第24話 結果を出そうと焦る、原作主人公

 ミーティングルームに着くと、既に他の学年の生徒たち、そしてマリエル先生を含む、学園の教師陣が集まっていた。

 その中でも生徒会長のシャノンは一人だけ、ホワイトボードの前に立っている。

 繰り返すが、生徒会長には絶大なる権力がある。今回の作戦の陣頭ってところか? そう聞かされても、不思議ではない。


 彼女は俺たちを眺めながら、ゆっくりと話し始めた。



「──相手は反魔法協会。郊外にいた協会の構成員が集結し、今も王都を目指しているわ」



 反魔法協会。

『魔法は神の使う力であり、神の元に返すべきだ』というのを信条とする、過激なテロ組織だ。


「目的はなんだ?」


 三年生らしき男が手を挙げて、発言する。


「反魔法協会の連中は、王都にある魔法研究所に抗議してるわ。即刻、研究を中止しなければ、強硬手段に出る……と」

「身勝手な話だ」


 シャノンの話を聞き、ぼそっと呟く。


「もちろん、王族は彼らの要求を突っ返した。だけどそれによって王都から少し離れた地点で、戦いが生じている」


 のっぴきならない事情ではあるが、シャノンの表情からは余裕すら感じ取れた。


「今は街の外だけど、ヤツらの本隊が中まで侵入すれば大変なことになる。今回、集められたメンバーは騎士団との戦いに加わり、ヤツらの進軍を阻止するってわけ。どう? 簡単でしょ?」


 簡単じゃねーよ!

 そんな危険な戦いに、どうして俺みたいな一年生も加えられるんだよ!


 先日の実力試験、ロードリックだとかいう反魔法協会の魔導士に、俺は勝てる気がしなかった。

 これから向かう戦いに、あいつみたいなのがゴロゴロいるんじゃないかと思うと……鳥肌が立ってくる。


 なんとかしてサボれねーかなと思っていると、


「安心して。さすがに一年生には、直接戦いに加わってもらうことはないから」


 嫌そうにしている俺に気付いたのか、シャノンがこちらを見てにこっと笑った。


「実際、戦いに加わってもらうのは、ここにいる三年生と二年生。さらにはここにいる先生たちも、サポートに入ってもらうわ。

 一年生は戦いの後方支援。かなり離れた地点に設定してあるから、戦火が届くことはないはずよ? まあ……絶対とは言えないけどね」


 ほっと安堵の息を吐く。


 よかった。戦わなければならないと身構えていたが、その可能性は低そう。さすがに経験の浅い一年生を、直接戦わせることはしないか。

 シャノンからの指示に、他のリディアとミラベル、アイリスも若干緊張を解いているようだった。


 しかし一年生の中で一人だけ、違う反応を示す者がいた。


「後方支援……? そんなのいただけません!」


 バンッ!


 机を叩き、勢いよく立ち上がったのは特選メンバーの一人──クライヴであった。


「みんなが戦っているのに、僕たち一年生だけが後方でぬくぬくと待っているだけなんて……心が痛みます。僕にも戦わせてください!」

「んー、それはちょっと違うんじゃないか?」


 傍観していてもよかった。

 ここでヤツがわめこうが、認められるはずがない。


 だが、俺はクライヴの言ったことに無性に腹が立ち、気付けば口を開いていた。


「一年生の俺たちが行っても、足を引っ張るだけだ。そうなったら、他の人も危険に巻き込む。シャノン生徒会長の指示に従うべきだ」

「き、君はそれでいいのかい!? 人が死ぬかもしれないんだよ? それに戦果を上げるチャンスだ! 僕たちだけが置いてけぼりにされるなんて、悔しくないのかい!?」

かもしれない……ねえ」


 こいつはその意味を、本当に理解しているのだろうか。


「そもそも、後方支援だって立派な仕事だ。実際、後方支援がしっかりしているから、前線は安心して戦えるんだからな。まさか後方支援がただの役立たずだと思ってないよな?」

「……っ!」


 俺の言ったことにぐうの音も出ないのか、クライヴは悔しそうに俯く。


「ギル・フォルデストの言う通りね」


 議論の成り行きを身も待っていたシャノンが、ここでようやく口を開く。


「クライヴの提案は受け入れられないわ。一年生は後方支援。もし、そこまで反魔法協会の連中が届くことがあれば、戦うのもやむなしだけど、そうならないように三年生と二年生、教師陣は動く。いいかしら?」

「ま、待ってください、生徒会長。僕は──」


 まだ反論しようとするクライヴであったが、なにかを言いかけたところで突如言葉に詰まった。


「なにかしら?」

「……い、いえ、分かりました」


 まだ一波乱ありそうだと思っていたが、意外にもクライヴはあっさりと引き下がり、椅子に腰を下ろした。


「リディアとミラベル、アイリスもシャノン生徒会長の言ったことに、文句はないよな?」

「はい! もちろんです!」

「皆と共に戦えないのは歯痒いが……ギルの言った通り、後方支援だって重要な役割だ。しっかりと努めよう」

「ア、アイリスもそれでいいと思う」


 近くに座っていた三人にも話を振ってみると、彼女らは一様に頷いた。

 聞き分けのいい子だ。

 クライヴが特殊なだけだったとも言えるが。


「じゃあ、早速移動してちょうだい。戦いの地点までは少し離れているから、転移ゲートを使うわ。でもそれも行きだけで、帰りは馬車を使ってもらうことになるから気を付けてね」


 なにか緊急の事態が起こった場合に備えて、学園には転移ゲートが設置されている。


 だが、たった一つだけ。

 しかも一度使えば魔力を充填するのに時間がかかるらしく、丸三日は再始動しなくなる。

 ゆえに滅多に使われることはない。


 学園の生徒に協力を持ちかけることいい、転移ゲートを起動させるほど、王室の連中は切羽詰まっているみたいだな。


 その後、シャノンが解散を告げると、ミーティングルームにいた生徒と教師たちが散り散りになる。

 リディアたちも彼・彼女らの後に続いたが、その前に俺はシャノンの元に向かった。


「どうして俺を選んだんだ?」

「あなたは優秀な生徒だもの。特選メンバーに選出するのは、当然の判断だと思うけど?」


 シャノンは俺の問いかけに、首を傾げて答えた。


「とぼけるつもりか」


 なんにせよ、ここで押し問答をしても、彼女が本当の理由を喋ってくれるとも思えない。


「あんたは行かないのか?」

「ええ、私は学園で待機。反魔法協会は王都の中にも潜んでいるからね。とはいえ人数は少ないから、本隊と合流するまでは動かないと思うけど……念のためってわけ」


 ちくしょー! こいつ、楽なポジションを取りやがって!


 ますます抗議したくなるが、シャノンはそのことに気付いているのかいないのか、どこ吹く風といった表情だった。


「覚えてろよ」

「あなたのカッコいい顔を、忘れるわけがないわよ」

「棒読みで言われても、嬉しくないんだが!? ……じゃあ俺もそろそろ行くわ。遅れたら、怒られるだけじゃ済みそうにないし」

「待って」


 その場を去ろうとすると、シャノンが呼び止めてきた。


「まだなにか?」

「いえ……あなたとお話しするの、楽しかったわ。今回も巻き込んで、ごめんね。でも、こうするしかなかったから」


 なんだ、こいつ。

 急に殊勝になりやがったな。


「そうか。まあ……俺も色々言ったが、あんたのことは嫌いじゃない。また帰ってきたら、世間話でもしようぜ。ほとんどが俺の文句になる予定だが」

「……ええ」


 シャノンが微笑みを浮かべ、首を縦に振る。


 ここでようやくシャノンの前から去れるわけだが、転移ゲートに向かっている際も、ずっと最後の彼女の表情が気になっていた。


 いつものすかした笑みではなく、どこか切なさを感じさせるものだったからだ。

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