第9話:センター立役者の存在 ~ 巨大企業を動かした"情熱ある申し出"

-同日の夜-

ウダは自宅の自室でセンター長とリモート会議を行っていた。


「本日より無事合格者たちの訓練を開始いたしました」

<さすが仕事が早いですね>


すると、センター長はどこか意味深なことを言い出す。


<ウダさん、御気分は?>

「は?」


意表を突かれた様子のウダだったが、すぐに事の内容を察知し、落ち着いた返事を返す。


「えぇ、問題ありません」

<何よりです。国の運命を担う人間として、よく痛みに耐えてくれました。感謝します>

「…」

「これからも理想国家建国のため、私情に打ち勝つことは出来ますか?」

「…無論です」

<結構、それではまた>


こうして、リモート会議は終了した。

ウダは椅子に大きくもたれかかり深く息をつく。

その一方、センター長はノートパソコンを閉じ、深く何かを考察している様子を見せた。


(…問題、なさそうですね)



-翌日の夕方-

官邸ではデスクワークをこなす議長の姿があった。

すると、部屋のドアがノックされ秘書の女性が顔を覗かせる。


「議長、お客様です」


その背後から現れたのは、とある風格のある人物。


「これはこれは、アオシマさん!」


議長は歓迎ムードで立ち上がり、双方は固い握手を交わす。


「ご多忙のところアポも取らず申し訳ありません」

「いえ、とんでもない。経営は順調ですかな?」

「おかげ様で。貴方が立ち上げたセンター様様ですよ」


総理議長と対等な立場を見せるこの男は、国内屈指のホテル経営者であるアオシマ。

国家免許センター発足当初、国民が免許制度を訝しむ中で、アオシマがリスクを負いながらも社員と宿泊者に対し免許取得を義務付けたことにより、制度の認知と理解を全国に深めた立役者だった。


「あの時、貴方のご英断には改めて感謝申し上げます。流石は敏腕の実業家でいらっしゃる。先見の明がおありだ」

「恐れ入ります。しかし、私は決して自社の利益を目的に決断したのではありません。免許国家の未来に確かな可能性を感じた。そしてそれは現実となりました」

「貴方も国を救った英雄の一人です」

「とんでもありません。しかし、今回の新免許制度には驚きました。穏やかではありませんんね」

「えぇ…」


議長はほんの少し憂いを見せたが、アオシマは特に気に留めることもなく話を続ける。


「噂を聞きました。どうやら今回のことで差苦狩党も大人しくなりそうですね」

「えぇ」

「これでもうセンターを邪魔する存在はいない。飛躍の未来しか見えませんね」

「彼は何かと幼い男だったが、政治家として好敵手でもありました。このような形でライバルを失うのは本望ではなかった」

「ほう?」

「ブタバナといえども幸福にすべき立派な国民の一人です。出来れば異なる思想ながらも手を取り合い、共に国を良くしていきたかった」

「ははは。議長、お人好しがすぎますよ」

「はは、そうかもしれません」


国政のトップに立つに相応しい人柄を改めて目の前にし、アオシマはほっこりとした表情を浮かべていたが、その話題は急に変更される。


「ところで、プセさんはお元気ですか?」

「ん?五叡人の?」

「えぇ」

「変わりないと思いますが、いかがなされましたか?」

「あ、ああ、いえ、特に。ほら、センター発足当初、最初私に会いに来てくれたのは彼女でしたので」

「そうでしたか」

「彼女のプレゼンは実に"情熱的"だった。社員たちにも見習ってほしいほどです。最近会えていなかったもので様子が気になって」

「そうでしたか。今度会う機会があれば伝えておきましょう」

「ありがとうございます。それでは私はこの辺で。私も社会的責任を担う企業の一員として、全国民の幸福に向け邁進する所存です」

「実に頼もしい」


二人は再度固い握手を交わし、アオシマは議長室を出て行くのだった。



-同日の夜-

アオシマはとあるTV番組のインタビューに答えていた。

世界的大企業の会長として、上品な物腰で言葉を並べる。


<確かに最初センターの方からお話を頂いた時には驚きました。免許国家なんて飛躍しすぎているとね。しかしまぁ、経営者の職業病とでも言うのでしょうか。常にリスクと向き合い未来を見据えてしまうんです。担当者の方の情熱ある申し出も相まり、賛同する価値があると感じました>

<今、免許センターの成功により御社の株価は大暴騰しております。もはや一国を統治できるほどの経済力、影響力を保持している訳ですが、今後のビジョンは?>

<これまでと変わりません。今まで通り、勤勉実直に取り組み、国民の皆様へ本当の価値を提供していきます。そしてセンターの皆様とは手を取り合い、よりよい国にしていくつもりです>


同時刻、その放送を高級ホテルの一室で眺める一人の女の姿。


「…ッフン」


ワイングラスを片手にバスローブに身を包んだプセアピバコは、映像越しのアオシマを見てどこか含みのあるリアクションをとった。

やがて放送が終わると、リモコンを取り映像を消し、立ち上がりバスローブを脱ぎ取る。

一糸纏わぬ姿となり露になった複数の戦場痕、そのままベッドに入ると部屋の明かりを消した。

静かで広大なスイートルームに、意味深なひと言が轟く。


「"情熱ある申し出"…か」

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