第11話 試験開始!
翌日。
予定通り、俺たちアルファクラスの実力試験が行われることになった。
場所は学園近くの森。
定期的に魔物を狩って間引きしているらしいが、不思議なことに狩っても狩っても無限にポップするらしい。
まあ、ここらへんはゲームの設定が引き継がれているんだろうな。
しかしこれ幸いと、よく生徒たちの試験や訓練に、この森は使われていた。
ゲームでも、この通称『始まりの森』はいいレベル上げの場所だった。まあ序盤でリタイアしたので、思い入れとかはないが。
というわけで、俺とリディア、ミラベルの三人で魔物を狩り続けていた。
「ギル! 右だ!」
「おう!」
ミラベルの声に反応し、俺は襲いかかってきた魔物のウルフを毒剣で一閃した。
毒剣で斬られたウルフは立ちあがろうとしたが、体内に毒が回っているためだろう、ふらふらと数歩進んだのちに倒れ伏せた。
「さすがだな、ギル。見事なお手前だ。参考になる」
「どうも」
周辺の魔物をあらかた狩り尽くし、俺は毒剣を消す。
「ギル様の剣捌きは、それこそ天下無双! それをわたしは、ずっと傍で見てきました! ギル様の強さは、このわたしがなによりも存じています!」
「お前はなにを張り合ってんだ」
ミラベルに対抗心を燃やすリディアの頭を、軽く小突いた。
「だけど、リディアもなかなかのもんだぞ。正直、短期間でここまで強くなるとは思っていなかった。魔法を上手く使いこなしているぞ」
「へへへ、ありがとうございます」
照れくさそうに頬を掻くリディア。
リディアは俺のように、所謂『非道な魔法』は使えない。
代わりに、火や水といった属性魔法を使うことが出来る。
『エターナルクエスト』は敵の弱点属性をつくことが、重要になってくるゲームだ。
そのため多種多様な属性魔法を使える魔導士は、重宝される……と攻略wikiに書いてあった気がする。
ゲームでも同じ設定なのかは分からないが……このまま強くなっていくと、リディアは頼もしい戦力となりそうだ。
「これも、ギル様に毎日
「ほお、そんなことをしているのか?」
ミラベルが興味深そうに問いかける。
「はい。最早、わたしはギル様に夢中です。毎夜激しい運動により、体の隅々まで見られ、もうギル様なしでは生きられない体に……」
「ちょ──っ」
「体の隅々までだと!? 君たちはどのような特訓をしているのだ!」
リディアが変なことを口走る前に止めようとしたが、少し遅かった。
ミラベルがリディアの言ったことに顔を真っ赤にし、俺を問い詰める。
「ご、誤解だ。変なことはしていない」
「ならば、具体的な内容について聞いても困らないな? なにをしている!」
「そ、それは……(魔力を)入れたり……」
「い、い、入れたり!? やはり破廉恥なことか! 君たちの関係に口を挟むつもりはないが、私たちはまだ学生だぞ? 節度ある行動をだな──」
俺が言葉足らずだったせいで、ますますミラベルを誤解させてしまっている。
ミラベルに迫られ、もみくちゃにになりながら転倒してしまう。そのせいで、ろくに弁明でも出来ずにいると……
『注目! 注目! 試験の中間発表だ!』
甲高い声が周囲に響き渡った。
体勢を起こし見上げると、木々の切れ間から黒いカラスが羽ばたいているのが確認出来た。
カラスは空中でその場を旋回しながら、こう続ける。
『一位は……ギルチーム! なんと52ポイントだ。二位はガッツチーム、40ポイント。三位は……』
三位、四位……とカラスが現時点での実力試験の結果を、発表していく。
しかしほとんどが、20ポイント前後といったところ。俺たちの52ポイントは圧倒的だった。
「あのカラス、なんなんでしょう?」
「マリエル先生の使い魔じゃねえかな。どうやら使い魔を通して、空から俺たちを見守ってくれていたらしい」
質問を発したリディアに、そう答えてあげる。
とはいえ、マリエル先生一人だけで俺たちがどんな魔物をどれだけ倒したのかを記録することは不可能だ。
そこで俺たちには一つ一個、魔石を持たされている。
魔物を狩ると、自動的にポイントがこの魔石に加算されていく仕組みらしい。使い魔のカラス以外にも、マリエル先生は魔石を通して生徒たちの結果を把握している。
さらにこの魔石は、生徒が危なくなった際の緊急脱出の役割も備えている。
この森にいくら弱い魔物しか棲息していないといっても、入学して間もない生徒を戦わせることは危険だからな。
もし身の危険を感じた場合、この魔石に魔力を込めれば、森の出口まで転移することが出来る。
だが──当然だが──魔石を使い離脱したチームは、その時点で失格。現時点でのポイントが最終結果となる。
これがこの試験のルールだ。
「さすがはアストリエル学園。使い魔にしろ魔石にしろ、かなり高価なはずだ。それを実力試験のために、用意出来るとはな」
「まあ……そこは貴族が多いメリットだろ」
と、ミラベルに言う。
まあ、こういう細かいところもゲームの設定に引っ張られているんだろう。魔法って便利だよね。
こうしている間にも、カラスは淡々と結果を発表し続けていたが、とうとう最後に差しかかかった。
『十三位は……クライヴチーム、2点! 以上! まだ実力試験は折り返し地点だ! 上位は気を引き締めて、下位は諦めずに最後まで試験をやりやがれ!』
そう言い残し、カラスはどこかに飛び去ってしまった。
「クライヴ……あの平民がいるチームか。上位は厳しいと思っていたが……まさか最下位だとはな」
「ギル様は驚いておられないんですね。予想していました?」
「んー? まあ、なんとなく……な」
実際、ゲームでもクライヴのチームは中間発表の時点で、最下位だった。
とはいえ、ゲームでその結果になったのもギルの妨害があったからだ。
妨害なしで最下位なのは意外かもしれないが……あっちは本来いるはずのミラベルがチームにいない。その影響がもろに出てしまったのかもしれない。
「しかし、今のところ私たちが一位だというのは朗報だ」
「すごいです! 全部、ギル様のおかげですよ! ギル様は魔物を狩りまくってくれるおかげです!」
ミラベルとリディアも中間発表を聞き、表情に僅かな油断が見え隠れしていた。
確かに、俺たちのチームは一位。二位とも10ポイント以上も離れている。ここから他チームが逆転することは難しいだろう。
だが、この先の展開を知っている俺は油断が出来ない。
「まあ、俺はそもそも一位じゃなくてもいいんだが……二人とも、まだ気は抜けないぞ」
俺は二人に言う。
「忘れたのか? この試験では、強い魔物を狩れば狩るほど、ポイントが高くなる」
「忘れていないさ。だが、この森にいる魔物はボアやウルフといった弱いものばかりだ。実際、私たちが遭遇した魔物もそうだった。必然と討伐数の戦いになると思うが……」
「違うな」
ミラベルの言っていることは、ごもっともなことである。
現に他のチームも、同じことを考えているだろう。
だが、この森にはゲームでいうところの『ボスキャラ』が潜んでいた。
「一体だけ大物がいるんだ。そいつを他のヤツらに狩られれば、たとえそれが最下位のクライヴチームだったとしても一気に捲られちまう」
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