけない。
これは僕の勝手な妄想だけど、もし返済が滞ったら、あの怖いカフェさんに僕はデスゲーム送りにされるかもしれない。
<「 ポンちゃん温泉がいいもきゅ! 」
「でもそれを選んだら、これから1年間自転車操業になっちゃうでしょ」
<「 温泉でゆっくりしてたら一瞬もきゅよ 」
<「 湯上がりにポンちゃんの自販機で、フルーツ牛乳をきゅぅーとやるもきゅ! 」
「い、いいね、それ……すごくいい……」
喉を鳴らしながらしゃがむと、ポンちゃんが胸に飛び込んできた。僕はたぬきを抱いて立ち上がり、ロリババァが住まう町の中心に向かった。
「とにかく今日建てるのはコンビニ、収益効率で見たらコンビニがベストアンサーだから……」
<「 コンビニのお弁当おいしいもきゅ! お菓子もいっぱいもきゅね! 」
「ポンちゃんはたぬきなのに、お菓子を食べて平気なの……?」
<「 ポンちゃんたちは平気なたぬきもきゅ 」
「すごいな、ファンタジーたぬき……いや、SFたぬき……? あっ、ロゼッティアだ!」
商店街という名の地獄のロリババァランドを目前にすると、ロゼッティアの綺麗な水色の髪が目に映った。彼女は大きな手提げカバンを肩にかけて、気持ち大股の足取りで帰路についていた。
「あっ、アルトとポンちゃんだ! こんなところで会うなんて奇遇だねーっ!」
<「 お仕事、お疲れさまもきゅー 」
僕はロゼッティアに駆け寄ると、『ミャー』とか『もきゃー』とか言いながら吹き出しを出すたぬきを彼女に渡した。
ポンちゃんはロゼッティアに撫で回されてくすぐったそうだった。
「ありがとー、ポンちゃん! 今ね、押し売りババァのところに納品してきた帰りなんだー」
<「 儲かりまっかー、ですよもきゅ 」
「うんっ、アルトとポンちゃんのおかげで最近はもーばっちりーっ! ミュラー様からもお褒めのお手紙ももらっちゃったー!」
<「 すごいもきゅ! ゼッちゃんは皇室御用達の彫金師もきゅ! 」
ロゼッティアはポンちゃんに頬擦りして、湿度0%の笑顔ではつらつと僕に笑った。
とても天から降ってきたご都合主義の彼女とは思えないほどに、ロゼッティアは天使みたいにかわいくて僕は夢中にさせられていた。
「これからそこにコンビニを建てるんだけど、もしよかったらロゼッティアも見ていかない?」
「うん、いいよ! ぜーんぜんっよくわかんないけど、あたしアルトと一緒にいたい!」
「う……っ!?」
思春期。それはときめきのあまりに心臓がズキリと痛む年頃だ。たった1日好きな子と会えないだけで、この世が終わってしまったかのような気分になったりする、まっことナイーブな時期に僕はある。うぐ……っ。
<「 コンビニは楽しいところもきゅ! ゼッちゃんも必ず気に入るもきゅよ!」
「へーー、こんびに、って名前のお店なのー?」
<「 ポンちゃんのお店には負けるもきゅが、コンビニはなんでもあるお店もきゅ! 」
「それ、なんだか楽しそー!」
はぁ、やっと胸が落ち着いてきた……。
最近ロゼッティアと会うと、こんなふうに胸が痛くなる……。
こんなに自分が惚れっぽいなんて知らなかった……。
「とにかく実物を見た方が早いよ。あそこにコンビニを建てるから、よく見ててね、ロゼッティア」
「ふーん……よくわかんないけど、おっけー! とにかく見てればいいんだよねっ!」
「う……っ?!」
ロゼッティアが肩を寄せてきた。肩を肩がぶつかるだけで、恋愛能力クソザコ弱者少年の僕は心臓が止まりそうになった。
でもこのままじゃ男らしくない。頭を振り払い、僕は銀の目の力を使った。
内政画面から【施設:コンビニ たぬき・マーケット】を選択し、建設画面に移行させた。
―――――――――――――――――――――
【施設:コンビニ たぬき・マーケット】を建設します。建設予定地を指さして下さい。
(現在光っている大地が建設予定地です)
―――――――――――――――――――――
「ちょっ、えっ、何これぇぇ……っっ?!」
大地がなんの前触れもなく輝きだしてロゼッティアが悲鳴を上げた。彼女は驚きのあまりに腰が抜けてしまったのか、僕の両肩にしがみ付いてきた。
「お、落ち着いて、ロゼッティア……」
ただ触れられるだけで僕にはちょっとした劇薬だ。危うくこっちまで平常心を失いかけるほどに、僕は現在進行形で動揺させられている……。
「光らせてるのは僕だから、安心して……」
「なんだぁー、それ先に行ってよぉー……。はぁ、ビックリしたー……」
肩から彼女が離れてしまった。僕はなんてもったいないことをしてしまったのだろう……。もっとくっついていたかった……。
<「 もきゅぅ~? 」
「と、とにかくっ! 建設場所は十字路をはさんだ商店街の東向かい。コンビニはあそこに決めたっ!」
僕は建てたい場所に指を突き出して、建築コスト金1000の投資を行った。
たちまちに大地が輝き、一片250メートルの広大なエリアが整地されてゆく。建設範囲にあったいくつかの個人商店は解体されず、押し退けられるように南側に移転させられていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
ザラキア領主:アルト(100/100)は【コンビニ】の建築を進めた!
成功! 建設度が100%となり【コンビニ たぬき・マーケット】が完成した!
土地整備により木材24を獲得! 石材7を獲得!
――――――――――――――――――――――――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます