第6話:可決 ~ 正しき独裁の始まり
この日、議長官邸には多くの報道陣が集まっていた。
どこかピリついた空気の中、やがて数人の大臣を引き連れた総理議長が姿を見せる。
議長が深く頭を下げると、無数のフラッシュライトが輝き、やがて緊急記者会見が始まった。
「今日は国民の皆さんに大事な発表があります。お察しのこととは存じますが、先日行われました国民投票の結果についてです」
報道陣はもちろんのこと、中継を見守る国民全員が固唾を飲んで見守っていた。
「確かな第三者機関集計の元で結果が出ました。本件は私の口から申し上げるより、より相応しい人物から説明をしてもらいます」
全国にどよめきが走る。
すると、秘書の女性がモニター画面の乗った台を報道陣の前に運んできた。
間もなくして映像が映し出されると、そこには薄暗い部屋に座る一人の人物。
素顔に色濃い影がかかる人物がバストショットを見せていた。
「え?」
「…誰?」
突然登場した正体不明の人物に対し、ざわつきを見せる報道陣。
すると、その人物が発したひと言で場は騒然となる。
<国民の皆さん。初めまして、国家免許センターのセンター長を務める者です>
「!!」
報道陣、そして中継を見ていた国民全員が驚嘆する。
「えぇ!?セ、センター長!?」
「ほ、本物?」
「っていうか、女性だったの?」
人々が一様に驚く中、センター長は画面越しに挨拶を続ける。
<立場上正体を明かせず、この様な形となってしまうことご容赦下さい。本日は国民の皆さまに大切なお話があり、直接私の口から説明させていただきます>
映像を見ている国民全員が見守る中、ついにその時は訪れた。
<この度の国民投票の結果を受け、圧倒的多数により、我が国は本日今時点を以て、"殺人免許制度"の導入をここに宣言します>
「!!?」
人々の驚愕が数瞬の静寂を生み、瞬く間にそれは打ち破られていった。
「マ、マジかよ…」
「本当に?本当なの?」
「嘘…」
信じがたい現実を鵜吞みに出来ない国民をよそに、センター長は早々と挨拶を切り上げた。
<国民の皆さん一人一人のご英断に心より感謝申し上げます。これからも全員が一丸となって理想国家の建国へまい進して参りましょう。それでは>
その言葉を残し、モニターの映像は消えてしまった。
同時に、総理議長も深々と頭を下げその場を去って行く。
複雑な心境の議長は暇の挨拶も告げず、またその背に受ける報道陣からの質問ラッシュにも応えようとはしなかった。
盛大などよめきとざわつきを残し、約5分の緊急記者会見は終了となったのだった。
テレビ各局はこぞって今回の発表に関する報道を流し始める。
嵐のような会見が残した余韻は、センター事務局においても例外ではなかった。
職員は口々に本音を漏らしていく。
「可決されちまった…」
「こりゃ激務が加速するぞ。手当上がらないかなぁ」
「そんなこと言ってる場合?本当に始まっちゃうの?この制度…」
一抹の不安を抱くセンター職員たちをよそに、時代は前代未聞の変革を迎えることになるのだった。
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