第2話:革命の足音 ~ 神に挑む謎の5人集結

コトを終えた刑事の男は一人でホテルから出てきた。

帰路の途中、目に飛び込んできたのはとあるファーストフード店。

店内では太った中年女性が二人、大口を開けてハンバーガーを頬張っている。

その様子を店の外からガラスにへばりつき凝視するやせ細った二人の少女。

姉妹と思われる二人は色落ちが激しいTシャツ姿で生唾を飲み込んでいた。

そんな惨たらしい光景を見た刑事は、再び小さなため息をつく。


「やっぱ、この国はもうダメだな…」


ここはとあるアジアの小国。

かつて、経済大国として発展していたこの国は窮地に立たされていた。

世界的不況の煽りを受け、経済不安に陥った人々は疲弊の一途を辿る。

少子高齢化を始めとした社会問題が膨らみ、精神を病む者も増え、国内では凄惨な事件が後を絶たなかった。

取り締まられない軽犯罪の激増、ネグレクトや虐待、汚職と貧困。

国連は事実上この国を見捨て、すでに崩壊のカウントダウンは始まっていた。


そんな中、現状を見かねた一人の革命的政治家が立ち上がる。


「決断の時だ!もう一刻の猶予も許されない!」


国会の中で感情をむき出しにして立ち上がったのは、"総理議長"と呼ばれる国政のトップに位置する男だった。

全議員の注目を集めながら雄弁を続ける。


「本日今時点より、真の手腕を持った有識人を集結し新たな組織を形成する!我々政治家の位置からは一線を画した場所より全身全霊をもってこの国を建て直していく!」

「!?」

「法律も規則も条例ももうたくさんだ!優先されるべきは国民の生活と安全!旧態依然、杓子定規、もはや政治家だけの力ではこの国は救えん!」


大きな体格から放たれた覇気を纏った言葉は、その場にいる議員全員を委縮させた。

突拍子もない議長の提案に、集まった議員たちは如実に疑問の意を表情に浮かべている。

そんな中、一人の小柄で醜悪な見た目をした中年議員の男が野次を飛ばす。


「おいおーい、頭のネジでも飛んだかー?だーれがそんな具体性のない革命ごっこに付き合うと思う~?」


その男は議長に代わり周囲の注目を集めながら皮肉を飛ばし続ける。


「これだから運だけで議員になった輩は困るんだよ、政治家としての常識というものが欠けとるわ」


すると、議長は相手の男を睨みながらゆっくりと動き始めた。

自席を離れ、敵対派閥の陣地まで歩み寄り、野次を飛ばした男の目の前に立つと、周囲を仰天させる行動に出る。


「!!?」


議長は周囲の目を気に留める様子もなく、相手議員の胸ぐらをつかみ上げ無理やり椅子から立たせた。

国会中がどよめく中、睨み殺すかのような表情で言葉をぶつけ始める。


「ブタバナさん、今朝のニュースは見たか?」

「はっ…はぁ!?」


ブタバナと呼ばれた相手議員は意表を突かれ動揺から脂汗が滲む。


「ネグレクトを受けている5歳の少女が裸足でコンビニに現れ、手に持っていたメダルを店員に差し出して言ったそうだ、"お腹が空いた"と…」

「…!」

「こんな惨状が今我々の国で起こっているんだ!こんな国にしてしまったのは我々政治家の責任だというのに、それでも、それでも貴方は、"常識"などというカビだらけの盾を振りかざして自身を守りたいのか?」

「は、離さんか貴様!」

「言っておくぞ!"常識"という言葉をよく見てみるがいい。常にあるというだけで決して"正しい識"とは書かれない!」


そして、議長は相手議員から手を離し、自身のスーツの襟を整えた。

国会の中央に立つと、周囲の議員に対し改めて決意を言い放つ。


「私はこの国の総理議長として、政治家生命に誓い、必ずこの国を立て直して見せる!失敗した暁にはこの命をもって償う覚悟だ!邪魔立てする者は決して容赦しない!以上、解散!」


国会中に響き渡った議長の声が余韻を残す中、当の本人はその場を後にした。

ザワザワとした話し声があちこちから巻き起こる中、胸ぐらをつかまれた議員の元に秘書の男が駆け寄る。


「せ、先生!大丈夫ですか?」

「フン!気狂いめが…」

「どうされますか?訴訟しますか?」

「放っておけ、どうせ勝手に自滅するわい。奴が何をするつもりかは知らんが、この国で今から何をしようが無駄な足掻きじゃ」

「そ、そうですね!」

「威勢よく吠えおって、だがこれで奴は間違いなく転ぶ。そうなれば失脚は免れん。議長の椅子は私のモノとなる!フヘヘヘヘ」


その場にいる誰もが同じように思っていた。

しかし、議長が宣言した奇策が、後に国家に劇的な革命をもたらすことは、この時誰一人として予想することは出来ずにいたのだった。



翌日、議長は国会中継にて自身の決意と意思を国民に向けて発表した。

同時に公表されたのはとある奇想天外な政策。

その前代未聞の政見放送に、各地からどよめきが上がっていた。


「皆さんが抱く多くの疑問、大きな不安は百も承知です。しかし、もはや旧態依然の政治体制ではどう足掻いてもこの国に未来はありません!今こそ革命が必要なのです!独裁、暴政、非常識と揶揄されるかもしれませんが、私はこの命を賭け、天地神明に誓い、必ずこの国を復興させてみせます。どうか、国民の皆さんのご理解を宜しくお願い致します!」


カメラの前で身体を90度に折り曲げ頭を下げる議長。

そんな姿を画面越しに見る国民は、戸惑いながらも議長の溢れる誠意に心を動かされていた。


「どう思う?」

「いや、いくら何でも…」

「でも、あの人が言うなら信じてもいいんじゃねぇか?」

「そうだね。こんな状況で議長に立候補した人だし。本気じゃないなら好き好んでこんな汚れ役買わないよな」

「"国を救える実力を持った有識人たち"を集めるって、本当にそんな奴いるのか…?」



数日後、総理議長は一人でとある高層ビルの前に姿を現していた。

エレベーターを上がり到着したのは58階のフロア。

セキュリティの厳重なドアの前に差し掛かると、指紋認証、眼球認証を経てドアを開く。

中に広がっていたのは最新設備を整えた薄暗い会議室の風景。

部屋の中心にある大きな楕円形のテーブルを囲い、5人の男女が椅子に座っていた。


「諸君、集まってくれたことに心より感謝する」


議長の謝辞を受け、5人は席に座ったまま軽く会釈をした。

議長が上座の椅子に腰を下ろすと、早速会議が始まる。

集結していた正体不明の男女5人は、手元の資料を再確認しながら各々意見を陳述し始める。


「増える国家の借金、少子高齢化、外交脆弱、資源はおろか核すら不所持。今日の今まで植民地として他国に支配されていないのが不思議でならんな」

「この国の国民性がよく現れていますよ。リスクを取らないお人よし国家の成れの果てといったところでしょうか。技術進化もイノベーションも絶望的だ」

「歯がゆいわね、この国には素晴らしい強みがたくさんあるのに。政治家さんたちは一体何をしていたのかしら?」

「責任取りたくない老害共は国民の命より自分の椅子ッスからねぇ。逆に失うものがないオレみたいな"犯罪者"の方が逆に政治家向いてる説」

「ふふふ。いいじゃないですか、やりがいしかないですよ。折角これだけのメンバーが集まったんです。神々ですら成しえなかった"完全国家"という偉業を我々で成そうじゃありませんか」


組織屋、心理屋、経済屋、軍隊屋、実業屋、議長が集めた謎のメンバー達はその後30分程度の話し合いを続け、あるひとつの結論をまとめた。

内容に納得した様子の議長は締めの挨拶と共に再び謝辞を述べる。


「ありがとう、君たちを信じている。いかなる協力も惜しまない。どうか、この国を救ってくれ」


こうして、謎の組織は最初の会議を終えたのだった。

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