【第二章:完全無欠国家へ】
第1話:突然現れた首脳"五叡人" ~ 英雄が目論む新免許制度
それから数日間、国家反逆罪を犯したザキルは行く当てもなく放浪し酒に溺れては車中泊をくり返していた。
ある日、車の中で寝ているとスマホに着信が届く。
寝ぼけ眼で相手の名前も確認せずに受電すると、電話口からは聞き慣れた声が聞こえてきた。
「…誰だ?」
<ザキルか?>
「!」
エニシゲの声に眠気が吹き飛ぶザキル。
合わせる顔が無いザキルは、寝起きの勢いで受電してしまったことに後悔する。
<やっと繋がった。ザキル、どうしてる?>
「…何の用だ?」
<なぁ、会えないか?>
「悪ぃが合わせる顔は無ぇ」
<違う、会ってほしいのは俺じゃない>
「あ?」
<会わせたい人がいる>
「…?」
<今夜また電話する。ザキル、必ず来てくれ!>
エニシゲはそう言い捨てるようにして電話を切った。
ザキルは何のことだか検討もつかずに思考を巡らせる。
やがて夜が訪れると、約束通りエニシゲからの着信。
これからの人生に見通しが立たないザキルは、旧友の言葉を信じて受電するのだった。
-深夜2時-
ザキルは待ち合わせ場所として指定されたとある港場に立っていた。
人気の無いその場所に、やがて一台の車が到着する。
「ザキル!」
リムジンの中から出てきたのはエニシゲだった。
一定の距離を保ちつつ二人の間には気まずい空気が流れていた。
周囲を気にしながらエニシゲは再び声をかける。
「ザキル、乗ってくれ。車の中で話そう」
エニシゲは自身が運転してきたリムジン車の後部座席にザキルを誘導する。
向かい合わせの四人席に左右のドアから乗り込む二人。
すると、ザキルは想定外の光景に驚きを見せる。
「!」
車の中には見知らぬ一人の男が座っていた。
警戒しながらも、流れのまま車に乗り込みドアを閉めるザキル。
目の前に座る正体不明の男は、手元の資料に目を通していた。
「ウダさん、こちらがザキルです」
「ザキル君、どうも初めまして」
40代程と思われる高級スーツに身を包んだ男は、上流階級を思わせる物腰と落ち着いた雰囲気を見せている。
整った七三分けのヘアースタイルに黒縁オーバル型の眼鏡の奥に光る眼光。
ザキルはエニシゲの様子を伺いながら、黙って男を凝視している。
すると、エニシゲの口からその男の正体が明かされる。
「ザキル、こちら、ウダ・ギンザンさん。免許センターの創設メンバーで五叡人の方だよ」
「!!」
エニシゲから紹介を受けたザキルは、極秘人物と謳われる国家免許センター首脳の存在を凝視する。
落ち着いた様子でザキルを見つめ返すウダという男。
「ザキルに話があるらしいんだ」
「話?」
「ああ。詳しいことは俺もまだ聞いてない。ウダさん、お聞かせいただけますか?」
ピリついた空気が車内を支配する中、ウダという男は静かに話し始めた。
「エニシゲ君からアナタのことを聞いています。実に素晴らしい気骨と腕っぷしだそうで」
「!」
「この度は騒動でしたね。いろいろと制度に思うところもあるそうですが、運営側の我々としても反省しなければならない部分が多々あると痛感しております」
淡々と話すウダという男。
ザキルはいまいち状況が飲み込めず、時折エニシゲの様子を伺いながらもウダという男の腹の内を探っていた。
「驚かれていますね?当然です、急なことで申し訳ありませんでした」
「御託はいい。用件を言え」
ウダはゆっくりとメガネの位置を直すと、再び口を開く。
「失礼。それでは、単刀直入に申し上げます。この度我々免許センターでは新しい免許制度が発議されております」
「新しい免許だぁ?」
「はい。しかしご存じの通り、新免許制度の施行には多くのハードルがある。そこで、アナタの腕を見込んで、是非とも我々の計画に協力していただきたいのです」
すると、ザキルは突然話を切り上げようとする。
「鍵を開けろ」
「!」
「話は終わりだ。とっとと鍵を開けろ」
「ザキル!」
「これ以上テメェらセンターに加担する気はねぇ」
「ザキル…」
「タイミングが悪かったな。こちとら最近機嫌が悪ぃんだ」
ザキルは直近で出会った妊婦や母親たちのことを思い出していた。
どうしても免許制度が人を救う未来が見出せず、話も聞かないまま協力を拒否する姿勢を見せる。
すると、ウダは突然ザキルの琴線に触れることを言い始めた。
「白紙に戻しましょう」
「あ?」
「もし協力して下さるのなら、白紙に戻しましょう。エニシゲ君の罷免を」
「!」
ザキルは自身の狼藉により、恩人であるエニシゲが窮地に立たされていることを思い出した。
「それだけじゃありません。ザキル君本人の行いも不問とします。虚偽申請をする猫の飼い主も、あの赤スーツのお友達も見逃しましょう」
「!!」
「時折、コッソリと親と子供を合わせていることも監視データからは消去します。いかがですか?」
「…」
全てを見透かす様なウダの視線と、睨みを利かせるザキルの眼光が激突する。
やがて不本意ながらもザキルは聞く姿勢を見せた。
「話してみろ」
「結構」
すると次の瞬間、ウダの口からは信じがたい内容が語られ始めた。
「我々が今回新たな免許制度として目論んでいるのは、"殺人免許"です」
「!?」
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