第20話 ラプナール城の血浴(4)
窓を突き破って王宮の大広間に入ってきたリベルラゼノクをチェンロップが紹介すると、それまで唖然としていたメクスワン王は色めき立ってこの重臣を問い詰めた。
「何の真似じゃ。チェンロップ!」
「お慌てなされるな。国王陛下。お見せしたかったものとはこの魔人のことではない。彼が北の戦地から携えてきた手土産の方じゃ」
リベルラゼノクは大きく両腕を振るい、掴んでいた三つの物体――人間の遺体を部屋の中央へと投げ込んだ。鎧を着たまま仰向けに床の絨毯の上に転がったその三人の死者たちの顔を見て、ピムナレットが愕然とする。
「兄上! それにセタウットとプラシットも……!」
それはゾフカール軍との戦いのために出陣していた、アピワットら三人の王子たちの亡骸であった。戦死した彼らをリベルラゼノクは空を飛んでここまで運び、父であるメクスワンらの眼前に突きつけて見せたのである。
「おのれ……さてはゾフカールと組んで謀叛に及んだか。チェンロップ!」
「ご覧の通りの反乱でございます。陛下」
悪びれもせず哂うチェンロップを前に、息子たちを殺された王は怒りで手をわなわなと震わせる。ピムナレットは素早く我に返り、反逆者を始末するようその場にいる傭兵たちに命じた。
「何をしているのです? 早くこの者を討ち果たしなさい。ヤスシゲ」
命令を受けた康繁と配下のサムライたちは王女の言葉を無視し、逆にチェンロップを守るように彼の周囲を固める。彼らの姿を見せつけるように両手を広げて、チェンロップは勝ち誇った。
「残念ながらミズナの傭兵どもは私の側に付きました。つい先日までは味方に取り込むのに難儀しておりましたが、昨日の密談で出た話を彼らに伝えたところ、多くの者が怒って態度を一変させましたよ」
「貴様……それで敢えて黙っておったのだな」
普段なら熱弁を振るってサムライたちを擁護するはずのチェンロップが発言を控え、彼らを処分すべきだという方向に議論が流れるのをただ傍観していたのはその方が反乱には好都合だったからである。信頼の置ける忠臣のみを集めて密議を図ったつもりのメクスワンだったが、チェンロップの腹の底を見抜けず彼をその中に加えたのは痛恨の失敗であった。
「もはや後悔しても手遅れというもの。陛下のご命運もこれまでです。……ヤスシゲ、殺れ!」
「お任せを。――
呪文を唱えた康繁の体内から妖しい銀色の光が噴き上がり、それが収斂して半魚人のような怪物型の装甲を形成する。それは昨日の奴隷商人退治の際に彼らが交戦したスコンベルゼノクの姿によく似ていたが、
「報いだ。我らサムライを裏切り、粛清を企てた愚かなこの国の支配者どもを血祭りに上げる!」
口の銃、そして右手の甲から生え出た銃剣の先端から、トキソテスゼノクは青い光の弾丸を四方八方に向けて連射する。あちこちで爆発が起こって盃や酒瓶や食卓が砕け、晩餐が開かれていた大広間はたちまち阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
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