第8話:宿敵"国営放送局"との決戦へ ~ 友の死を胸に挑む
悪魔の命令を受け、鬼は躍った。
"パンッ、パパァン"
勢いのまま振り返り、ザキルは銃口を定め、足場の縁に立つニチョウに対し数発の弾丸を打ち込んだ。
「!!!」
「!!!」
「…」
凶弾に倒れるニチョウは、そのまま背後の海に落ち、周囲には水面が弾ける音が響き渡る。
自身が犯した許されざる行為に息を荒げ、全身から汗が噴き出し、その場に膝をつくザキル。
「そ、そんな…」
「…」
エニシゲは目の前の惨劇に青ざめていた。
緊張していたのか、ウダも僅かながら息を漏らし肩を大きく下に落としていた。
ゆっくりと拳銃の安全装置を戻しポケットにしまうと、メガネの位置を整える。
「辛かったですね。しかし、国家のためによく決断してくれました。引き続き期待しています」
温度の無い慰めを投げるウダ。
エニシゲは思わずザキルに駆け寄り肩に手を置く。
「ザ、ザキル、おい、大丈夫か?」
ザキルはただただ四つん這いのまま地べたを見つめ、呼吸を整えられずにいた。
すると、
「…失せろ」
「え?」
「失せろぉぉぉ!!!テメェもぶっ殺すぞぉぉ!!」
突然ザキルは立ち上がり、鬼のような表情でウダに銃を向けた。
ウダはやはり冷静な立ち居振る舞いで乗って来たリムジンへと戻って行く。
「エニシゲ君、行きましょう。彼には少し時間が必要です」
「ザキル…」
目が据わり、発狂するザキルの姿を見て、エニシゲはウダの言う通り車に乗り込んだ。
間もなくして二人が乗った車は静かな港場を後にする。
ザキルは決して銃を下ろすことなく、その場にただただ一人で立ち尽くすのだった。
港場で鬼畜の所業が断行された数分後、エニシゲが運転する車中では重苦しい空気が流れていた。
その狂気が露になったウダという男を後部座席に乗せ、沈黙のまま車を走らせている。
バックミラーに映るウダは何事もなかったかのように何かの資料を黙読していたが、やがてエニシゲに声をかけた。
「驚かせてしまいましたね」
「!」
「彼女の処理は私が何とかします。心配には及びません」
「え、あ、あ…」
「必要なことでした。耐えてくれたことに感謝します」
ウダの声色に、一切の罪悪感は感じられなかった。
とんでもない事態に陥ってしまったことを痛感するエニシゲは、未だに激しい鼓動が収められないまま、震える手でハンドルを握っていた。
ニチョウの死を悼む余裕も、港に残してきたザキルの身を案じる余裕もないまま、ただ車を走らせるのだった。
-2日後の月曜日-
エニシゲをはじめとする免許センターの各事務局長や上層部たちは、とある場所を訪れていた。
"国家集案堂"と呼ばれる国内の政治家たちが活動の拠点とする建物。
この日、集案堂にて国営放送局上層部の人間たちに対する免許センターの調査報告会が行われようとしていた。
先日の職員襲撃事件をきっかけに、エニシゲが強引に開催までこぎつけた催事。
日々センターに対して敵対的な報道を繰り返す国営放送に、組織の功績をアピールし理解を深めてもらおうとするものだった。
控え室で気合の入る面々だったが、発起人のエニシゲは一人、深いため息をついていた。
「…ふぅ」
「エニシゲ君?どうしたの?」
エニシゲの様子を心配して声をかけたのは、広報渉外部の女性局長であるアサクサだった。
「あ!あぁいや、何でもないよ」
「そう?だいぶ顔色悪いけど…」
「平気平気!」
エニシゲは先日の港場の光景が忘れられず、ここ数日は眠れない夜を過ごしていた。
「そろそろ時間だ!よし、みんな気合入れていくぞ!」
「おう!」
「あれ?イロヨク局長は?」
「え?」
職員たちはある人物の不在に気づく。
見かねたエニシゲとアサクサは控え室を出て周囲を捜索する。
すると、半開きになっている隣室のドアの奥に一人の男がノートパソコンの画面を眺めている姿。
「ニッシシシシシ」
二人は静かに男の背後に近づいて行く。
すると、その男が眺めていたのはカラオケ店のものと思われる監視カメラの映像。
室内では色めかしい雰囲気を見せる高校生カップルが互いの身体を密着させていた。
<あ…待って…>
<我慢できない!>
<んん…>
今まさに初々しさ溢れる営みが行われようとする様を、男は鼻の下を伸ばし眺めていた。
「イロヨク…」
「っのわああああああああ!?!?!」
背後から声をかけられたその男は大慌てでパソコンの画面を閉じた。
「イロヨク、お前なぁ…。一体何やってんだよ?」
「エ、エエ、エ、エニシゲェ!!?お、脅かすなよ!!」
「職権乱用もいいところだぞ」
エニシゲとアサクサはイロヨクと呼ばれる男の覗き行為を白い目で見ていた。
システム管理局長を務めるこの華奢で地味な風貌の男は、開き直りを見せる。
「い、いい、いや、その、これは、ほら、あれだよ!い、今の技術でどれくらいのアルゴリズムを解析できて、どれだけのプロキシサーバーを突破できるかハッカー目線に立って検証してたんだよ!」
「イロヨク君、アンタって本当さいってー」
「ま、まぁまぁそう怖い顔しなさんなってアサクサちゃん~。今日のパンツ何色?」
"バキィ"
イロヨクからセクハラを受けたアサクサは咄嗟に相手の顔面に正拳をお見舞いした。
「っぐはぁあ、エ、エエ、エニシゲェェ!今の見たな?今すぐこの暴力女から大人免許を取り上げろぉぉ!」
「剥奪されるのはお前の方だろうが。ほら立て、時間だ!」
こうしてイロヨクと合流したセンター職員一同は、宿敵である国営放送組織と決戦の場へ向かうのだった。
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