第13話 vs ゴブリンキング
いやー、焦ったね。
クライヴたちの逆転の一手は分かっていたが、肝心のゴブリンキングがどこにいるのか分からない。
ゲームの記憶を辿ってみるが、思い出せない。
そこで俺は一つの推論を立てた。
『ゴブリンキングは森の奥にいたんじゃ……?』
中間発表がされたように、この森はマリエル先生の使い魔であるカラスが巡回している。
そのためカラスが飛べる、範囲外に行ってはいけないと俺たち生徒は教えられるのだ。
『なるほど。マリエル先生の目の届かない範囲に、ゴブリンキングはいるというわけか。普通、ゴブリンキングがいたら実力試験など中止になるからな。ギル、考えたな』
ミラベルも感心してくれる。
『リディア、探索魔法は使えるか?』
『は、はい。ですが、ゴブリンキングのような見たことのない魔物の居場所を探るのは、難しいかもしれません……』
『なあに、ゴブリンキングじゃない。探るのは
昨日の一件で、クライヴの姿は教室にいる全員が見ている。
ゆえに見たことのないゴブリンキングより、探索が容易だと思ったのだ。
『はい、それなら……! ある程度範囲が絞れていますし、なんとかなりそうです。やってみますね』
そう言って、リディアが手をかざす。
数分の後、彼女は手をすっと下ろして。
『……分かりました! ギル様の言った通り、森の奥からクライヴ様の反応を感じます! それに魔物の反応も……!』
『リディア! ナイスだ!』
パチンと指を鳴らして、俺はリディアの頭を撫でる。
『はうぅ。ギル様になでなでされてる。あぁ……探索魔法を覚えたのは、このためだったと言っても過言ではありません』
すると彼女はとろけた声を上げ、嬉しそうに頬を緩めた。
『よし、行くぞ。クライヴたちに先を越される前にな』
そう宣言し、俺たちは三人で森の奥に向かって走り始めた。
うーん……それにしても、使い魔のカラスに行動範囲があるとするなら、マリエル先生はもっと対策をすべきだと思うが?
なにせ、万が一でも事故があってはいけないのだ。範囲外に出る生徒がいたら、その時点で止めるとか。
まあこの辺もゲーム設定の都合なんだろう。あまり細部を突き詰めては、ストーリーが動かなくなるからな。
そんなことを考えながら走っていると、既にゴブリンたちに襲われているクライヴたちを発見した──というわけだ。
「どんぴしゃだ! 君の言った通り、本当にゴブリンキングがいたとはな!」
「だから言っただろ? ミラベル、お前は周りのゴブリンを片付けてくれ。リディアはそのサポートに」
「はい!」
俺は二人に指示を出し、少し離れた地点で腰を抜かしているクライヴに視線をやる。
「あ、あ、あ……」
クライヴはまともに声を発せられない。
「自己紹介をしてなかったな。俺はクラスメイトのギルだ。悪いが、横入りさせてもらうぜ」
「こ、こんなはずじゃなかったんだ……
なにを言い出すかと思ったら、出てくる言葉は言い訳だ。そんなことを言う前に、もっとすべきことがあると思うが。
本来、ゲームでクライヴはミラベルとアイリスとチームを組み、ゴブリンキングを倒した。
ミラベルが合流した時点でゲームと同じ状況だから、俺はお役御免かもしれない。
しかしアイリスはゴブリンに襲われ、恐怖で身がすくんでしまっている。クライヴもこの調子だと、役に立ちそうにない。
なにより。
「原作主人公が活躍するシーンを……俺がわざわざ与えてやるわけがないよな!」
役立たずのクライヴから視線を外し、俺はゴブリンキングを見据える。
新たな敵が現れたためだろうか、先ほどまで戦う気のなかったゴブリンキングではあったが、今は俺に殺意を飛ばしていた。
「GUOOOO!」
「ふんっ」
雄叫びを上げるゴブリンキングに、すかさず毒剣の一閃を入れる。
しかし。
「GUOOOO!」
「む……」
ゴブリンキングの勢いは止まらず、持っていた棍棒を叩きつけてきた。
寸前で回避をするが、ゴブリンキングの動きが鈍った様子はない。即効性の毒だ。本来ならすぐに影響が現れてもおかしくないが……。
「ああ、そうか。毒無効だったか。ちっ……面倒だな」
ボスキャラお約束の、状態異常無効というやつだ。
となると、今のままでは火力が足りない。俺はまともな攻撃魔法を、ほとんど有していないからだ。
触手ごときではゴブリンキングに、簡単に振り払われそうだし……。
「となると、
そう呟いて、手をかざす。
ゴブリンキングが棍棒を振り上げるが、俺は焦らず、ヤツにある魔法をかけた。
ピタッ。
「ゴブリンキングが……動きを止めた?」
後ろから、クライヴの声が聞こえた。
棍棒が俺の脳天にぶちあたろうとした時、ゴブリンキングは静止した。
そしてピクッピクッと僅かに痙攣したかと思うと、くるっと方向を転換し、シモベであるはずのゴブリンに襲いかかっていった。
「ど、どうして!?」
ああ、もう……! さっきからクライヴの野郎、うっせえな!
実況役にしても、語彙力が貧弱すぎて、センスがなさすぎる!
ゴブリンキングの力は圧倒的だった。暴風のようにゴブリンを薙ぎ払っていく。
俺のことをよく知っているリディアはともかく、ミラベルは当初戸惑っていたが、すぐに気持ちを切り替えたのだろう。ゴブリンキングと共に、残りのゴブリンを倒していった。
「な、なんで……ゴブリンキングはゴブリンたちのボスなんだろ? 自分のシモベを倒す道理はないはずだ。それなのにどうして……」
「精神操作だ」
混乱しているクライヴに、優しい俺はそれを教えてやる。
ギルが使える『非道な魔法』の中に、相手の精神に干渉する魔法がある。
相手に自白を強要したり、行動を制限する精神魔法だ。
俺は今回それを使い、ゴブリンキングに味方であるゴブリンを攻撃しろと命令したわけだ。
俺の目論見通り、ゴブリンキングは正気を失い、次々とゴブリンを倒してくれる。
そして当然のようにゴブリンも錯乱した主人に抵抗する。
「くはは! 踊れ踊れ!」
指一本動かさずとも、潰しあってくれる両者の動きに、思わず邪悪な笑いが零れてしまった。
やがて精神操作されたゴブリンキング、さらにミラベルとリディアの力により周辺のゴブリンを狩り尽くした。
「あとは最後の仕上げだな」
魔力をさらに込める。
するとゴブリンキングは頭を抑え、悶え苦しみ始めた。
「GUOOOO!!」
そして精神が崩壊し、ゴブリンキングが悲痛な叫びを上げる。
「よし……ここまでくれば──よっと」
あらためて毒剣で、ゴブリンキングを一閃する。
ズシャアアアアンッッ!
死を予感させる痛みによって、ようやくゴブリンキングの精神操作が強制的に解かれた。
しかし既に遅かった。
毒は効かないが弱りきっていたゴブリンキングに、剣の一閃はダメ押しとなる。
ゴブリンキングはそのまま倒れ、絶命したのであった。
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