第10話 騎士の卵はツンデレ気質だったらしい

 ……。


 あー! 実力試験!


 そういや、ゲーム序盤にそんなイベントがありやがったな!


 ──生徒たちの実力を測るために行われる、入学早々の実力試験。

 内容は三人でチームを組み、学園近くの森で魔物を狩ることである。


 魔物にはそれぞれポイントが定められており、強い魔物ほどポイントが高くなっていく。


 そういやさっき、クライヴのイジめに加担するように言ったあの男どもは、ゲームでギルとチームを組んでいた連中だったな……。


 ゲームでは詳しく描写されていなかったが、ギルがチームを組む際にさっきのようなやり取りがあったのだろう。

 ゲーム内のギルはヤツらの誘いに乗ったんだろうが、俺は断った。これがどんな影響を生むのか……。


「その様子だとやはり、ちゃんと聞いていなかったようだな。実力試験の内容は知っているか?」

「ええ、知っていますとも……」


 実力試験でなにが起こるのかということも……な。


「ギル様、当然わたしはチームに加えてもらえるのですね!? ダメだと言っても、すがりついてでも付いていきますから!」

「断るわけないさ。リディア、俺のチームに入ってくれ」

「もちろんです!」


 リディアはパッと表情を明るくする。


 そもそも、三人一組のチームを作ることも至難の業なのだ。

 他の生徒なら適当に誘ったら可能だろうが、なにせこのギル。入学式の一件から分かる通り、評判が最悪だ。

 こんな俺とチームを組みたいというヤツも現れないだろう。

 そういう意味では、リディアは貴重な頭数の一人なのである。


 しかし彼女を加えても、まだ二人。


 あと一人……俺とチームを組んでくれるヤツはいるのか? 声をかけても、断られそうな気がする。


 あれ? 俺、いきなり詰んだ?


「…………」


 内心焦っていると、ミラベルが露骨にそわそわしだした。


「どうした?」

「いや、なに……もしまだ、チームメンバーが決まっていないというなら……」


 ミラベルは少し躊躇していたようだが、やがて意を決したように、こう口を動かした。



「私も、君たちのチームに入れてくれないか?」



 ……!?

 ミラベルが俺たちのチームに……?


「いや、だって……ミラベルはクライヴとチームを組むんじゃなかったのか?」

「はあ? なにを言っている。そんな予定はない」


 きっぱりと断言するミラベル。


 ゲームでは、ミラベルとクライヴ、そしてもう一人クラスメイトの女の子とチームを組んでいた。

 そこでクライヴたちは試験中で、とある偉業を成し遂げるわけだが……そのことが印象深かったので、てっきりミラベルは彼のチームだと思っていた。


「なにを企んでいる?」

「企む? ギル・フォルデストは先ほどから、変なことばかり言うな。そんなに私がチームに入ることが嫌なのか?」

「そうじゃない。昨日、あんなに俺に敵意を向けていたのに、気が変わるのが早いと思っただけだ。怪訝に思うのも仕方ないだろう」

「うむ……」


 ミラベルに厳しい視線を向けると、彼女は拳を強く握ってこう続けた。


「私は昨日の行いを恥じたのだ。私は本質を見ていなかったのではないか……と。君に打ち負かされて、目が覚めたよ。私ももっと強くならなければならない……そのためには、君の傍にいるのが一番勉強になる」


 ……なるほど。

 こいつなりに色々考えているようだ。


「……分かった。どちらにせよ、チームメンバーを探すのに困っていたところだ。お前がいいって言うなら、こっちこそお願いしたい」

「本当か!? ありがとう!」


 ミラベルは一転、表情を明るくして俺の両手を包み込むように握る。



 ──ち、近いっ!



 さすがはゲームヒロイン。ビジュアルは一級品。

 前世で非モテをこじらせていた俺としては、こんな美少女が接近するだけで、どぎまぎしてしまう。


「リディアもいいか?」

「はい。ギル様が言うなら、わたしが反対する理由はありません!」


 リディアもミラベルとチームを組むことに賛成なようである。


「重ね重ね、ありがとう。ギル・フォルデストの寛大な心に感謝する」

「ああ、そうそう……」


 彼女の目を見ながら、俺はこう口を動かす。


「その、『ギル・フォルデスト』っていう呼び方はやめてもらえないか?」

「どうしてだ?」

「お前の丁寧な性格は分かった。だが、いちいち家名まで呼んで、長ったらしいんだよ。これからは『ギル』とでも呼んでもらいたい」

「……っ!」


 俺としては当たり前のことを言ったつもりだが、何故かミラベルは見る見るうちに狼狽しだした。


「そ、そんな恋人同士みたいな……っ! 君の実力は認めたつもりだが、体まで許したわけじゃないぞ!」

「なんでそこまで話が飛躍する!? 名前を短く呼べって言ってるだけだろうが!」

「し、しかし……」

「お前は試験中にも、そんな長ったらしい名前で俺を呼ぶつもりか? その間に魔物にやられてしまうかもしれないぞ。合理的な理由からも、短く呼ぶべきだ」

「……分かった」


 強情なミラベルであったが、やがて首を縦に振り、震えた声でこう言う。


「ギ、ギ、ギル、よろしく頼む。これでいいか?」

「上出来だ」


 笑みを浮かべる。


 本当はゲームPVの『ギル・フォルデスト! 貴様を断罪する!』という、彼女の台詞が頭をよぎるのが嫌なだけだったが、そんなことを言っても納得してくれるわけがない。


「よし、とりあえず俺とリディア、ミラベルでチームメンバーは決定だな。目標は……『そこそこ頑張る』でいいか。クライヴのチームには勝っときたいが」

「なにを言っているんだ。どうせやるなら、このクラスで一番を取ろう! 私たちの力を見せつけてやるのだ!」


 やる気がない俺の一方、ミラベルはギラギラと情熱を燃やしていた。


 さあて……昨日に続き、またゲームと違った展開になるわけだが、果たしてどうなることやら。

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