第17話 メイドのマッサージ

「ふう……やっとこさ、一息吐けるな」


 色々あったが、無事に学生寮の自分の部屋まで戻ってこれた。


「ギル様、大活躍でしたものね! おかげで、わたしたちのチームも一位になりましたし! さすがです!」


 当然、リディアも一緒である。

 彼女は制服から、お馴染みのメイド服に着替えていた。


「がはは! そうだろ、そうだろ! 俺の活躍を崇めるがいい!」


 高笑いをする。


 ……とはいえ、俺も反省点が多い。


 まずは魔力量だな。

 イレギュラーなこともあったが、あの程度で魔力が尽きるとは我ながら情けない。


 体力面も課題だ。

 魔法に頼りきっては、戦略の幅が狭まる。

 学園には現時点でも俺より強いヤツ──たとえば、生徒会長とかがゴロゴロいるわけだし、これでは最強を名乗れない。


 と、脳内で一人反省会をしていたわけだが、リディアがそわそわしていることに気付く。


「どうした?」

「いえ……今日のわたしは、なにも出来なかったと思いまして。ギル様とミラベル様に頼りっぱなしでした」


 リディアなりにも反省点があるのか。

 しょんぼりと肩を落とした。


「なにを言うんだ。リディアだって、大活躍だったぞ? お前の探索魔法がなければ、クライヴとゴブリンキングの居場所が分からなかったわけだし」

「あの程度、大したことありません! そもそも、ギル様が助言をくれなければ、突き止めることは出来ませんでした。わたしはもっと強くならなければなりません。胸を張って、ギル様のメイドだと言えるように……!」


 ぐっと拳を握るリディア。


 短期間で、これほどまでに強くなったことを誇るべきだと思うが……彼女なりに色々考えているらしい。


「だったら、なにか? また(魔力を)ほしくなったのか? 悪いが、今日はパスだ。試験のせいで、魔力がすっからかんだ」

 と、肩をすくめる。


 するとリディアは、


「い、いえ! これ以上、ギル様の手を煩わせるわけにはいきません。甘美な響きですが……我慢します!」


 と顔の前で手をパタパタと振った。


 だったらなんだ……? そう思っていると、彼女は意を決する感じでこう続けた。


「今日はわたしがギル様に、ご奉仕します!」


「ご奉仕?」


 問いかけると、リディアは「はい!」と元気よく返事をして、捲し立てるように続ける。


「屋敷ではよくやってた、です! 今のわたしでは、ギル様のお力になれません。せめて、わたしのマッサージでギル様のお疲れを取りましょう」


 ああ……そのことか。

 学園に入学する前、誰よりも強くなるために俺は地獄の特訓を自分に強いていた。

 毎日が筋肉痛。辛い日々だったが、リディアがよくマッサージををしてくれたので乗り越えられた。


 彼女のマッサージは……なんというか、すごい。天にも昇る気持ちよさだ。


 彼女の指が、俺の胸や下半身に触れると、体中に電気が走るような感覚に囚われる。

 体中のコリがほぐされ、中の悪いものが一気に放出される。


 その時の気持ちよさが甦り、俺は無意識にごくりと唾を呑んだ。


「それは有り難い。だが……お前も疲れてるだろ? あまり無理強いはしたくないが……」

「いえいえ! 体力だけには自信がありますから! それにわたしも役得といいますか……」

 とリディアは頬を朱色に染めて、内股になる。


 ……そこまで言われれば、お言葉に甘えさせてもらおうじゃないか!


 リディアのマッサージを堪能させてもらおう。


「そうか。だったら、あー……」


 俺は制服の上着を脱ぎ、こう告げた。


「とりあえず、風呂に入ってくるわ」



 ──それからは、極上の時間であったことは言うまでもない。

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