第31話 生徒会長の真意
リディアたちと別れ、俺が向かった場所は入学式で訪れた学園の大講堂であった。
「やっぱ、ここにいたか──シャノン」
そこで一人。
壇上に立つ彼女──シャノンの後ろ姿に声をかける。
彼女は振り返り、俺の顔を見て少し驚きの表情になって、
「……あなたなら、もしかして──って思ったけど、どうして私のいる場所が分かったのかしら」
と問いかけた。
「なあに、簡単な推理さ。だが、今はそれを話している時間はない。全部終わったら、詳しく説明してやんよ」
ゲームのPV。
そこでシャノンはここの壇上に立っていた。
てっきり入学式の一シーンを取り上げたと思っていたが、それはおかしい。
ゲームではどうなってたか分からないが、少なくとも
それにPVでのシャノンは儚げで、周りに生徒や先生の姿もなかった。
なので俺はPVで描かれたシャノンは、入学式のシーンではなく、
「とはいえ、絶対に合ってるって保証はなかったけどな。ここにいなかったら、手詰まりだった。しかし……俺は賭けに勝った」
「その割には、ここに来るまで時間がかかったと思うけど?」
「こっちにも色々とやることがあったからな」
「そう……参ったわね。せっかく逃げろって言ってあげてるのに、わざわざ突っ込んでくるなんて」
呆れるように、シャノンは溜め息を吐いた。
「なあ、シャノン。お前は本当に、反魔法協会に寝返ったのか?」
「そうよ。もっとも、寝返るって表現が正しいかは分からないけど。最初からずーっと、私はあなたたちを騙し──」
「ああ! 面倒臭ぇ! そういうのいいから! 自分で全部罪を被るつもりか? 悪ぃが、そういうお涙頂戴イベントはいいんだわ。俺は真実を知りたい」
俺が頭を掻きむしりながら答えると、シャノンはハッとしたような表情になった。
「どうして、そう思うの?」
「そもそも学園ごと爆破させるくらいなら、ついでに生徒も巻き込んだ方が効率的──って、論理的説明も出来るが、今のお前を見てると全部どうでもよくなった。だって今のお前、泣きそうな顔をしてるんだもん」
「──っ!」
シャノンが言葉に詰まる。
「お前の作戦は大成功。泣きそうな顔をする理由はないはずだ。だからさっさと話せよ。話くらいなら聞いてやるぞ」
「……あなたには敵わないわね」
諦めたように息を吐き、シャノンは話し始めた。
「ご名答。あなたの推理通り、私は反魔法協会でもなんでもないわ。なんなら、反魔法協会を心底嫌ってる側」
「やっぱ、そうだったか。なら、どうして反魔法協会に協力するような真似をしている?」
「
シャノンはさらに続ける。
「私の家の話って、したことあったかしら?」
「ああ。確か、すっげーお金持ちで厳格な家だったよな。お前をこの歳まで、恋愛関係の知識を疎くさせちまうくらい」
「そうよ。家名はウィンブルグ。ヤツらは突如やってきて、私の家族を人質に取った。
『私たちに逆らえば、お前の家族がどうなるか保証出来ない。我々に従え』──って」
「なるほどな。まあ筋書きとしちゃあ、王道だ」
各地でテロ行為をするだけではなく、シャノンの家族を人質に取るなんて……。
悪役貴族の俺が言うのもなんだが、ヤツらの非道な行いに怒りを覚えた。
「だから今回のことをしでかしたってわけか」
「ええ。あなたに最初接触したのも、反魔法協会の指示よ。『ギル・フォルデストの力を探れ』……って。まあ、なんでそんなことを言ってきたのか、理由は知らないけどね」
「アイリスの悩み事を解決するうんぬん、だったか。まあそのことはいい。それで?」
「ヤツらは大々的な計画を練っていたわ。それがこの──アストリエル学園の爆破。準備は着々と進み、ようやく計画を実行。幸い、学園の優秀な生徒や先生はみんな学舎を離れていて、爆弾を仕掛けるのもスムーズに済んだしね」
「なるほど。特選メンバーは誘導だったか」
おかしいと思っていた。
王都の魔法研究所を襲撃するなんて雑な理由。そのために各地に散らばっていた協会員を集結させる……って言ってたが、そんなことせずに、ゲリラ的にやった方が成功するんじゃないかと。
しかし本当の目的は王室が学園に特選メンバーの要請をすることを踏んで、誘導として事件を起こしたせいだ。
そのせいで、俺たちを含む上級生や先生も学舎からいなくなり、反魔法協会──そしてシャノンに好き放題にさせちまった。
「もっとも、一年生だけは想定以上に早く帰ってきて、少し焦ったけどね。でも計画に支障はない」
とシャノンは肩をすくめる。
「幸い、私は生徒会長として特選メンバーを選出出来る地位にあった。私のこういうところも、反魔法協会としては使い勝手がよかったんでしょ」
「ふむふむ……それが表向きの理由か」
「表向き?」
「ああ。邪魔されないように、優秀な生徒を学舎から弾いた──ってのはごもっともな理由だが、お前のことだから『優秀な生徒に未来を託したかった』ってのは真実の理由なんじゃないか? そして本来予定にはなかった爆破予告をし、少しでも多くの生徒を学園から出そうとした──ってところか」
「…………」
俺からの問いに、シャノンはすぐに答えようとしなかった。
「……あなたは私のことを高く買っているみたいね。私はそんな、物語の主人公みたいに善人じゃないわ」
「そうだろうな。あんたは俺と同じで悪人だ」
そう言って、俺はシャノンに一歩近付く。
「さて、理由も分かったところで……ちなみに爆弾はどこにある? あと三十分──いや、あれから二十分くらいは経ってるから、残りは十分か? さっさと……」
「止まって」
歩み寄る俺を、シャノンは声で制す。
「どうしてだ?」
「爆弾はここにあるわ。今ならまだ逃げられる。あなたまで巻き込みたくない」
「はあ? 一体どこに爆弾が──」
そう言葉を続けようとした時、シャノンは驚くほど気持ちいい笑顔でこう告げた。
「爆弾は──この私。私ごと学園を爆破するようになっているわ」
……と。
「…………」
「単純な爆弾だったら、威力も足りないでしょうし、解除されてしまう可能性も考えたんでしょうね。私のことは用済みと見なし、ヤツらは魔法で私を爆弾とした」
そう語るシャノンはどこか儚げで。
生きることを諦めているようだった。
「それでも、優しいあなたは私を救うつもりかしら? 物語の主人公にように、私を救ってくれるのかしら?」
「……なんかごちゃごちゃ言ってるが」
ああ、我慢出来なくなってきた!
俺は今までの鬱憤を晴らすかのごとく、腹の底から叫ぶ。
「はああああああ????? お前を救う? 人質を取られてるだかなんだか知らねえが、学園を爆破しようとしている極悪人を? 俺がそういう人間を見えましたかああああああ!?」
大講堂に俺の声が響く。
これにはシャノンも予想外だったのか、きょとん顔で固まる。
「俺はただ、お前を一発殴りたかっただけだ。巫山戯んなよ! 特選メンバーに選ばれたかと思ったら、こんな面倒なことも起こしやがって! 一発殴らなきゃ俺の気が済まん!」
「……っ! 来ないで!」
気にせず歩み続ける俺に、シャノンは手をかざす。
「悪いけど……こうするしかないのよ」
「あんたはずっとそれ、言ってるよな」
「もう止められない。あなただけは巻き込みたくない。だから……」
そう言うと、俺とシャノンの間に灼熱の炎の渦が発生した。
「ヘル・ファイア」
一言、シャノンはその魔法名を告げる。
「近付くもの全てを焼き払う、業火の魔法。あなたをこれ以上、私に近付かせるわけにはいかない」
「ちっ、自分一人で死ぬつもりか。だがな、シャノン──俺の得意な魔法って知ってるか?」
「え?」
「精神操作だ」
肌が焦げる感覚を我慢しながら、俺はまた一歩シャノンに近付く。
「精神操作で無理やり、その大層な火魔法を解く。そしてお前の本音を引き出した上で、ぶん殴ってやる」
「本音って?」
「まあ見てなって」
俺は手のひらを彼女に向けながら、
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