第23話 特選メンバーになる、悪役貴族

 ──平和な日々だ。


 シャノンからもたされた厄介ごとも済ませ、あれから俺は安穏な日々を送っていた。


「ギル様、本日もやりますか?」


 放課後。

 帰ろうかとすると、リディアが声をかけてきた。


 アイリスの悩み事は解消に向かったが、これで完全解決というわけではない。

 リディアたち三人の希望もあり、放課後の筋トレは続けていた。


「いや……今日は休みにしようと思っている」

「えっ! そんなっ! 楽しみにしてたのに!」


 内股でもじもじするリディア。


「あまり根を詰めてやっても、仕方ないだろ? 筋肉が回復する時間も与えてやらないとならん。たまには家でゆっくりしよう」

「ギル様のおっしゃることはごもっともですが……わたし、もう我慢出来ないんです。あの感覚が忘れられなくって……ああっ! 想像したら体の疼きがっ!」


 リディアの声が教室中に響き渡る。


 それらを聞いたクラスメイトたちが、「我慢出来ない……?」「体が疼くとも言ってたぞ」「やっぱり毎日、女の子を侍らせてここでは言えないことを……」「男って獣」とヒソヒソと話を始める。


 ちょ、おまっ!


「誤解されるようなことを言うんじゃねえよ! 筋トレしてるだけだろ! お前の言うことは、いちいち嫌らしいんだよ! ちょっとは我慢しろ!」


 慌てて、そうツッコミを入れる。


 彼女は肩を落として。


「分かりました……我慢します。ですが、焦りますね。こうしている間にも他の人は、さらに強くなっているというのに……」

「お前ほど頑張っている人間は、なかなかいないと思うけどな」

「わたしなんて、まだまだです。不測の事態が起こった際、ギル様をお守りすることが出来ません!」


 語気を強くして、言い放つリディア。


「そう言ってくれるのは、心強い。だが、不測の事態なんてそうそう起こったりしないぞ。ただでさえ、生徒会長に厄介ごとを押し付けられたところだし──」


 その時だった。




 ──ジリリリリリリリッ!




 けたたましいベルの音が鳴り響く。


「これは……緊急サイレン?」


 声を漏らす。


 急なサイレンの音に、教室にいたクラスメイトも身構える。少し遅れて、魔導スピーカーから声が流れてきた。



『──緊急事態、緊急事態。王都に向かう敵襲を発見。これは訓練ではないわ。よーく聞いてちょうだい』



 シャノンの声だ。

 俺を含め、周りにいる生徒は魔導スピーカーから流れる彼女の声に、耳を傾けていた。


『王都の騎士団が、現在対応中。だけど事態を重く見た王室は、この学園に特選メンバーの出動を要請した。学園側も王室の要求を受け入れ、本作戦の特選メンバーを結成することになったわ』

「特選メンバー?」


 リディアが首をひねる。


「ああ……そういや、入学前にそんなことを聞かされたな。学園側で優秀な生徒を選出して、騎士団や冒険者のお手伝いをする仕組みだったと思う」


 このアストリエル学園には、多くの優れた生徒たちが在籍している。

 中には学生の身分でありながら、シャノンのように一騎当千の兵とも成りうる人材も。

 そいつらを学生だからといって、勉強だけさせておくのは国の損失。

 そこで時たま、こうして王族からの発令で、出動を要請されることがある。


 国としては優秀な人材を使うことができ、学園側も生徒に貴重な経験を積ませることが出来る。

 それが特選メンバーの仕組み。


 ……だったはずだ。


 平和な日本で暮らしていたら馴染みが浅いが、戦いが日常に溶け込んでいる異世界ならではの仕組みだな。


 とはいえ。


「普通はこういうのって、三年生が選出されるもんだろ。一年生である俺たちには関係ないさ」

「なんだ……そうだったんですね。ギル様の活躍が、また見られると思いましたのに!」


 俺としては興味がなかったが、リディアはそうではないらしい。悔しそうに拳をぶんぶんと振った。


 ふう、やれやれ。急にサイレンが鳴ったから、ビックリしたぜ。

 シャノンも大変だな。生徒会長だからなのか、こんなこともやらされているなんて。


『じゃあ、特選メンバーを発表するわ。まず三年生から……』


 どこか人ごとのように、俺はシャノンの声を聞いていた──が。



『そして一年生。アルファクラス──ギル、リディア、ミラベル、アイリス……そしてクライヴの五人よ。この五人は今すぐ、学園のミーティングルームまで来なさい』



 彼女のその言葉を最後に、緊急放送は終わった。


 ……はあ?


「なんで俺が!?」


 思わず、その場で叫んでしまう。


「すごいですよ! 一年生なのに特選メンバーです! わたしも選ばれましたので、ギル様の活躍を間近で見ることが出来ますね!」

「喜べねー!」


 俺は面倒や厄介ごとが大嫌いなのだ!


 ……なんで一年生なのに、特選メンバーに選ばれたのかは心当たりがある。


「シャノンか……」


『面倒ごとを持ち込まないでくれ』って言ったのに、いきなり俺を巻き込みやがった。

『聞こえないふり』って、そういうことだったの!?


「しかもリディアとミラベル、アイリスまで……まあこれがシャノンの差金なら、分からんことはないが、どうしてクライヴまで?」


 クライヴは入学してから、特筆すべき結果を出していない。なのに特選メンバーに選ばれるのは違和感だった。


「ギル様、とにかくミーティングルームに急ぎましょう。遅れたら、あとでなにを言われるか分かりません」

「おっしゃる通りで!」


 リディアの言葉に俺は投げやりに答え、ミーティングルームに向かった。

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