第16話 試験の終わり

 試験終了。


 帰るまでにまたなにかあると思ったが、幸いにも魔物に遭遇することもなかった。俺たちを含め、他のチームが魔物を狩りまくったおかげだろう。


 学園に戻り、ゴブリンキングや反魔法協会のこともろもろ、マリエル先生に報告してから、俺たちはエントランスホールに向かった。


 既に一年アルファクラスの生徒たちは集まっており、まだかまだかと結果を待ち侘びていた。



「一位は……ギル君チーム! 175ポイント!」



 周囲にどよめきが起こる。


「やっぱ……中間結果のままだったか。まさかギル・フォルデストのチームが一位になるとはな」

「だが、ヤツのチームにはあのミラベルがいるんだぜ? 彼女のおかげだろう」

「たとえそうだとしても、この試験はチーム戦。大したものだよ」

「もしかして、ギル・フォルデストってすごい……?」


 みんなが口々に話をする。


 中には俺の評価をあらためる声もあったが、ほとんどは『ミラベルのおかげ』という内容に落ち着いている。

 まあ、こんなもんか。いきなり評判最悪の貴族が一位になったとしても、他に要因が考えるのが普通。

 たった一度だけで、評価が完全に逆転することは無理か。


「むーっ! みなさん、ギル様のすごさを分かっていません! ギル様のおかげで、ゴブリンキングにも簡単に勝てたのにっ!」

「分かるやつにだけ、分かればいいだろう。ギルのすごさは、私たちが一番分かっている。まあ……リディアの気持ちも理解出来るが」


 俺としては当然の反応だと思っていたが、リディアとミラベルの二人はそうじゃなかったらしい。

 周りの反応に不満そうだった。


「続けて、二位以下の発表もまとめていくよ〜」


 結果を発表していたマリエル先生が奥にある、巨大なスクリーンに視線を移した。


「みんな、自分の結果を確認して〜」


 そこに順位が表示される。


 これは魔導スクリーン。

 魔力で文字や映像を表示させる仕組みらしい。

 使いようによっては、リアルタイムで映像を表示することも出来るらしく、主に試験やイベントで利用されるとのことだった。

 使い魔や魔石といい、異世界には便利なものが揃っているな……。

 科学が前世ほど発達していない代わりに、こちらは魔法で一通りのことは出来るってわけか。


 ものに囲まれて生活していた前世のことを思い出し、少しノスタルジックな気持ちになった。


「まあ分かってたけど、俺たちの圧勝だったんだな」


 魔導スクリーンには二位以下のチームとポイントが載っていたが、二位ですら68ポイント。

 俺たちとは100ポイント以上の差がある。

 それでもマシな方で、平均点は30ポイント前後で落ち着いていた。


 そして注目すべき点がある。


「クライヴのチームは、やはり最下位のようだな」


 ミラベルがぼそっと呟く。


 十三位にはクライヴのチーム名が。

 ポイント数はたったの8ポイント。

 ブービーとも10ポイント以上の差が開いている。


「ぼ、僕たちが最下位……」

「まあ仕方ないって。そもそもアイリスたちは、それどころじゃなかったんだし」

「そうだぜ、クライヴ。試験の範囲外に行った懲罰で、0点にされなかっただけでも儲けもんだ」


 声のする方に視線を向けると、そこには愕然とするクライヴと、彼を慰めるチームメンバーの二人がいた。


「くっ……!」


 だが、クライヴはその声が聞こえていないのか、二人を見もしなかった。


 そして九十度顔の方向を変え、鬼のような形相で俺を睨んできた。


「まさかあの男、まだギル様になにか言い足りないんでしょうか?」

「ほおっておこう。ヤツもいつか気付くさ」


 リディアとミラベルも気付き、クライヴに呆れ果てているようだった。


 クライヴもこれで俺に敵わないと思って、白旗を上げてくれればいいんだけどな。


 とはいえ、相手はゲームの主人公。

 俺を逆恨みしているようだし、まだまだヤツからは目を離すことは出来ない。


「はいはい。納得のいかないチームもあるかもしれないけど、結果は覆せないわ〜。それに脱出の魔石を使ったチームも、一チームだけだったし。例年なら三分の一は途中で脱落になってたんだから〜。このクラスは優秀よ〜」


 パンパンと手を叩き、マリエル先生がみんなを労う。


「試験はこれで終わりだけど、みんなに伝えなければならないことがあるわ〜。一つは森の中で、C級魔物のゴブリンキングが出現したの。使い魔の行動範囲外に行っちゃえば、こっちも助けが遅れるから、今後は絶対にしないようにね〜」


 おい、軽いな。俺たちがいなければ、クライヴたちのチームが全滅していたかもしれないというのに。

 ゲームの都合という一言で済ますのも、考えものだ。


「そしてもう一つ。ギル君たちのチームから報告がありました。森の中に、反魔法協会の人が潜んでみたい〜」


 反魔法協会という単語を聞いて、みんなの顔に緊張が走る。

 みんなもヤツらの脅威を知っているからだろう。


「幸いにも、反魔法協会の構成員はギル君たちに危害を加えなかったけど、これは由々しき事態だわ〜。このことは上に報告させてもらうけど、みんなも気をつけてね〜」


 いまいち緊張感がない台詞であるが、それはおっとりしているマリエル先生の話しているからだろう。


「というわけで、今日は解散。みんなは真っ直ぐ、寮や自分の家に戻るように。また明日ね〜」


 そう言って、マリエル先生は俺たちの前を去っていった。


「疲れましたね、ギル様」

「全くだ。今日という一日が長く感じた。それにしても……反魔法協会って、テロ組織みたいなもんなんだろ? その割には、マリエル先生も随分あっさりしているように見えたんだが」

「そうか? 大体あんなものだぞ。それに反魔法協会だって、暇じゃない。たかが学園の一生徒である我々を、襲おうとお思わないだろう」


 俺に疑問に、ミラベルが答えた。

 それにしても、胸にしこりが残る。


「ま……いっか。今日はもう帰ろう。行くぞ、リディア」

「はい」


 歩き出し、リディアと共に学生寮に帰ろうとすると、


「待て、二人とも。行き先は同じように見えるが? 学生寮は男女で逆方向のはずだ」

「ああ。俺はリディアと同室なんだよ。だから同じ方向に歩いても、おかしくないだろ?」

「な、なにい!? 同室だと! や、やはり君たちはた、た、ただれた関係……! しかし! 部屋に女を連れ込むのは、学園規則で禁止されているのだぞ!?」

「そんなんじゃねえよ! リディアは俺のサポーターなんだ。だから許可されていて──」

「ふっふっふ、ミラベル様も気付かれましたか。そろそろ白状しなければ、ならなそうですね。そうです──わたしはギル様の。毎夜、たっぷりと可愛がられ……」

「なっ……!」

「だからリディアは変なことを言うんじゃねえよ!」


 これ以上ミラベルに追及されては、たまらん!

 リディアの手を取って逃げるようにその場を去った。

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