第6話:最悪の再会 ~ 相棒であったはずの犯人

ザキルに成敗された悪徳教師のタレコミを受け、ニチョウは警戒しながら周囲を捜索に当たる。

そんな展開が繰り広げられているとはつゆ知らず、現場から近い場所を歩いていたザキルは何かしらの違和感を感じていた。


「…!」


微かに聞こえる人の声、そしてニチョウが照らすペンライトの明かりが遠方で四方八方を向いていることに気付く。


「っち!」


ザキルは停めておいた車に乗ろうとしていたが、エンジン音で居所がバレることを恐れ近くの林道に一時避難する。

やり過ごそうと息を殺しながら木の裏に身体をすり寄せ周囲の様子を伺うザキル。

しかし、その期待とは裏腹にニチョウが照らすペンライトの明かりは次第に光度を増しながら近づいて来る。


(…ニ、ニチョウ!?)


やがて隣接する道路に現れたニチョウ、ザキルは木を挟んで約10mの距離にその姿を捉えた。

腰元の拳銃に手をかけながらペンライトで周囲を見渡すニチョウに対し、ザキルは最も望まない相手の登場に肝を冷やす。

そして、ニチョウがその場の異常を検知できずに撤退しようとした、その時、


"パキィ"


「!」

「!!」


ザキルは誤って足元にある小枝を踏んでしまい、僅かに響いた軋み音が静寂を打ち破った。


「誰だ!?」

「…っち!」


ザキルは咄嗟に林道の奥へと逃げ走り始めた。

今ここで自身の正体がバレれば、国家そのものを揺るがす事態になりかねないことを理解するザキルは、必死に全力疾走する。


「あっ、待て!」


足元の悪い雑木林の道なりをひたすら走るザキル、追うニチョウ。

一定の距離を引き離したタイミングで、ザキルは再び木の裏に姿を隠す。


「はぁ、はぁ、はぁ…。ちっきしょう、どこ行きやがった?」


相手の正体に気付いていないニチョウは、ペンライトで周囲を照らしながら血眼になって探し続ける。

運よくニチョウはザキルが隠れる場所と反対側へと向かって走って行った。

そのタイミングを見計らい、ザキルは再び動き出す。

周囲を警戒しながら回り道をしつつ忍び足で車に戻ろうと移動するザキル。


すると、


"ッパン"


「動くなぁ!」

「!!」


遠目にザキルの存在を捉えたニチョウは、腰元から抜いていた拳銃をザキルに向けていた。

ザキルの足元を狙い威嚇射撃を放った銃口からは、硝煙が揺らめいている。

相手がニチョウであることから、撃ち返す訳にもいかず、絶体絶命の状況に追いやられたザキル。

相手の背中から抵抗の意思がない様子を察したニチョウは、拳銃を構えながらゆっくりと歩み寄る。


「よーし、バカな真似すんなよ?そのまま両手を見えるところに出せ」

「…」

「聞こえなかったのかぁ?さっさとしろぉ!」


ニチョウの怒声が響き、ザキルはゆっくりと両手を広げる。


「よし、そのままゆっくりこっちを向け!」

「…」


そしてついに、ザキルは振り返り、その正体を明かした。


「…!!?」


センター極秘プロジェクトの一環として市民への闇討ちを繰り返していたザキル、そしてその犯人を捜査していたニチョウ。

かつて相棒として活動していた二人は、不本意な形で袂を分かち、そして時を経て犯人と捜査官として望まぬ再会を果たしてしまった。

目の前に立っているのは、心から敬愛していたはずのザキル。

相手の顔を見たニチョウは、驚き思わず銃口を下げた。


「え、ザ、ザキさん…!?なんで…?」

「…」


険しい表情で冷や汗を流すザキル。

やがて、ニチョウを追って来たパトカーのサイレン音が静かな林道に鳴り響くのだった。



-翌日の深夜2時-

ザキルは何故か一人で無人の港場にいた。

足場の縁に立ち、煙をふかしながら漆黒の海を眺めている。

すると、背後から女の声が聞こえて来た。


「ザキさーん!」


振り返ると、元相棒であるニチョウが手を振りながらこちらに近づいて来る。


「お待たせっすー」

「…」

「いやぁ。しっかしまぁ、えらいもんに巻き込まれちまいましたねぇ~」

「面倒かける」

「何言ってんですか!ワックワクですよ、アタイも参加させてもらえるかもしれねぇし!」


不可思議な光景、穏やかな雰囲気。

実は昨夜、因果な再開を果たしてしまった二人の間で意外な事態が展開していた。

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