第4話 入学式
異世界に転生して、半年後。
とうとう俺が学園に入学する日を迎えた。
本格的な破滅イベントが始まるまで、俺は徹底的に自分の体と魔法を鍛え上げた。
そのおかげで、ちょっとやそこらの相手じゃ負けないようになったと思う。
まあ相変わらず、非道な魔法しか使えないけどな!
というわけで、学園の入学式が終わったところだが……。
「あーあ、退屈だったな。生徒会長を見られると思ったら、特選メンバーだかに選ばれて、入学式は不参加だし。学園長のヤツも長々と面白くない話をしやがる。『学園の生徒として、ふさわしい行動を心がけるように』? それで破滅を回避出来たら、苦労はしねえよ!」
入学式が行われた大講堂を出て、俺は悪態を吐いていた。
──レガディア王国、王都。
そこに設立され、俺がこれから通うことになるのが、ここアストリエル学園だ。
騎士や魔導士を目指したり、将来の官僚候補が入学してくることになる由緒正しき名門。
俺の実家からは離れているので、今日から学園に用意された学生寮で生活していくことになるが……親父や兄弟の顔を見なくなって、せいせいする。あいつらとはもう顔を合わせたくない。
国で最も大きい学園ということもあって、立派な建物や設備が揃っている。こうして正門まで歩くまでの並木道もキレイだし、そこらへんを歩く生徒も洗練されている気がする。
多くの貴族からの寄付によって成り立っているらしいが……これは十六歳になった貴族は、必ずこの学園に入学するルールがあるからだ。
必然的に貴族は嫌でもここに入学することになるが、平民に限ってはそうではない。厳しい入学テストを受けて、狭い門を潜り抜けなければここアストリエル学園には入れない。
『エターナルクエスト』の主人公クライヴもその一人なんだが、原作と違う部分もあった。
それは……。
「本当に退屈でしたね。ま、わたしはギル様の横顔を眺めていたので、ほとんど話を聞いていませんでしたが」
隣を歩く女の子──リディアがそう答える。
リディアは平民出身。
俺の専属メイドであるが、彼女はアストリエル学園の入学テストを突破し、俺と共に通学することになった。
リディアまで来る必要はなかったが……彼女は『ギル様と離れ離れになるなんて、絶対に嫌です!』と言って、テスト勉強を頑張っていたことを思い出せる。
どうしてそこまでしてくれるのか──ってか、日に日にリディアの俺を見る視線が熱っぽくなっているのに気付いていたが、怖いので聞いたりしなかった。
「ほんと……どうなっていることやら」
ゲームではリディアが、学園に入学してくるイベントなんて起こらなかったはずだ。
ギルはよくも悪くも印象に残るキャラだ。そんな彼の専属メイドとなったら、嫌でも記憶に残っているはずだが……それもない。
まあ俺のよき理解者であるリディアが一緒に来てくれるのは、正直心強い。
まだ異世界に転生して、まだそこまで経っていないからな。この世界について知らないことはまだまだあるし、リディアがいてくれるのはマイナスに働かないはずだ。
「ギル様、なにか言いました?」
「こっちの話だ。そんなことより、さっさと寮に行こうぜ。学園長のつまらない話を聞き続けて、さすがに疲れた」
幸いにも今日は入学式だけで、授業はない。
俺は学生寮がある方角に、歩き続けていると……。
「おい、あれ……ギルじゃね?」
「ああ……フォルデスト家の落ちこぼれだとかいう」
「しかも噂によると、非道な魔法を使うらしいぞ。全く、貴族の風上にも置けない」
「あの隣にいる女の子、ちょっと……というか、かなり可愛いけどギルの愛妾か?」
「ギル・フォルデストの女好きは有名だからな。ちくしょう……羨ましい!」
──なんて周りの声が、ちらほら耳に入った。
「俺、やっぱ嫌われているみたいだな」
しかしそれもしょうがない。
今までギルのやってきたことがやってきたことだ。
彼の悪評は他の貴族の耳にも届いているだろうし、陰口を叩かれるのも納得がいく。
「みなさん、ギル様のことをよく知らないくせに、悪く言って……! どうされますか? ギル様。処しましょうか?」
「おいおい、物騒なことを言うなって」
今にも食ってかかりそうなリディアの頭を、ポンポンと叩いて宥める。
「こういうことを言われるのには、慣れている。その度にいちいち反応してちゃ、キリがないだろ?」
「で、ですが……!」
「リディアがそうやって怒ってくれるだけで、
そう言って、リディアの頭を撫でる。
すると彼女の口から「ほ、ほわぁ……」腑抜けた声が漏れて、目が『♡』になった。
……そう。俺は破滅を回避したいだけ。そのために今まで、厳しい特訓にも耐えてきた。
なのに、ここでゲームのギルみたいに他の貴族に喧嘩を売ったら、どうなる? 悪目立ちするだけだ。
不必要なフラグを乱立させる必要はない。
というわけで、周りでヒソヒソと言われる悪口を聞き流し、学生寮に向かうと、
「止まれっっっっ! 貴様があの悪名高き、ギル・フォルデストか!!」
女の声が響き渡った。
──この時の俺はまだ甘く考えていた。
破滅フラグがそこら中に転がっていることを──。
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