第7話:失態のケジメ ~ 相棒か幼馴染か

-昨夜の林道-


「ザ、ザキさん…?ど、どうして?」

「…」


二人の間に極限の緊張が走る中、現場には同僚警官の声が轟いて来た。


「おーい、ニチョウ!どこだぁ?」

「!」


ニチョウは咄嗟の判断で銃を下ろし、捜査命令に背いた。


「ザキさん、逃げろ!」

「!」

「早く!!」


ザキルは言われるがまま、その場から颯爽と走り去って行った。

やがて合流した同僚の男は、ニチョウに状況を確認する。


「おい、どうだった?」

「あ…。いや、何でもねぇ。気のせいだった」

「え?誰かいたんじゃないのか?」

「いや、ただの動物だった…すまねぇ」


切れた息や冷や汗を必死にごまかしながら、ニチョウは震える足腰を堪え、同僚と共に雑木林を後にするのだった。


ニチョウの判断で窮地を救われたザキルは翌朝になり早々、ウダに一部始終を報告していた。


<…そうですか>


誤魔化しきれないザキルは、林道で袂を分かった後、電話でニチョウに真相の全てを話していた。

そして今日、ザキルとニチョウはこの港場に呼び出されていたのだった。



「お上もヤベェこと考えますよねぇ」


ニチョウはどこか嬉しそうな表情でゾクゾクした気分を味わっている。

感情が膨らむと、子どものようにザキルの背中に飛び乗った。


「お役所のハンコ付きで遠慮なくヤッちまっていいなんて、こんなシビれることないっすよぉ!」

「…降りろ、重ぃ」


すると、静かな港場に一台のリムジンが到着した。

中から出て来たのは、センター事務局長であるエニシゲと、五叡人の一人であるウダだった。


「ザキル、ニチョウ君」

「やっほー、エニち~ん。そいつがウダさんかい?」

「あぁ。ウダさん、こちらニチョウ君です」

「…」


エニシゲの紹介を受けたウダは、黙って二人を見ていた。

その表情は明らかに険しく、ザキルもエニシゲも様子を注意深く見守っていた。

すると、ウダは重い口を開く。


「ザキル君、こちらへ」


人気の無い深夜の港場、比較的緩やかな雰囲気を見せる他と一線を画し、殺人免許計画の発案者であるウダは、一人厳しい顔つきを見せていた。

呼ばれたザキルはその場にニチョウをその場に残し、ウダの元へと歩いて行く。

目の前で立ち止まるザキル、ウダはどこか落胆している表情を見せていた。


「あれだけ気をつけろと言ったのに、失態でしたね」


ウダの発言により現場に緊張が走る。


「我々が今、どのような状況にいるのか、理解が足りないようだ」

「…」

「少し、気を引き締めてもらいます」


すると、ウダは内ポケットから黒鉄の凶器を取り出し、ザキルに手渡した。

それは、手に取った重さから銃弾が装填されていることが分かる小型の拳銃。

そして、ウダは一同の耳を疑う命令を下した。


「それでニチョウさんを始末しなさい」

「!!?」


驚愕する一同、ウダはただ一人、冷静かつ真剣な表情を崩さなかった。


「あぁ?なんだとぉ?」

「聞こえたはずです。彼女を撃ち殺しなさい」

「…テメェ、寝ぼけてんのか?」

「そう見えたなら失礼、伝え方が足りませんでしたね」


すると、ウダは次の暴挙に出る。

ポケットから取り出したもう一丁の銃口を、横に立つエニシゲに向けた。


「ウ、ウダさん!?」

「テメェ!なんのつもりだぁ!」

「ご理解いただけましたか?私は本気です」

「おい、ふざけんなよ?」

「本気だと言ったはずです。計画を知る人間が増えればあらゆる面でリスクが高まる。お互いに命懸けの計画、決してミスは許されない。君には少し覚悟が足りないようようだ」

「あぁ?」

「彼女から秘密が洩れないと保証できますか?」

「ほざけ!銃を下ろしやがれ!」

「ウ、ウダさん!落ち着いて下さい!」


すると、ウダはノーモーションでエニシゲの足元に威嚇射撃を放つ。


「!!」

「私は、いたって、冷静だ」

「なっ…」

「さぁ、ザキル君、決断したまえ」

「ッッ!!」


窮地に追い込まれたザキルは、幼馴染と相棒を天秤にかけられた状況に表情を強く歪ませる。

その様子を、エニシゲとニチョウは身動きの取れないまま静観するしかなかった。

すると、ザキルは咄嗟の判断でウダに銃を向ける。


「!」

「銃を下ろしやがれ!」


しかし、ウダは一切動揺した様子を見せずエニシゲに銃を向け続ける。


「ほう?やってみかね?」

「…!」

「ザキル!」

「ザキさん…」

「私亡き後、この事態を収拾できますか?」

「ック…!」

「いずれ警察が証拠を見つけ君らを逮捕する。その時、私の力無くして事を収められますか?」

「…ッ!」


ウダは更にザキルを追い詰める。


「辛いのは分かります。が、自らを撃って落とし前をつけようとは思わないことです」

「!」

「そんな逃げ方は許されない。後戻りはできません。計画が頓挫すれば私は証拠隠滅で二人を撃ち殺さなければならない」

「なっ!?」

「ザ、ザキル…」

「ザキさん…」


数秒の静寂、それが4人にとっては数分ほどにも感じられるほど長かった。

そんな静寂を、この時初めて見せるウダの怒声が引き裂いた。


「さっさとしろぉぉ!」

「うあぁぁぁ!!クソがぁぁぁ!!」


3人の全身にしびれが走った。

そしてザキルは、ついに悪魔に魂を売ってしまう。

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