第26話 【side反魔法協会】反魔法協会の誤算

 反魔法協会──ドロシア。


 彼女は霧が立ち込める渓谷を部下とともに進軍しながら、今回の作戦について思いを巡らせていた。


(王都にある魔法研究所を襲撃するなんて……上も思い切った判断をしたわね。失敗したら良くて全員投獄。悪くて死刑なんだから)


 しかし上の判断には賛成である。


『魔法は神の使う力であり、神の元に返すべきだ』──そういう信条を抱えている反魔法協会であるが、最近は目立った活動をしていなかった。

 抗議をしても、上は『時期を待て』と煮え切らない返事。

 なにか大きなことを企んでいる節はあったが、協会の末端であるドロシアでは知る由もない。


(今日で武功を立てて、協会の中でも確固たる地位を築く。それがアタシの目標。そのためにも、早く王都にいる協会員と合流しなくっちゃね)


 ニヤリと口角を吊り上げる。


「ドロシア様……本当にこのまま進んでも、大丈夫なんでしょうか? 霧のせいで、前がよく見えません」

「いいのよ。視界が悪いのは、あっちも同じだから。それとも……あんた、アタシに文句あるわけ?」

「め、滅相もございませんっ!」


 部下の男が慌てて言う。


 彼は協会の中でも、最近入会してきた人間だ。反魔法協会の崇高なる考えを、まだ理解していない節がある。


 それは彼女が率いる、他の部下も同様である。


(こんな無能どもの隊長になったところで、なんも嬉しくない)


 こうして王都の騎士を出し抜いて、ヤツらが後方支援をしている駐在地に向かえているのも、上の人間の計らいだ。


 彼女ですら顔も見たことがない協会の上層部は、化け物揃いだと聞く。

 早く彼らと肩を並べたい──ドロシアはそう思うのだった。


(やっぱり、なんとしてでも今回の作戦を成功させなくっちゃ。そうすればアタシだって、協会が求めるに──)


 そう考えていた時であった。

 突如、悪寒が走り、ドロシアは足を止める。


「……っ!? さっきのはなに? 膨大な魔力が──」


 そして、すぐにその存在に気付いた。



 ──ぬらぁ。



 真っ白な霧の中に、巨大な人型が出現した。


「な、なんだ、あれは!?」


 部下の男が声を上げる。


 その巨大な人型生物(?)は、見上げんばかりの大きさであった。謎の人型生物は足を踏み下ろすだけで、ドロシアたちは虫のように潰されるだろう。


 そんな人型生物の目が怪しげに光り、ドロシアたちを見据えた。


「ひ、ひええええええ!」

「や、やばいぞ!? 王都の秘密兵器か?」

「あんなのと戦えっこない! 楽な戦いだって聞いてたのに、話を違う!」


 部下たちが恐慌を起こす。


「……っ! 慌てないで対処するのよ! あんな大きな生物が存在するはずがない! なにか、カラクリがあるはずだわ!」


 ドロシアは急いで指示を出すが、それだけで部下たちの混乱を収められない。

 悲鳴が上がり、中には逃走する者も現れた。


「ちっ……」


 舌打ちをするドロシア。


「こんのっ、役立たずどもが……! いいわ。アタシが一人でやったげる。どうせ見かけだけで、大して強くないんでしょ」


 自分を奮い立たせ、ドロシアは持っていた魔法杖を掲げる。


 だが、異変が立て続けに起こる。


「きゃっ!」


 思わず、女の子らしい悲鳴を上げてしまった。


 ドロシアの足元が隆起し、そこからなにかが現れる──触手だ。触手はドロシアに伸び、あっという間に彼女を拘束してしまった。


「くっ……! あの謎の人型生物の攻撃ってこと? でも、これくらいなら……!」


 ドロシアは必死に脱出を図ろうとするが、もがけばもがくほど、触手の拘束は強くなっていく。


 辺りを眺めると、逃げようとして部下の何人かも同じような状況になっている。突然の光景に、腰を抜かす部下もいた。

 あっという間に、部隊は半壊してしまったのだ。


(なに……!? 王都の連中は、なにを隠し持ってたの? もしかして、密かに開発を進めてた……? 駐在地には後方支援をする者しかいないのに、こんなことって──)


 部下たちに指示を飛ばそうとするが、ドロシアの口腔にすら触手が侵入し、喋ることすら叶わない。


 彼女たちの上空に、一体の鷲が飛んでいたが、場の混乱のせいで誰も気が付いていなかった。

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