第11話:それぞれの反応 ~ "例の件"

-翌朝-

史上初の国家公認暗殺のニュースは全国を駆け巡った。


<昨夜、かねてより施行されておりました新制度"殺人免許"において、第一号となる公認殺人が行われました。対象となったのは、5年前の20XX年、当時14歳の女子中学生を拉致誘拐し、自宅にて2年もの間、監禁生活を強要した男でした。男は執行猶予付きの判決を受けておりましたが、昨夜何者かに襲われ死亡しました。実行したのは被害者の家族や関係者と思われるとのことですが、詳細については明らかにされておりません>


このニュースに世間は大きく沸き立った。


「うおぉ!マッジかよ…。本当に?」

「え?ガチ?ガチ?」

「マジ?早くない?」

「あの時の変態野郎だ。殺されてやんの。天罰じゃん」

「てかさ、人殺してなくても対象者になるんだ…」

「ちょ、怖すぎるんだけど…」


驚愕、賛同、恐怖、不安、世間に様々な感情を巻き起こし、政府公認殺人のニュースは瞬く間に全世界にまで広がりを見せていく。

あらゆるメディアが報道する中、これまでセンターに対し執拗な嫌がらせを繰り返していたブタバナと国営放送局会長は脂汗を流しながら画面を食い入るように眺めている。


「や、やりおった、連中…」

「ク、ク、クソォォォ!」


同じ時、いつもの会議室にウダ、プセアピバコ、ウワグツの三人が集まっていた。

三人もまた世間と同様にニュース映像を眺めていた。


「ほー!いきましたねぇ~」

「思ったよりも早かったな」

「さて、これから世論や風潮がどうなるか見ものですな」

「まぁ、たった一件じゃそう変化ないと思いますよ」

「想像より申請数は少ない。やはり怨恨でも自身が暗殺者になるプレッシャーに耐えうる者はそう多くはないだろう」

「確かに。ですが本免許制度の神髄はそこじゃない。定期的に公認暗殺が世間を騒がせてくれればそれでいい」

「そうだな。さすれば武器の仕入れも最小限で済むことだ」

「偉大な一歩となるといいな、…ん!」


プセアピバコはウダの方を見ると、とある違和感に気付く。


「おい、ウダ?」

「…え!?あ、はい」


ウダは咄嗟に反応を示した。


「どうした?」

「え?」


センター一世一代の奇策実行が報道される中、ウダはどこか心ここに在らずといった様子だった。


「念願の初成功となった割には呆けているな。考え事か?」

「え…、えぇ、まぁ、そんなところです」


ウダはどこか誤魔化すようにティーカップを口に運ぶ。

プセアピバコは違和感を感じながらも、特に気に留めることもなく同様にティーカップに口をつけた。

すると、ウワグツからある議題が提示される。


「承認基準は引き続き変更なしでよろしいですね?議長に関する"例の件"も含めて…」


ウワグツから放たれた意味深な言葉。

他の二人は暗黙の了解といった雰囲気で首を縦に振ったのだった。



早朝のニュースを自宅で見ていたエニシゲは、突然ソファから立ち上がりトイレへ駆け込んだ。

苦しそうに胸を押さえながら嗚咽を繰り返した挙句、勢いよく便器の中に嘔吐した。


「っがぁぁぁぁ。…っはぁ、っはぁ、っはぁ…。うぅ…」


まるで電気椅子のスイッチを押したような気持ちに苛まれ、収まらない動機に苦しみもがく。


拘置所にいるザキルもまた似たような気持ちを味わい、苦い唾を飲み込みながらニュース映像を眺めているのだった。

そして、世間を揺るがすニュースは続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る