第13話:立役者の死亡 ~ お天道様の庭場

緊急速報として報じられたのは、拡散されたある重要人物の声明動画。

それはかねてから国家最大の懸念材料として暗躍していた地下マフィア組織のトップを務める男のものだった。


<それでは早速映像をご覧下さい>


テレビ映像が切り替わると、そこにはどこかの廃墟に設置された小さな机を前に座る覆面男の姿。

漆黒のコートを羽織り悠々と構える姿は、国中の視聴者を釘付けにしていた。

国民が固唾を飲んで見守る中、男はゆっくりと口を開く。


<みなさん初めまして。ザンキョウ・ゴウイチロウという者です>

「!!」


多くの国民がきょとんとする中、その名前を知る一部の者たちからは驚嘆の声が上がる。


「ザンキョウ…ザンキョウ・ゴウイチロウ!?」

「地下マフィアの大ボス…あれが?」


犯罪組織の大物登場に五叡人や警察関係者等は目を丸くしている。

やがて、ザンギョウを名乗る男はゆっくりと語り始める。


<免許屋の連中が幅を利かせてからというもの、あっしらは庭場を奪われ、シノギを削られ、もはや家畜同然の生活を強いられています。多くの家族や兄弟が死にました>


丁寧な口調ながらも、その内容は過激な恨み節にまみれている。


<あっしらの元には免許に人権を奪われたたくさんの堅気さん達が望まない盃を交わしにやってきます。彼らがどんなに声を上げても、アンタらは聞こうとしなかった。終いにゃ"殺人免許"なんちゅう都合のいいエモノを繰り出す始末。お天道様の庭場まで踏まれたとあっちゃ、もはや通せる仁義もありやしません>


段々と口調が強まるザンギョウを見て、国民には戦慄が走る。


<アンタらの魂胆は見えてる。正義と大義名分の皮を被り、あっしらのタマを体よく取るつもりでしょう。ですがね、あっしらもこれ以上は黙ってない。今すぐ免許制度を撤廃してもらいましょう>


すると、ザンギョウは親指を立て上方向を指示した。

その途端、カメラのアングルを上を向くと、映し出されたのはおぞましい光景。

天上から釣り下がっていたのは、両手足を縛られ大量のよだれを垂れ流す一体の骸。

非業の死を遂げたであろうその死相には、生々しい恐怖と怨念が浮かんでいるようだった。

全国各地から映像を見た人々の悲鳴が沸きあがる。

先ほどまで祝杯ムードだった五叡人たちも、その光景に絶句した。

そんな中、男の顔がアップになると、その正体にいち早く気付いたのはプセアピバコだった。


「あ、あれは!」

「え?」

「アオシマ…」

「えぇ!?」


ザンギョウらによって無念な亡骸に変えられてしまったのは、国家免許センター最大支援企業の社長であり、ホテル王と名高いアオシマだった。

やがて映像がザンギョウへ戻ると、そのまま声明を続ける。


<この男はアンタらセンターの立役者だと聞いとります。あっしらの覚悟を見せるため、血を流してもらいました。これ以上のタマの取り合いは御免こうむりたいところ、往生してくんなさいやぁ>


こうして、ザンギョウからの声明動画は終了した。

唖然とする五叡人一同。

センター事務局においても、エニシゲ、イロヨク、アサクサなどの局長をはじめ、職員たちは恐怖に慄いていた。

鎮痛な空気が流れる五叡人会議室。

ウワグツが口火を切る。


「プセさん、どう見ますか?連中刺し違えるつもりでしょうか?」

「奴らは決して訓練を受けた兵や軍ではない。戦略的常識が通じる相手ではないが、"ニンキョウドウ"を構える彼奴らが一般市民を手にかけたところを見ると、穏やかとは言い難いだろうな」

「なるほど…」

「軍の編成を急ぐべきか?」

「そ、そそ、そうスよ!このままじゃ俺たちだって危ないって!プセさん、今すぐ一掃しちゃって下さいよぉ!」


すると、ウダは冷静な口調で指針を提言する。


「いえ、静観としましょう」

「えぇ!?」

「組織としてテロや脅迫に屈することは論外です。が、今は殺人免許の施行で民意や支持率が不安定な時期。何が何でも成功の軌道に乗せなければいけません。強固な姿勢を見せつつも連中を下手に刺激しない方が得策です」

「確かに、一理ありですね」

「で、でもぉ…」

「連中に対する殺人免許の発行は控えましょう。もし一人でも手に掛ければ全軍総出は必至、彼らの仲間意識は決して算数では語れない。警察組織にも一旦地下捜査を打ち切るように釘を刺しておきます。今は戦争になってしまってはまずい」


ウダの冷静な判断と口調に、ムシも渋々ながら提案を承諾する。

すっかり祝賀ムードが消え去った会議室に、次の嵐の足音が鳴り響いた。


"ガチャ"


突然会議室のドアが開錠された。

予定外の訪問者に4人の視線はドアに集中する。


「誰だ?」

「おお?もしかして、ついにセンター長のお出まし~?」


すると、ドアが開きその場に姿を見せたのは、誰もが想定しえないもう一人の大物だった。


「…え!?」

「…!」

「…!」

「ぎ、議長!?」

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