第11話:告発計画 ~ フィナーレに終止符を
ザキルはとある路地裏を歩いていた。
辿り着いたのは、悪友であるアウトロが縄張りとしているバー。
そそくさと奥のVIPルームへ進みドアを開けると、そこにはブランデーグラスを片手にソファに腰掛けるアウトロの姿があった。
「おぉ!?なんだよ急に」
「急ぎだ」
するとザキルは、ポケットから取り出したUSBメモリをアウトロへ放り投げる。
「あぁ?なんだよコレ?」
「持っとけ。切り札だ」
「切り札?」
「絶対に失くすんじゃねえぞ」
「…おいおい、さっきから一体なんの話してんだよ?」
「ゴタついてる。聞け」
すると、落ち着かない様子のザキルは神妙な面持ちで向かいのソファに腰かけ、真相の全てをアウトロに打ち明けた。
自身が闇討ちマンの正体であること、殺人免許の試案が裏で暗躍していること。
アウトロは固まったまま、ただザキルの話を聞き入っていた。
「さ、殺人免許だぁ?おい、マジかよ…?イカれてるぜ。本当にそんなモンで世直しになんのか?」
「知ったことか」
「…MI5も真っ青な計画だな」
すると、次にザキルの口から衝撃の計画が告げられる。
「これからヤツを告発する」
「はぁ?なんだって?」
「このまま野郎にタクトを握らせてみろ。演奏されんのは阿鼻叫喚のフィナーレだ。成立しちまう前にヤツを落とす」
「告発って、誰にだよ?サツか?」
「ほざけ。サツなんざセンターの犬同然だ」
「んじゃ誰にだよ?」
「ブタバナ派の連中だ」
「!」
「連中なら間違いなくセンターを落としにかかる。証拠の通話記録と映像さえ渡しゃ国営放送の連中とどんちゃん騒ぎしやがるはず」
「なるほど!」
ザキルは焦っているのか、アウトロの飲みかけであるブランデーを横取りし一気に飲み干した。
「そのコピーUSB無くすんじゃねぇぞ。オレが消されたらテメェが動け」
「はぁ?なんだって?」
「聞こえたろ」
「巻き込むんじゃねぇよ!何でオレ様がそんなことしないといけないんだよ?」
「この免許が成立してテメェが殺しの的にならねぇ自信があんのか?」
「なっ…!」
「連中が死刑判決を出す大義名分は"死ぬほど恨まれている人間"だ。裏の情報屋やってるテメェはその先頭をいってんだろうが」
「オ、オオ、オレは殺されるような恨みを買った覚えはない!…ま、まぁ、そりゃあ?兄貴の嫁さんと寝たことは後悔してるけどさ…」
「その趣味悪ぃスーツをテメェの血で濃くしたくなけりゃ、間違いねぇ"受け"と繋げ!」
闇の人脈を持つアウトロに対し、ザキルはセンター反対派の中でも有能な立ち回りが出来る実行役の紹介を依頼した。
アウトロは間接的に追い詰められた状況に拒否ができず、渋々と自身のスマホを操作しとある人物に電話をかける。
「オレだ。おいおい、落ち着けって。デカいヤマだ、後悔させねぇ」
そしてアウトロは電話口の相手と交渉を取り付け、テーブルの上にあるメモ用紙に何かを書き込むと電話を切った。
そのメモをザキルに渡す。
「2時間後、ここで会え」
「よし!カメラを避ける、ナンバーの無ぇ車を貸せ!」
ザキルはメモにかかれた場所を記憶すると、すぐさま持っていたライターでメモを焼き払った。
「おい、頼んだぞ!」
そして決死の覚悟を決め、ザキルはアウトロの店から姿を消すのだった。
ウダの狂気性を危惧し、殺人免許のプロジェクトを破綻させようと告発に動いたザキル。
反対派の人間に情報を流すべく、情報屋であるアウトロから指示された小さな駅の地下に訪れた。
周囲には寂れた簡易宿所が立ち並ぶ街並み。
ホームレスや日雇い労働者が多く生息する場所で治安も悪く、特に夜は人を寄り付かせない場所でもあった。
約束の一時間前に現場に到着したザキル。
周囲に誰もいないことを確認し、壁に寄りかかるとポケットから煙草を取り出し、火をつけた。
電球が切れかかった蛍光灯が照らす明かりの中、ソワソワしながら相手の到着を待つザキル。
すると間もなくして、誰かが駅の階段を下りて来る足音が聞こえてきた。
十分でない明かりを頼りにその方向を振り向くと、階段から姿を現したのは、予定外の人物だった。
「!!」
それは高級スーツに身を包み、黒縁オーバル型の眼鏡をかけた男。
周囲の薄暗さがその不適な笑みを演出しているかのようだった。
「やぁ、ザキル君」
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